間違った覚悟
ひんやりとした手が頭を撫ぜている。夢だろうか。いつも、熱を出した時、こうやって撫ぜてくれていた。
うとうととまどろみながら、少しだけほっとして、深い眠りに落ちる。
それでも見る夢は、ウィルとの幸せな日々。
そばにいれることだけでもうれしいと、楽しいと、幸せだと思っていたのに。
涙を流して枕に頬を摺り寄せる。質のいい布の感触が頬を撫ぜた。よしよしとなだめるように頭を撫ぜられる。
どれぐらい眠っているのだろうか。ふと気になったイレーニャだったが、目覚めても、ウィルが目覚めていないことに絶望するぐらいなら、眠ったままのほうがいいと、目を覚ますのをやり過ごしていた。
ぼんやりと覚醒して、変わらない巣の様子を見て、すぐに目を閉じて眠る。
「このまんまじゃ鳥ちゃん衰弱するぞ」
そんなバーナードの声が聞こえたがどうでもよかった。ただ、枕に頬を寄せて眠る。眠り続けた。
「……よく、ここまで我慢しましたね」
ぽつりと聞こえたのは、望む声。穏やかなやさしい声。
細い指先が、髪の毛を梳く。ひんやりと冷たい。
懐かしくて、やさしくて。涙を流すと、すぐに指で拭われた。
「私は君に対して、許されざるものです。ずっとそばになんか、いてやれないんですよ」
じゃあ、なんで、おそばにおいてくれたのですか。
「君を守るためですよ。あの時に拾った君は、一人で生きるには無力すぎた」
じゃあ、なんで、おしえてすぐにてばなしてくれなかったんですか。
「君が覚えていると思った。こんな男の隣になんかいたくないと、飛び出すかと、思ったんです」
夢を見ているようだ。そうじゃなければ、こんなにお話できるわけない。
イレーニャは目をつぶったままため息をついた。
「君と過ごすうちに、情がわいてしまって、君を、手放しづらくなってしまった。却って君の自由を奪うことになってしまって、申し訳なく思っています」
あなたをわすれることなんてできない。あなたはやさしいひと。
「それは買い被りですよ。私は……、見えた結果も見ないふりをして君の家族を殺してしまった。君を引き取ったのも、罪悪感のためです。やさしいなんて……」
あのときのませきも、わたしがまっさらなじょうたいでそらへとびたたせるためのものだったんでしょう。だから、あんなじゅつしきをくみこんだんでしょう。
バーナードから赤い魔石を解析してもらって、その内容を聞いたときに、ストンと胸に落ちたのだった。
「……」
やさしいですよ。
「君は私に依存していた。そうでもしなければ、空へ飛び立てないでしょう!」
強めの語調で言われる言葉にイレーニャはふっと寂しげに笑っていた。
とりがすをとびたつのは、すがあるからですよ。
「……っ」
ここに巣がある以上、忘れさせられてもむだだと、そういって、ふっと意識が途切れた。




