カラスとセイレーン
沖をじっと見つめていた狼が、ピクリと耳を震わせて尻尾を振る。
「鎮まったね」
サラがほっとしたようにつぶやいて狼の鼻面を掻く。
「着替え」
「あったのかよ!」
まるで首輪をつけられ損だといわんばかりに突っ込んだバーナードはすぐに人形に戻って服を着て沖を見て目を細めた。首輪とリードは捨ておく。
「ひでえ血のにおいだな。ウィルがケガしてやがる」
「そりゃ、セイレーンの荒れた風を身に受けたらバッサリ切れるわよ」
ふわりと浮かび上がったサラが、少し待っていてとバーナードを置いて沖へ出た。そして、数分もたたないうちに、真っ白な羽を赤く染めたイレーニャと、暗がりでもはっきりとわかるほど真っ白な顔色をしてぐったりとしたウィルと、あきれ交じりのサラが帰ってきた。
「あんた、癒しの魔法使えたっけ?」
「一応な」
魔法の親和性は高いんだといわんばかりに一息にウィルのけがを癒したバーナードがイレーニャの手からウィルを受け取る。
「マスターっ!」
「大丈夫だ。貧血で意識失ってるだけだから」
ぐったりとした体が冷え切っていることに気付いて、バーナードはそっとため息をついた。
「……イレーニャ?」
かすれた声に、バーナードの片眉が上がる。ぶらんと下がった腕がイレーニャに伸びてその肩をつかんだ。
「マスターッ!」
「そんな声、出さないで下さいよ。私は平気です」
「でも、でもっ」
「自業自得だっついたんだろ? ウィル」
「まったくですよ。……君が無事でよかった」
肩に触れた指が、イレーニャの頬に伸びる。その指に摺り寄せるように顔を傾けたイレーニャに、満足そうにかすかな笑みを浮かべたウィルが、ふっと気が遠のいたようでそのまま、バーナードの腕に体を預けるように意識を失った。
「とりあえず、着替えさせて、だな」
「うちに置いとく?」
「そーだな」
ウィルを抱き直して、縦抱きにしてからバーナードはサラの言葉にうなずいて家へ向かって、ウィルの一通りの処置をして、客間として使っている一室をウィルとイレーニャに貸す。




