ニート初出勤
「さて、手始めに、街中にはびこる黒魔術師の摘発と行きましょうかね。バーナード」
「……げっ。また沸いてきたのか?」
「ええ。どこからともなく来訪する黒光りする例の昆虫のごとくね」
にやりと笑うと、状況を察したバーナードが間抜けな声を上げた隊員に、隊長に説明している。ここでドンパチして怒られるぐらいならば、街中で派手にやったほうが楽しいでしょう?
「ほ、ほどほどにな」
完璧になった状態の私の魔力に怯えているらしい隊長が気弱な声を上げている。ただ、大半の連中は魔力が見えていないらしく、首を傾げている。
「黒魔術師はかわいそうじゃねえか?」
「いえ。私からすれば、Gですね」
「……」
所詮モグリの雑魚連中なんてそんなものです。
呼び出しておいたグリフォンを私たちがいる砦の中庭に下ろして乗り込む。
「俺たちは……?」
「支配できる魔力がある方はこちらに、支配式を移します」
といっても分からないだろう。バーナードに目を向けると、肩をすくめた。
「自己紹介がまだだったな」
「今一発で名前を覚える気はありません。バーナード」
「へいへい。ロイ、アラン、ギルにシャド、リランにドータス、あと、それらと同じぐらいかそれ以上の魔力を持っている奴、自分でわかんだろ。来い」
「はっ」
と、ぞろぞろと筋肉達磨たちが私を取り囲む。普通にそこらの暴漢に取り囲まれた時よりいろいろな意味で危機を感じるのはなぜでしょうか。
「ここに手を突っ込んでください」
とりあえず、グリフォンの支配に使う魔法陣を移して掌に刻むために用意をした術を展開して球を作る。
「俺もか?」
「お前は、飯にするかもしれませんのでだめです」
「おいしそうなのに……」
「食い意地も大概にしてくださいね」
食べたいならほかのものを食べさせて差し上げますよとロッドを差し出すと首をプルプルと震わせ始めた。いわんこっちゃない。
「これで?」
「ええあと、魔力を通わせて見せてください」
さすが魔法騎士。なじみが早い。右手や左手、自分の掌に刻まれた目に見えない魔法陣が、魔力を通わせたとたん光り、その複雑な文様をあらわにする。
「すげえ……」
「これが私の研究結果です。もともと古代の魔法についての研究をしているものでしてね」
「危なくねえんだろうな?」
「当り前です。私にもありますよ」
そういって手甲を外して手の甲を見せる。掌は別の術式が刻んである。
「あ、こいつ、全身いたるところに術式刻んでるオタクだからな」
「失敬な。人にも使えるかどうかを身をもって体験しているといいなさい」
「あー、そーだったな」
むかつくほど間延びした口調のバーナードにロッドの先端を食らわせて、唖然としている彼らに説明をする。
「まったく……。で、通わせた状態で、呼び出して見てください。これは面倒な使役の術式ではないので、すぐに使えますが……」
「が?」
「あんまり彼らの意志に反して使おうとすると殺されますから」
「どういうことだよそれ」
「もともと、この術式は精霊の支配に使う術式を魔獣にも使えるように応用したものです。精霊は自身が望まないことには力を貸してくれないでしょう? だから、その影響が残っているようです。まだ、改良の余地があるといえばそうですが」
「なんでしねえんだよ」
「してしまえば人は悪用します。完全に支配下に置ければ、生き物を道具にすることになります」
「……」
無言になって神妙な顔をしたのは心当たりがあるからか、それとも、そうした取り締まりをしたことがあるからか。バーナードもうんうんとうなずいている。
「それだけは絶対してはなりません。彼らだって、いろんな意志を持っている。個体によっては人の言葉や心までも解することもできる。わけのわからない命令をする主に仕えたいですか? 無理やり、服従を余儀なくされるとしたらどう思います?」
「……いやだ」
「そういうことです。最終決定は彼らに残しておく。理不尽なことでなければ、彼らは従ってくれますよ」
さて、行きましょうと彼らを促してグリフォンに乗り込む。彼らも呼び出して、相棒となるグリフォンたちにそれぞれ挨拶して、組になって二、三人で乗り込む。もちろん、私の後ろはバーナード。
「久しぶりだな。お前の後ろに乗るの」
「もっぱら私があなたに乗りますからね」
「かーらぁーすー! どこいくのー!」
のんきなその声に全員がげらげらと笑う。
おや、命知らずがたくさんいますねえ。まあいいでしょう。
後ろにいるバーナードに八つ当たりしながら、グリフォンに乗って空を翔けはじめた私は久しぶりの討伐任務、ひいては、初任務へと向かうのだった。
からすのかってでしょー




