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カラスとセイレーン  作者: 真川紅美
カラスとセイレーン
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カラスとセイレーン

 黙り込むウィルに、バーナードは思い詰めるなと前足をウィルの足に置いた。とんと軽い衝撃に黒いブーツに包まれた足に前足が乗っているのを見たウィルは、うつむいていたことに気付いてサラを見た。

「あなたがやったことに対して神様が手を下すことはないわ。あたりまえでしょう? この大陸にいる全員の過ちに対して天罰なんて下してたら神様疲れちゃうもん。あなたは、あの過ちから神様のせいで不幸になったの? 違うでしょう?」

「……あんなことをしたのに、私は……」

「幸せなんでしょう? イレーニャちゃんといて」

 肩を落としてうつむくウィルに、サラはふと表情を緩めた。

「神様が咎めるつもりだったらもっと早い時期で咎めているわ。……何も言わないのは、何もないのは、よきに計らえと言っているからなの。いいのよ、それで」

「…………」

 ふるふるとこぶしを震わせてうつむくウィルに、サラは、小さく笑ってそっと髪を撫ぜた。

「古代の魔法を封印し終えた偉大なる魔術師よ」

 古代語でささやかれる言葉。はっと目を開いてサラを見ると、森の雰囲気を身にまとってやさしい笑みを浮かべている。

「汝に幸あれ。そなたの役割は終わった。これからは、アンガースではなく、ウィルフレッドとして生きなさい。我々は、そなたに叡智を与えられたこと、間違いではなかったとうれしく思う」

「……」

 理解もできないエルフ語だが、自然に理解できたのは、はるか昔、エルフと思いを寄せ合った先祖の記憶が反応したからだろうか。ウィルは、頭を下げて、精一杯の礼をとった。

「森の叡智に、感謝を」

「人の子の機転に、尊敬を」

 返される言葉。洗い流されるような、やさしい森の空気。気持ちが落ち着いていく。

「さて、話がまとまったところで、海に行きましょう。バカ犬は崖で待っていて。案内するわ。精霊力があれているところまで」

「ですが……」

「私はイレーニャちゃんが戻ってくることを祈っている。……そのための手伝いなら惜しまないわ」

 サラの迷いない言葉に、ウィルは唇をかみしめて、ため息をついた。

「頼みます。いくら古の知恵があるとしても精霊力についてはわかりませんから」

 バーナードが不機嫌そうにぐるぐるとうなっているが、仕方あるまい。

ウィルはそう呟いて、サラとバーナードを連れて海へ向かったのだった。そしてバーナードを崖に置いて、サラとともに海上を進む。

「ここらよ。あとは、バーナードと待つわ」

「明け方まで戻らなければ、死んだものとして扱ってください。私の魔力も、そして、あの子の魔力も後一晩持てばいいほうでしょう」

「……ずいぶん弱ったものね」

「まだ、回復していないだけです。……まあ、私の場合、全快には何十年かかりましょうが」

「……帰ってきたら、エルフの薬あげるわ。お父様の薬がちょうどあるから」

「それは光栄ですね」

 肩をすくめ、そして、ウィルはサラを崖に送り返して、誰もいなくなった真っ暗な海上に、目を閉じ、そして、壁に手を当てるように腕を上げた。

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