失われた家名と、失った平和と、罪滅ぼし
ぎりぎりと音が鳴りそうなほど強いまなざしでバーナードは、痩せた親友を目に映す。抜けるように白かった肌は、血の色が透けそうなほど青ざめている。
「ラインベルグとは何なんだ?」
手を払われたバーナードが、少し間を置いて尋ねながら、ウィルを覗き込む。昏い目をしていた。
「古の一族です。……古代魔法、それと、古代遺跡で発掘される自動人形のほとんどすべての製造を手掛けた一族。私が古代魔法を研究と称して使われた場所に出向いているのは、先祖の過ちを、強すぎる魔術を封印して、この世に出さないためです。連中には古の宝物にたかるカラスのように見えたようですがね」
皮肉る言葉よりも、その前に言われた言葉に、いう言葉をなくしたバーナードはぐっとこぶしを握った。
「お前ひとりで抱えなくてもいいじゃないか?」
「……これは、私の生を受けた意味です。初代の記憶を受け継いだ時点で、それが命じられていた。……その意味も果たしたのに、とっととこの血を絶やさなかったせいで、こんなことが起こったんでしょう」
静かに呟いて、ウィルは木を見上げてため息をついた。森が深いせいか、鳥すら見えない。
「学生の時分、一度、家に置いてあった自動人形を動かしたことがありました」
「え?」
「……そのせいで、実家の隣にあった、あの豊かな森を燃やし尽くしてしまった」
後悔がにじむその声に、その言葉がいきなり振られた意味が分からなくて、バーナードは首を傾げた。いきなり、何を言いだすのだろうか。
「その森は、セイレーンが住むことで有名でした。……大体のセイレーンは逃げてくれましたが、逃げ遅れた家族がいました」
振り返ったウィルに、バーナードは息をのんだ。寂しげな、悲しげな笑みを浮かべて、肩をすくめたウィルはちらりと家のある方向を見た。
「まさか、鳥ちゃんって」
「……私が、そばにいるべきじゃないのはわかっています。でも、そのまま放っておいても食われるだけだと思ったので連れてきてしまいました。……彼女は記憶を失っているようですけどね」
肩をすくめてそういったウィルは目を閉じて左右に首を振った。
「あんな力、人に渡すべきではなかったと、先祖も言っています。父も、祖父も、その力を目の当たりにして、封じるべきだといいました」
後悔に揺れる瞳は隠されたまま、ウィルは深くため息をついて、バーナードに背を向けて、森の奥に入っていった。
「……」
その背中を、見送ることぐらいしか、できなかった。




