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カラスとセイレーン  作者: 真川紅美
ニート初出勤
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ニート初出勤

「剣の腕は、これと互角ぐらい。まあ、でも、組手なんてもう何年もしてませんがね」

 さっきの振り抜きで察してくれただろうか。それでもというのであれば、ワンちゃんの遊び相手を買ってでるのもいいでしょう。目配せでできる会話。付き合いだけは長いですものね。

「隊長。俺が噛ませ犬になります。こいつの実力みて見てください」

「だがな……」

「俺がこういうってことは大体わかったでしょ?」

 黙り込む隊長に、バーナードは、大型犬特有の人懐っこい表情を浮かべる。図体でかいくせに子供に警戒されないのはこの尻尾を振らんばかりの表情ができるからだろう。

「さて、カラス対ワンちゃんの鳥獣決戦の始まりだ」

「自分でワンちゃんいうんですね」

「だって犬ってしかいいようないもん」

 拗ねたように言う彼に、私はふっと笑っていた。しかし、鳥獣決戦とは言いえて妙ですね。

「カラスといってもひときわ口と手癖が悪いカラスですからねえ?」

「その丁寧な口調を外した暁には、な」

 私の裏の顔も何もかも知り尽くしている彼だからこそ言える言葉。まだ、イレーニャの前では敬語は外してませんよ。ああ、でも夜に住まうバカ相手には外れるかもしれませんが。

「我ながら、この二重人格は恐ろしいものですよ」

「お前が言うなや!」

 そういいながらずいぶん適当に剣をふるってくる。もちろん受ける気もせずに、よける。

「逃げるのか?」

「受ける気もしないので。素振りはいいですか?」

「ずいぶん余裕ぶっこいてくれるなあ」

「いやあ、これでも余裕はないほうですよ? さすがにブランクが大きすぎる」

「ならば……」

「それに、君のその大ぶりな剣をまともに受ければ私の腕が折れてしまいます」

 しれっといって一歩踏み込む。体制を低くして、足を薙ぐ攻撃。お遊びの時間は終わり。

 こんな攻撃ははじかれてしまう。薙いだ動きを利用してくるりと反転。左手には中程度の片手剣が握られている。

「うおっ、いきなり本気かよ」

「まあ、はじめこそやっとかないと」

「ほんとに噛ませ犬か」

「ワンちゃんはワンちゃんらしくしてましょうね」

 手首をひねって背中に振り落される剣を右手の剣で受け止める。鍔を背で支えてはじいて向き直る。

「無駄多いな」

「なんとなくです。本来であれば魔法使って細い腕の足しにしてるんですけどね」

「もともと剣だけの組手は苦手だったもんな。剣、捨てたらどうだ?」

「いいんですか?」

「お前のスタイルで来い。どうせ噛ませだ。魔術もいいだろう」

「じゃあ、遠慮なく」

「げ」

 バーナードの言葉に甘えて目を細める。彼の鎧にかかっている防御魔法が展開されるのを待って剣を鞘にしまい、そして遠くに放り投げて腰の両側に身に着けている曲線を描くナイフを抜いて馬手は順手、弓手は逆手に握る

「いいですか?」

「ああ」

 呼吸を深く落ち着かせて腹の底から魔力を引き抜く。雰囲気ぐらいは変わっただろうか。

「昔から無詠唱得意だもんなあ。やだなー」

 そういいながら防ぐのが君でしょう。

 絶対的な安心感の中、私はナイフを手にとびかかっていた。同時に彼の足もとが崩れる。ノームの鉄槌。

「っくそ」

「……っ!」

 防ぐバーナードの足もとから私に向かって土の塊が飛んでくる。蹴り上げたらしい。左右によけて、足に風の加護。

 私は片手を地面について、土煙の中で飛び退ろうとしているバーナードに足払いをかけてから、無理やり起き上がって転ぶ鎧の腹に手を当てて風で吹き飛ばす。

「うおっ!」

 吹っ飛ばされたバーナードが獣じみた動きで空中で体勢を整える。すかさず落下点にシルフを待機させる。

「ほれ、もう一度」

 もう一度空中遊泳を楽しませてから飛び上がる。地上に降りることをあきらめたらしいバーナードが胡坐を掻いている。まったく器用なことを。

「俺も魔術使っていいか?」

「いいですよ。そっちのほうが本来のスタイルでしょう、魔法騎士の」

「ああ」

 思うことがあったらしい。ぎらり、といわんばかりの目に射すくめられながら、私は我知らず笑みを浮かべていた。勝手に頬が吊り上がっていく、といったところだろうか。

「その顔だ。ウィル」

 俺が知っているのはその顔だと、言われても知らない。こんな状態の自分を鏡で見ることなんてそうそうありませんからねえ。

 同時に地上に降り立ってとびかかる。私の手にはナイフ、彼の手にはロッド。

 木製といえども魔法で加持してあるために、硬度は金属と変わらず、そして、上の魔晶石にはそのロッドの使用年数分の一定量の魔力が込められていて、ロッド自体に彫り込まれている呪文に応じて効果を発する。確か、バーナードの場合は。

「……っ」

 体をひねって、空間を裂く雷をよける。触れたら最後、しびれる奴だ。かすってもいけない。

「本気ですねえ」

「久々に本気で当たれるやつだし? 万一ぶっ壊しても直してくれるし?」

「言っておきますけど、私はまだ全快じゃないですからね」

 ナイフの柄に埋め込んである簡単な魔晶石の魔法で雷を防御しつつ肉薄する。それでもロッドの先端で足払いをされて、退かざるを得なくなる。

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