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カラスとセイレーン  作者: 真川紅美
花火と夜空と小鳥とカラス
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花火と夜空と小鳥とカラス

リア充と爆発を書いたったwww

 町並みは小さな細工が施された魔法灯で煌びやかに彩られている。

「イレーニャ、はぐれますよ」

 私はイレーニャを連れて町に出ていた。

 本来の目的は潜入警邏。つまりは群衆に紛れてすりや窃盗を取り締まろうということで、もう何人も検挙できたらしい。

 まあ任務を忘れないように、と軽い禁呪を使って拘束しながらも、隊員を自由行動にしていた。

 禁呪で禁じたのは飲酒とちょめちょめしに宿に入ること。

 聖夜とされるこの夜は、別名性夜とも呼ばれるぐらい宿が大儲かりするらしい。


 今日は、この世界に初めて神の御子が降り立った記念日。

 それを祝して、この国では各地でお祝いの祭りが開かれている。盛大に開かれる大きな町にわざわざ旅行や旅しに行く物好きも要るぐらいだ。

 今年は、特に記念すべき年でもあるから、どこも大きく開かれている。

「あ、マスター、あれ!」

「ああ、ツリーですね。てっぺんまで飛んであの星をとっちゃだめですからね」

「ま、やりませんよ! もうっ」

 むくれる彼女の顔を見てふっと吹き出してしまった。

 彼女は、私が選んだ白いもこもこの服を着て、言うならば、冬毛に生え変わりした雀みたいにもふっとしている。それでも太って見えないのは、彼女が単に細すぎるのだ。

 一週間ぶりの外を見回して、楽しげに魔法具でできた小さな灯りの群れを見て、指さして歩く群衆に、私はふっと笑っていた。そして、イレーニャが指した広場に置いてあるツリーのてっぺんを見て目を細める。

 ちょうど、彼女を拾ったぐらいだろうか。

 制服姿でだが、彼女と、ほかの街の同じようなイルミネーションの施された町を歩いて、マスター、きらきらですーなんてツリーのてっぺんに飾られていた星の飾りをとってきたのだった。

 さすがに、騒ぎを起こすわけにもいかない、学校に連絡を恐れた私は、とっとと返しに行って来いと、家に逃げたのだった。

 それでも連絡が行ってしまってイレーニャの目の前でこってり絞られて、なおかつかなりの課題を与えられて死にかけた。

 さすがにその一件で彼女は勝手な行動を慎むようになってくれたので、不幸中の幸いでしたが、一週間寝込んだことは忘れませんからね。

「にしても見事ですねえ。我ながら」

「え?」

「あ、言ってませんでしたか? 最近工房にこもりきりだったのは、この魔法灯を作るためだったんです。私は、一応無属性の魔力だから、透明な光を放つ魔法灯を作ったんですよ」

 色とりどりの光を放つ小さな魔法灯の飾りの、透明な光を放つものを指で軽くはじいてイレーニャに説明する。

 指先に乗るほどの小ささに切って研磨して、光る細工をペンより細い針で一つ一つ刻む作業はさすがに骨が折れた。

 さすがにつないで光らせる動力源になる魔晶石につなげる作業までは手伝えなかったが、これだけの数と長さだ。彼らのほうが骨が折れただろう。

「え? マスターが?」

「今夜もお仕置きしてほしいんですか?」

 マスター呼ばわりはもうやめてくださいといっているのに、連呼する彼女にさすがに言うと、ぴよっとアホ毛が立つ。

 もう、この子は……。

「あ、いや……、ウィルが、つくたんですか?」

 なんだかおかしいような気がするが、真っ赤になってプルプル震えている彼女をいじめるのも気が引ける。アホ毛を元に戻すように頭を撫でてやって肩をすくめた。

「今年だけ手伝ったんです。戦争で、人手が足りなくなってしまったらしくて、砦のほうに行ったんですが、まあ、あの筋肉お化けたちにはそんな細やかな作業ができるわけもなくね。私に回ってきて、だから、先週一週間、納期まで仕事を休んでずっと工房にこもっていたんですよ」

 町並みを彩る魔法灯に目を細めてみる。無属性は稀少なのだ。それが戦争で失われてしまった、ということは嘆かわしい。それに、これだけの魔法灯を作れるのは、この町の技術者ぐらいらしい。

「そうだったんですかー。きれい」

 きらきらと光る灯りにふふと笑う彼女に、私はその肩を抱いて町の広場へとむかう。

 おそらく、ドラゴンの背丈、五階建ての宿屋二つ分、三つ分だろうか、それぐらい大きい木に見事に装飾がなされているものが、ドンと広場の真ん中に置いてある。

「マスター! 天使様!」

「ああ、あれは、魔術ですね。簡単な魔術を封じた魔晶石を置いておいて、時間差で発動させているものですね。そういう細工もありですねえ」

 人のアイディアは、時に参考になる。

 町を練り歩いて、魔術師ギルドの精鋭たちが作り上げた見事な魔術細工を見て回り、そして、日が暮れるのを待った。

「イレーニャ、少し飛びますよ」

「え? どこにですか?」

「城壁です。魔法騎士がそこらへんにたむろしているのは混乱を避けるためです。まあ、一応、告知はしてあって周知のことですが……」

「なんのことです?」

「今日は、今代の神の御子の伝えたハナビなる火細工が打ち上げられるんですよ」

「ハナビ?」

「火が華のように開くのです。一度エルフの里で打ち上げてもらいましたが、見事なものでした」

 懐中時計で時間を見て暗くなったのを確認して、合図を上げる。城壁に沿うように魔術を走らせながら、彼女を抱いて飛び上がり、城壁の上に降り立つ。

「さあさあ皆さんお待ちかね! 御子の生誕を祝い、うち上がるのは火焔の華。今代の御子の伝えし御業。古代に廃れし砲台の業をとくと御覧じろ!」

 よく通る声で謡うように言ったのは、普段は命令の伝達役として活躍する男。

 演出として私の覚えている古代人の貴族の恰好をさせている。砲台に待機している男たちも皆そうだ。

「これ……」

「仮面を脱いだら魔法騎士の男たちです。あれぐらい変な仮面でもつけていないと近くに寄ってもらえないぐらいかわいそうな奴らです」

 群衆の大体の注目がこちらに向いたのを察して、謡っていた男が私を見た。私は片手をあげて応じる。

 それが伝達される。同時に砲台が点火される。私は魔術を展開させてすべての支配を得る。

「マスター?」

「これは古代の道具です。私が一度支配に入らないと、使い物になりませんので」

 そういって、彼らの魔力を絡めて支配権を一時的に彼らに預ける。

 そして、砲台から順繰りに打ち上げられる、腹に響く爆発音とともに、花火玉、と御子が言っていたものがうち上がり、空を切る音。

 そして、ある程度の高さに上がったとき、もう一度爆発音が響いて――。

一応、クリスマスの企画ものというていで。

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