ニート初出勤
そして、先代様がいたおかげですぐに話がまとまり、今度は私は、砦を守る魔法騎士団の朝礼に顔を出すことにした。
やっぱり自分の低身長ぶりを自覚するのは悔しいですね。広場を囲う城壁の上に腰を下ろして入念に体をほぐしている筋肉の塊たちを見下ろす。
「カラスらしく登場したいものですけどねえ」
とりあえず、バーナードにちょっかいでも出すかと、一羽カラスを呼び出してバーナードを狙撃するように指示を出す。複数回、遊んでやるといい。
そう思いながら、猛る獣の声が聞こえるまで、城壁の上のちょっとしたスペースの中で剣を抜き体を軽く動かしてほぐしていた。
「近くにいんだろ! ウィル!」
怒鳴るバーナードにちらっと顔をのぞかせて首を傾げる。あ、気づいた。
そのまま駆け上がってきそうな助走をつけるバーナードにさすがに身の危険を感じて跳躍した瞬間を見計らって下に降りた。
「な。……か、から……」
「カーカーいわなくても人の言葉はわかりますよ。高いところに上ったワンちゃんはともかく、少し、あいさつに伺いたくて……」
「なんのようだよ。つーか、その恰好なんの冗談だ?」
「そーですよね、私も冗談だと思いたいぐらいですが、事実です。今日からここの軍師として辞令が下っちゃったんですよ。嫌なら、私の父や王城のほうに直訴してくださいね。どうなるか知らないですけど」
「はあ?」
「カラス、として通っていますから、あまり名は告げたくなかったのですが、私の名は、ウィルフレッド・ラインベルグ。王城勤務の魔法騎士・魔術師団長ディラン・ラインベルグは私の父です。そして、先代の魔法騎士・魔術師団長、のちに、名誉顧問となった、ローランド・ラインベルグは私の祖父にあたる方です」
「……名門、じゃねえか、それ」
「ええ。思いっきり名門の生まれです。それを笠に着る気はありませんが、自己紹介程度に。まあ、不肖の息子をこんなところに押し付けた父に恨み言を言ってくださいねえ」
「必要なのは腕だろーよ。家名じゃねえ」
「ええ。その通りです」
ふと後ろに獣の気配。振り返りながら剣をすかさず抜いて平で首を打つ。
「いってええ!」
叫ぶバーナード。あたりまえでしょう。殺る気満々でとびかかってきたらそれなりの訓練を積んだ人間は普通、ぶった切りますよ。
「どーゆーことだよ、おい!」
「どういうことも何も、父から働けと命じられてしまって」
「資格あるから魔法騎士になれってか?」
「ええ。かなり乱暴な話です」
「まったくだ。まー、これで引きこもってられなくなるな」
「引っ張り出したら承知しませんよ?」
「引っ張り出すのが俺たちの仕事だ。どーせ軍師とか言う雑用係だろ?」
「そーですけど」
「紙とにらめっこするぐらいだったら外で遊んでたほうが楽しーだろうが」
いきなりハイテンションに始まる会話。全員がぽかんとしている。その視線を感じて私はそっとため息をついた。




