間違った覚悟
そこでようやく、自分が夢うつつの境にさまよっていたことに気付いた。ふと、目を覚ます。一人の巣。
「……夢?」
首を傾げて、空へと飛び立つ。
「鳥ちゃん!」
下から呼ぶバーナードに寄って降りると、言いにくそうにそっぽを向いて、焦ったようにつぶやいた。
「ウィルは、目覚めたよ。でも……」
「ここにいない?」
「気づいて起きたのか?」
「……なんとなく」
胸騒ぎというやつだろう。目を細めてあたりを見まわす。目が届くところにはいない。
「飼いならされた鳥は、かごから出しても、飼い主の周りを飛び回る」
「鳥ちゃん?」
「……マスターはどこ?」
「……王都だ。親父さんのところにあいさつに」
「親父さん? ああ、お父様?」
「ああ、ここに帰ってくるように説得してもらえるように頼んだが……」
ここで待つしかない。そういったバーナードに深くため息をついて、イレーニャはうなずいた。
「無理しなくていいんだぞ?」
「そんなことしてマスターを困らせたくないもの」
この一件で大人になりすぎているイレーニャに、バーナードが言うと、彼女は小さくかぶりを振って背中を向けた。
「私はここで待つ。筋肉お化けは、お仕事いったら?」
そういわれて、突き放されたバーナードは、わかったよ、と小さくつぶやいて、町へ下った。
ウィルの家は、潮騒が届く丘の上にぽつんと立っている。眼下には、塀に囲われたオレンジと白の街並み。海に向けては砲台が立てられて、ちょうど、ウィルの家の対角線上に大きな砦がある。
家の隣にある立派に育った木の上に飛び上る。
「……」
上のほうにイレーニャの巣が作られ、下のほうは、たそがれるための枝になっていた。
木の枝に腰を掛けぷらんと足を投げ出して、街並みを見る。風が奏でるメロディーのまま、歌いだす。
帰らぬ人を待つ、悲しいセイレーンは、涙なく、歌い続けていた。




