カラスの意趣返し
軍がひっくり返したの古代魔法の叡智が詰まった遺跡だった。
それを聞きつけた父が、古代魔法は足を踏み入れただけで発動する危険な魔術もあるからといい嘘を並べておいてくれたため、そこは閉鎖され、そして、調査兵もいないそうだ。
「……」
そして、私は夜、父の部下数名を連れて遺跡の中に踏み入れた。
「あの……、ウィルフレッドさま」
困惑した声を出す部下の魔術師、レオンさんがこわごわとあたりを見回した。金色の髪を一つに束ねて、いかにも魔術師らしい線の細い男だ。
「なんです?」
振り返ると彼は、寒さにか身震いをしていた。
「本当に入って大丈夫なんですか?」
震えているのは怖かったのか。ため息をついて私は、近くの石ころを拾った。
「ええ。父の言ったことはすべて嘘ですから」
「は?」
「入っただけで人がぶっ飛ぶなんて危ないもの、これほど栄えた町に設置するわけないでしょうが。古代文明は我々よりはるかに栄えた文明ですよ? そこらへんはきっちりしています」
「でも、師団長はっ!」
「だから、この遺跡に必要ない人間を近づかせないための方便です」
そういって持っていた石ころを適当に投げる。何もないことを確認させるためだ。
「じゃあなんで……」
「そりゃ、この技術を外に出したくないからですよ」
食い下がる彼に言って、先へ進んでいく。魔術師一人と魔法騎士二人。私を含めないでこの編成だ。父もよく考えている。
「遺跡ですから、合成獣がいます。気をつけてくださいね。各自、自分の身は自分で守るように」
とはいっても、手ぶらなのは私だけ。ばかにするなと言いたげな魔法騎士二人に、鼻で笑って見せて指さした。
「右、着てますよ」
気配すら取れなかったらしい。右側にいた魔法騎士が吹っ飛ばされ、それに気づいた左側の騎士が飛び退く。
「うひゃあっ!」
レオンさんは、おそらく戦闘向きではないのだろう。私の影に隠れた。
「そこでじっとしていてくださいね」
猿型の合成獣だ。機械仕掛けで首をはねても動く。動力源は腹のちょうど人で言う肝臓の位置。
「右の腹を狙ってください!」
いつの間にか囲まれていた。まだ、力を使いたくはない。
私は、右手に寄り付かせておいた剣を召喚して構えた。
「ウィルフレッドさまっ!」
「大丈夫です。これぐらい、修羅場じゃありませんよ。ね? 魔法騎士さん?」
「ったりめえだ!」
力のあらん限りで撲殺を繰り返すバーナードよりもはるかにたくましいスキンヘッドの男はメイスを担いでぎろりとにらんだ。
「まひの魔法を」
「いえ、魔法は効きませんよ。一部の支配魔法は核があれば効きますが、これはないモデルだ。いうこと聞かなければ叩き潰す。今は……」
「ぶっ潰すか」
「ええ。よろしくお願いします」
吹っ飛ばされた彼も復活して、メイスの旦那と、一緒に、ぼこぼこと盾のような剣を振り回して、その飛び散った破片や、弱いと認識されて彼らの手からすり抜けたバカ猿たちを始末していた。




