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カラスとセイレーン  作者: 真川紅美
バカが一匹と腹黒が二匹
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バカが一匹と腹黒が二匹

「楽しんでくださいねー」

 一瞬で周りの温度を上げた彼は、すと表情を変えて、父様を召喚した。やっぱこいつすごい魔術師なんだな。

「まったく、人使いが荒いぞ。アンガース」

「すいませんね。娘さんの一大事ですので」

「サラ?」

「う……」

 八つ当たり中なあたしを驚いたように見た、娘のあたしが言うのもあれだけど、神々しいまでの銀髪に近い金髪を後ろで一つに束ねて、厳しい顔がよく似合う甘さのない整った面立ちのエルフはため息をついた。つーか、陰険腹黒魔術師ちいせえっ。あたしなんてもっと小さいけど、お父様からしたら、魔術師ちいせえっ。

「ほどほどにしろよ」

 なんとお許しが出た。まあ、人間嫌いで有名だからな。

 親からのお許しも出たところでとことんやってやることにした。

 暑さにやられそうなおジンたちを風でしこたまたたいてあたしは、楽しくなっていた。

「な、なんだ、お前」

「ガキはプレイランドに帰ってろ。世を見たことのないくそがきが」

「な、私に何たる……」

「わきまえよ。我はエルフの族長ぞ。貴様に偉ぶられる覚えはないが」

 お、親父特有の森の凛としていて濃密な空気。怒った顔とともにやられるとすっごい怖いんだよなー。

 すくみ上っている人間たちにニヤニヤしながら、私も加勢してやる。一応親父の血があるらしく。親父にはかなわないけど、少しはできる。

「あ、う……」

「……おい、くそがき。俺は聞いてる。お前は何をしにここに来た。アンガースをつかって何をしようとしている?」

「わ、私の……」

「あなたのお守りなんて勘弁してください。手のかかるペットが一匹とそのつがいと、私の伴侶の小鳥と、この街の平和が私にかかっているわけですから」

「どういうことだ? アンガース」

「どういうことも何も、この砦の砲台。すべて古代魔法で制御するタイプなんです。代々その制御役がいたはずなんですけど、さかのぼること四代前に消えてる、って言うか、消されているんですよね。定期的にぶっ放さないと壊れて暴発するのに、何を考えているんだか」

 あきれ交じりのその声に、親父はあきれた顔をした。

「バカなのか?」

「残念ながらそのようです」

 なんか、こいつらしっくりしてない?

 ぶったたき終わったあたしはなんとなく二人を見ていた。

「で、どうする?」

「そろそろ大本をたたきに行かなきゃならないでしょう? あなたのところにもずいぶんと干渉があるようですし」

「ああ。そうだ。どうしてくれる?」

 どうするも何もって、あなた、最初からぶったたくつもりでしょうに。

 あたしの気性の荒さはこいつから来てるとおじい様が言っていた。若いころはやんちゃしていたって。腹黒魔術師よりずっと真っ黒な笑みを浮かべているお父様に恐れを抱きながら、あたしはみたいような見たくないような――、と悩んでいた。

「いっちょ乗り込みに行くか」

「それが一番早いですね。君たちは……そうですね、砦に送っても意味がない。私の父から話は通しておきましょう。……そうですね、酒場で人の妻を売女呼ばわりする奴は、断シュでもしましょうか?」

 真っ黒な笑みを浮かべる、この腹黒魔術師の、断シュという言葉には、たぶん二つの意味が重ねられている。ちらっとお父様を見たら、楽しげに笑って静観している。

「二つに一つ、いえ、あなたによっては二つともですが、個人的にたしなむ酒を断つか、それとも、色欲にしか頭が振り切れていないようなので、その粗末なモノを切り落とし、種を絶つか、どういたしますか?」

「……うわ……」

「楽しそうじゃないか」

 混ぜてくれ、と言いたげな父に頭を抱えて、あたしは、あとじさっていた。

「ああ、サラ。私のペットを呼んできてください」

「あたしのよ!」

「どっちでもいいですから。それとも、この哀れな子羊の断種の光景を目の当たりにしますか」

「とってくる」

「それが賢明です」

「サラ、あと、リン呼んでくれ。王城に乗り込む」

「はーい」

 飛び上って、うちの旦那を呼びに行く。一緒に騎士隊の面々でも連れていこうかと思ったけど、使えない駒を連れていくより、この砦の主の先代のおじさまに話を通したほうがいいかな、なんて思いながら町を抜けて、旦那を攫って腹黒魔術師が楽しそうにしているうちの前に落とす。そして、風の精霊で義母さま、いや、リンカにつなげる。

「親父呼んでるよ、リン」

『ん、わかった。今度は何する気なの?』

 すっかり落ち着いた声をしている彼女は、元、神の御子。二十歳を過ぎたころの女の子だったけれど、エルフの気配にすっかり慣れて、というよりは、取り込んだに近いのか、人の身にも関わらず、年をとらなくなっている。いや、親父がしこたまそそいでいるからかもしれないな、と下世話なことを思いながら、ふわりと姿を現した、黒髪の妙齢の女性を抱きしめる。

「久しぶりっ!」

「うん、久しぶり、サラさん。元気にしてた?」

「うん。そっちは? 親父ねちっこいでしょ?」

「いろんな意味でね」

「後で金でも蹴ってあげるから、とりあえず」

「わかった」

 リンカと一緒に親父のところに行くと、半泣きで股間を押さえている哀れな子羊と細身の剣と大ぶりな剣を合わせて子羊をにらむ男二人。その後ろに悠然と腕を組みながらその光景を眺めている金髪の偉丈夫。我がおやじながら、黙ってればかっこいい。

「レーヴィ!」

「リン。おいで」

 甘い声で誘う親父がリンを呼び、そして、リンが親父の腕に飛び込む。かわいいなあ。

 で、うちのは上にあたしが帰ってきてるなんて知ってるだろうけど、とりあえず目の前の敵を打つことに意識が持ってかれている。

 さて、これからどうなるやら。

 屋根に座り込んで、伸びてるおジンたちをひとまとめにしてくくったうちのが獣形に戻って親父とリンと腹黒魔術師の乗り物になる。そして、股間を押さえてガクブルするバカは強制送還されたらしく、一瞬で消えた。

 ついで、腹黒魔術師の手の中から二羽のハトが飛び立つ。一つは、たぶんイレーニャちゃん、彼曰くうちの伴侶の小鳥ちゃんに、もう一つは王都の方向、おそらくは国の機関で要職につき王に謁見も許可されている彼のお父様に飛ばしたんだろう。さて、どう知らせたんだろうか。

「サラ、ついてくるか?」

「その獣の調教誰がするのよ。行くわよ!」

 うちの約束事でめったやらに獣形にならないって約束したのに。

 尻尾を股に隠しているけど、帰ったら覚えておきなさい。

 そう思ってにらむとぶわっと毛が逆立った。

「うわっ、ふわふわ……」

「さて、王城へ向かおうか、バーナード君」

 いまいち状況がわかっていないリンの後ろに座った強制力が半端ない父の重い声音に、うちのはそろそろと走り始めた。その隣を私が並走する。

「さすがに重そうですね。レーヴィ殿と奥方で使いください」

 ぽんと頭をたたいた腹黒が魔術で私の隣に飛び始める。

「さすが長殿ですね」

「……あたしもそう思うよ」

 後ろで聞こえないように風で遮断しながらそう話していた私たちは、重そうに走るうちの旦那を見ていた。

子供はじゃじゃ馬

お父様は悪馬

お爺様は種う(ry

という裏設定もあります(笑)


この王子の処遇については割愛します(笑)

お察しください。

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