バカが一匹と腹黒が二匹
主人公行方不明(笑)
我が家に、いろいろな意味で敵が襲来した。
「おい、そこの。なぜ、私に注がぬ?」
どっか勘違いして頭のいかれたちびっこが何か言っているが気にしない気にしない。
私は、町の酒場で旦那と酒を飲んでいる。
「おい」
「てめえ誰に言ってんだよ」
「そこの女子だ。酒場には酒注ぎの女しかいないと聞いたから声をかけただけだが?」
「……誰が、酒注ぎの売女だ?」
どすの利いた声。旦那は人狼だから、そういう声は本当にドスが利いているというか殺気すら感じられるというか、なんというか。いつか声だけで人を殺すんじゃないかってぐらい怖い声を出せる。
「お前のだったか? いくらだ?」
「……誰がてめえなんぞに金よこしてもらってまでやるか! こいつは俺の嫁だ!」
「ほほう? そういうプレイか。酔狂だな!」
「……バーナード。いい。帰ろう」
バカの相手は疲れる。そういってたのは誰だったろうか、と思い出そうとして、ふとあの陰険腹黒魔術師を思い出して苦い顔をした。
「だが……」
「金を幅を聞かせようとするのは本物の小金持ちだ。相手にしただけ無駄」
そういって旦那を連れて家に戻る。それで終わったはずだった。でも――。
「やあ? 君の家はここなんだね」
従者をぎょうさん連れてきて、バカは襲来した。よりによって、旦那が務め中の真昼間。
「……どなた様ですか?」
見なかったふりをして扉を閉めなかっただけ、偉いとほめてもらいたい。棒読みのそれに、従者たちが青ざめていく。
「どなた? ほう? 忘れたのか? 酒場の女よ」
「私は、酒場で勤めてません。ふざけた勘違いもいい加減にしてください」
「……王子殿下に何たる口を利くか! 礼をとれ!」
「バカ言うな! 人をビッチ扱いするような屑に誰が礼をとるか!」
思わず叫んでしまっていた。固まる空気。あたしははっとしたが、にらむことは忘れない。
「とっとと娼館に帰って抜いてもらえ! この恥知らず共!」
血筋的には私だって負けてない。長の継承は絶対にありえないけど、一応エルフの族長の娘だ。
「言わせておけば……」
「なんですか? 王子様?」
バカにしたような穏やかでさらさらと聞き流せる声。来た。あたしの天敵。でも、今の状態だと心強い。
「お困りのようでしたので、声をかけさせていただきました」
「……そこは素直に礼を言うわ。とっとと送り返して」
「ええ。そうします。まったく、人のみをわきまえないバカが増えたものですね。王子。あなたじゃ太刀打ちできませんよ?」
「ほう? あの時の若軍師か。何ゆえ私に声をかける?」
「エルフの族長の怒りを買いたくなければとっとと帰れといいに来たのです」
「……え゛」
その言葉にあたしは顔をゆがめて彼を見ていた。彼は肩をすくめてあらぬ方を見る。
「エルフの族長? どこにいるのだ?」
「私の屋敷に逗留中です。何ゆえあなた様がここにいるのかは存じ上げませんが……」
「ある男に用があってきた」
「どなたです?」
「ウィルフレッド・アンガースだ」
「……」
小さくため息をついた彼は、小さく、丸投げするか送還するかとつぶやいていた。
「送還で」
「丸投げします」
このっ。
殴りかかりたくなったのを必死に抑えて取り巻きのおジンを見た。
「八つ当たりしていい?」
「ええ。私に当たられるよりよっぽど痛いお灸になるでしょう。ヒラメたちには」
揶揄した言葉にあたしは鼻で笑っていた。
「そうね。お魚はお魚らしく、開いていいかな?」
「ここはまな板じゃないですよ? シンプルにあぶったらどうです?」
「魔力食いすぎる」
「じゃあ……」
にやっと笑いあう。こういう時は気が合うんだよな。
「干物にしますか」
こいつが炎担当。あたしは風担当。そして、こいつはたぶん父様を呼ぶんだろう。
きまぐれ更新御免
エルフって、もっと高貴なイメージなような……。




