表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カラスとセイレーン  作者: 真川紅美
戦とカラス
15/67

戦とカラス

「マスター何かありましたか?」

 この子は変なところで勘がいい。苦笑を漏らしてしまった。

「ありましたけど、君が気にすることではありませんよ」

 そういって気を紛らわせてやろうと、甘いもので気を引く。案の定すぐにそれを忘れて甘いものに、彼女がいないうちに焼いておいたナッツのクッキーに夢中になる。

「……」

 紅茶を入れるために厨房に入り、ふっと、隠していた感情をさらけ出す。まったく、困った小鳥だ。

 次に彼女の前に出るときには、この感情はしまっておかないと、心の中で呟いて、ポットを蒸らしてから茶葉を入れて、炎の精霊石で加持をしたポットに淹れたてのお茶を移し替えてカップを二つ持つ。

「イレーニャ、お茶が淹れおわりましたよ」

 んぐんぐと食べているイレーニャにお茶を差し出すと、猫舌ならぬ鳥舌で、あっちっと目をつぶった。まったく、本当に学習能力のない。

「少し待っていてくださいね」

 苦い笑みを浮かべながら熱を散らしてちょうどいいぬるさになったのを確認して、差し出す。

「おいしい!」

「ありがとうございます」

 食が一番の楽しみ、と言いたげなその嬉しそうな表情に、単純はいいな、とうらやむ自分がいることに気づいて、ため息をついた。

「マスター?」

「ああ、いえ、何でもありませんよ」

 少なくとも、殺しの道具として見られていることに動揺しているのではない。むしろ古代魔法の威力を見てきた彼らが、私をそう見ているのは当たり前のことだ。

「なんで魔力なんてもって生まれてきたんでしょうねえ」

 詮無いことだけれども、たまに考えてしまう。ゆっくりと紅茶を口元に持ってきて一息で飲み干す。

「すみませんね。私はこれから、研究を始めるので、必要な時以外は入ってこないでくださいね」

 そういって、彼女に何か言われる前に逃げるように席を立った。いらないことを口走りそうで怖かったからだ。

 部屋に戻って彼女がくれたフローライトのリングを握りしめる。

「別れが、つらくなってしまうじゃないですか」

 そんなつぶやきだけが、一人の部屋にぽつりと、響いた――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ