表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カラスとセイレーン  作者: 真川紅美
失われた家名と、失った平和と、罪滅ぼし
19/67

失われた家名と、失った平和と、罪滅ぼし

 戦が始まって、三か月が経った。まだ、終戦を迎えることはなく、しかしながら民たちの生活にはあまり影響がないように見えた。

「……」

 屋根に座ってしゅんとしているイレーニャを横目で見上げながらバーナードはふと、不思議な風が吹いていることに気付いて、その方向に目を向ける。

『鳥ちゃん、お前のことを待ってるんだぞ』

『戦線の状況が変わりそうだから、一時帰還を許されただけです。会うつもりはありません』

 黒魔術師らしいというかなんというか。影に潜むウィルの姿にため息をついて、彼女の目から見えない場所へ移動する。近くにある薄暗い、森の中。イレーニャは、怖いといってめったに近づかない。

「久しぶりだな」

「ええ。お久しぶりです」

 久しぶりに、向かい合ってみるウィルの姿は、相当やつれて、もともと鋭く整った顔だったのが、さらにこけて鋭い印象が強くなっていた。長くなった髪は後ろに一つに結わえて、前髪で片目を隠すようにしている。

 バーナードの姿を見て、少しだけ表情が緩んだが、最近ほとんど笑っていないのだろう。顔がこわばっている。

「具合は悪くしてないか?」

「かろうじて持っている状態です。最後の魔術をかけるために、今、磨いている状態ですからね」

 森の、葉の腐った匂いを含む湿った風が奥から吹き付ける。この森は、魔獣がいることで有名だ。だが、足を踏み入れても姿、いや、気配すら感じられなかった。

 風に目を細めるウィルが何かをしているとしか思えない。隠された瞳に何か術式が組み込まれているのを見てとりながら、バーナードは見ないふりをした。

「最後の魔術?」

「……君なら、わかりますよね。これです」

 草案らしい書きなぐられた魔法陣がかかれた紙を手渡して、ウィルは背中を向けた。

「今日の夕暮れ、イレーニャをここに連れてきてください」

「え? 会うつもりないって言ったじゃないか?」

「……」

 うつむいた彼に、嫌な予感を感じて、紙を読む。そして、この魔法陣の意味を正確に理解した瞬間、ウィルの肩をつかんで振り向かせていた。

「お前、死ぬ気か!」

「……こんな馬鹿をやらかす王族、くそみたいな下流の民。自分が偉いとふんぞり返っている貴族たちに、平和ボケしている魔術師候補生。彼らにひと混乱を与えようかと思いましてね」

「……だからって、魔力を取り上げなくてもっ」

「前線はほとんど魔法合戦ですから、それだけで、両国にはかなりのダメージを与えられます」

「だが、お前がそんなことをする必要はないっ」

「……」

 叫ぶように断言するバーナードにウィルは薄く笑って、ぎりぎりと万力のように肩をつかむ手を冷え切った手で払った。

「本当は、この世界の魔力を取り上げたいぐらい、ですね。……まあ、今回は、忘れ去られたラインベルグの一族の力を、それぐらいはこなせるということを示すためです。これ以上ないパフォーマンスでしょう?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ