間違った覚悟
目の前に広がる紅い光景に震え上がる。
「ウィル! 何をやったんだ!」
怒鳴りあげる男の声。その声もかすむほど、彼は呆然としていた。
「……こんなものっ!」
思わずその惨劇を作り上げたものをたたき壊して、すぐさまその赤を消すために雨を降らせた。
「ウィル!」
「説教はあとにしてください。私が間違ってました」
父にそう語りかけた、彼は、焼けてしまった森に逃げ残った森の住人がいないかを見るために飛び出す。
これは、ウィルの、記憶だ――。
夢を見ながら、イレーニャはそう思った。これは、ウィルと、イレーニャが初めて会った日。
在りし日の彼は、無残な姿になった森をひと廻りして、そして、イレーニャを見つけたのだった。
「……」
まだ、年端もいかないイレーニャを見つけたとき、血の気を失って、倒れそうになった。だが、狼がこの森の死肉を漁りに来ていたのを気づいていた。
気を失っているイレーニャを抱き起して、飛び上る。家に連れ帰って、父と祖父に事情を話したウィルは、イレーニャの世話をかいがいしく焼いていた。
「マスター。私の存在は、あなたに取って、重荷だったんですか」
目覚めてそう語りかける。それでも震えることのない瞼。落ち着いた呼吸を繰り返す、胸。
「……恨んでないです。そばに置いてほしいだけなのに」
胸に額をこすりつけて、目を閉じる。
「起きてください。マスター」
思い出されるのは、平和な、二人で笑いあっていた日々。自分は楽しかった日々だと感じていたのに、ウィルにとっては、胸が痛むだけの日々だったのだろうか。
悲しくて、悲しくて。
胸に頬を寄せたまま、イレーニャは泣いて、いつの間にか、また、ねむってしまっていた。
起きても、ウィルは起きない。さすがにこのままでは重いだろうと、体を起こして、布団をかけ直して、まだ、体がだるいことに気付いて首を傾げる。
「あ、熱か」
このだるさは、とうなずいて、巣に帰ることにした。ウィルの外套を持って巣に入って、外套を抱きしめて眠る。それでも、浅い眠りで、逆に疲れることになったのだった。
けなげな鳥ちゃん




