戦とカラス
「マスター何かありましたか?」
この子は変なところで勘がいい。苦笑を漏らしてしまった。
「ありましたけど、君が気にすることではありませんよ」
そういって気を紛らわせてやろうと、甘いもので気を引く。案の定すぐにそれを忘れて甘いものに、彼女がいないうちに焼いておいたナッツのクッキーに夢中になる。
「……」
紅茶を入れるために厨房に入り、ふっと、隠していた感情をさらけ出す。まったく、困った小鳥だ。
次に彼女の前に出るときには、この感情はしまっておかないと、心の中で呟いて、ポットを蒸らしてから茶葉を入れて、炎の精霊石で加持をしたポットに淹れたてのお茶を移し替えてカップを二つ持つ。
「イレーニャ、お茶が淹れおわりましたよ」
んぐんぐと食べているイレーニャにお茶を差し出すと、猫舌ならぬ鳥舌で、あっちっと目をつぶった。まったく、本当に学習能力のない。
「少し待っていてくださいね」
苦い笑みを浮かべながら熱を散らしてちょうどいいぬるさになったのを確認して、差し出す。
「おいしい!」
「ありがとうございます」
食が一番の楽しみ、と言いたげなその嬉しそうな表情に、単純はいいな、とうらやむ自分がいることに気づいて、ため息をついた。
「マスター?」
「ああ、いえ、何でもありませんよ」
少なくとも、殺しの道具として見られていることに動揺しているのではない。むしろ古代魔法の威力を見てきた彼らが、私をそう見ているのは当たり前のことだ。
「なんで魔力なんてもって生まれてきたんでしょうねえ」
詮無いことだけれども、たまに考えてしまう。ゆっくりと紅茶を口元に持ってきて一息で飲み干す。
「すみませんね。私はこれから、研究を始めるので、必要な時以外は入ってこないでくださいね」
そういって、彼女に何か言われる前に逃げるように席を立った。いらないことを口走りそうで怖かったからだ。
部屋に戻って彼女がくれたフローライトのリングを握りしめる。
「別れが、つらくなってしまうじゃないですか」
そんなつぶやきだけが、一人の部屋にぽつりと、響いた――。