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カラスとセイレーン  作者: 真川紅美
間違った覚悟
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間違った覚悟

「さすがに、ここまでの長距離は疲れるな……」

 実に、開戦から五か月ぶりの帰還だった。縦に抱いたウィルを抱き直して、埃をかぶった家に入って、くしゃみをする。

「ちょっと待ってて」

 イレーニャが家の窓を開けて羽を広げてパタパタと風を起こす。

「便利だな……」

「でしょ」

 褒めてと言いたげな声に、バーナードはため息をついて、わしわしと肩口につくかつかないかぐらいの銀髪をなでる。

 そして、あっという間に埃を飛ばして、掃除いらずなイレーニャに、次に、ウィルの寝室のシーツを変えてくるように言った。

「はーい」

 素直に従うイレーニャに、よくここまでしつけたな、と眠るウィルをちらりと見た。

 ぐったりとバーナードの肩に体を預けて眠り続けるウィルの顔色はいいが、まだ、やつれたままだ。

「……」

 椅子に座らせておくのも不安定で、結局抱き上げたまま椅子に座って、イレーニャが終わるまで待っていた。

「筋肉お化けー!」

「なんだ?」

 この家にそんな声が響くのも久しぶりだ。立ち上がってウィルの寝室に入ると、終わったことを告げたかったらしい。なぜか、イレーニャが大の字になっている。

「やっぱきもちー」

「こら、こいつ寝かせるんだぞ」

「うん」

 素直にどいて、寝かせられたウィルの上に布団をかけてやる。

「あと、何かあったら、俺よべよ、飯なら嫁を呼んでくれ」

「うん」

 うなずいてばかりのイレーニャに、すぐよくなるさ、と頭を軽くはたいてウィルの家を出た。

「……」

 作っていた表情をふっと消してイレーニャは眠りっぱなしのウィルを見た。表情を作っていたのは元気がないとバーナードも、やりにくそうに顔をしかめるのだった。

 鳥頭と呼ばれるほど頭が悪いことは自覚しているが、表情を伺えないほどあほじゃないのだ。

 だから、こうやって二人に戻りたかった。あほな自分では、表情を作るのは疲れるから。

「マスター」

 再会した時から変わらずに、浅い呼吸を繰り返すウィルの頬に手を当てて、そして、手を取ってさする。ひんやりとした指が、少しでも温まるといいと思いながら、額を寄せて、眠ってしまっていた。

「……」

 ん、と起きると、横向きになってベッドに寝ていた。隣にはウィル。振り返ると、あきれた様子のバーナードが立っていた。

「しばらくそのまま寝てな。かなり疲れた顔をしている。飯、スープとパンをキッチンに置いておいたから、食っとけよ」

 こくんとうなずいて、眠るウィルの胸に顔を摺り寄せる。暖かかった。抱きしめてくれる腕がないのが物足りないが、起きるまでの辛抱だった。

 ぬくもりを感じてほっとしたのか、イレーニャはまたすぐに眠ってしまっていた。

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