戦とカラス
珍しいことに、私の元に、勅命がかかれた書状を手にした男がやってきた。
「私に軍師の真似事をしろと?」
こんな言葉を聞かせられない私が守る小鳥は町で楽しく過ごしていることでしょう。そっとため息をついて、持ってきた、衣装に着られた男をにらむ。
「お断りします。勅命といえども、私は、国に仕えてはいない。従う義理なんてありません」
「……しかし」
「これ以上、何かいうのであれば、王に出てきてもらいますよ? ああ、いえ、王の名を借りて、私を引っ張り出そうとしたバカに、か」
「なっ、なんてことをっ」
「大方、私の古代魔法の技術を狙ってのことでしょうが、私は、殺しのために魔術をふるうことはありません。そう、お伝えください」
それ以上話すことはないと、転移の魔術を強制執行して、研究にいそしむ。来る日のために、作り上げようとしている赤い魔石に、最後の仕上げの呪言を書き込み、そして、魔力を込める。
「マスター? ただいまですー!」
倒れてから、彼女は帰ってきたとき、そう声をかけるようになった。そして、ここを覗くようになっていた。赤い魔石を箱の中に隠して立ち上がって扉を開ける。
「お帰りなさい、イレーニャ」
つまみ食いしてきたらしい。頬にブドウの種がついている。笑いながらそれをとってやると、真っ赤になってイレーニャはうつむいた。
鳥人間といえども、彼女は、セイレーンと人間の混血≪メティス≫だ。たまたま、セイレーンの血を色濃く受け継いだ彼女は羽をもち、自由に空をかけられる、風の精霊の愛し子になった。ちなみに羽は出し入れ可能らしい。
「マスターにお土産です」
と、差し出されたのは鳥頭らしく、きらきらしていた。細い、リング。細すぎて私の手にははめられないかな。
「イレーニャ、君ね……」
「ん?」
誰が女性からリングをプレゼントするやつがいるかと、突っ込もうと思ったが、彼女はそんな頭はない。ただ、きれいだから買ってきたのだ。
「私にははめられないですよ」
「あ、ほんとうだ……」
しょぼんとした、彼女に、私はふっと笑って彼女の手から伝わるかすかな魔力と自分の魔力を混ぜて、リングにはめてある、珍しく本物の宝石に込める。これは、紫色のフローライトだ。
「何してるんですか?」
「簡単なお守りですよ。私がもらいます。……お返しは、これと同じようなものでいいですか? もっときらきらさせますよ?」
「え? もっとキラキラですかっ!」
目がキラキラしている。ええ、とうなずいて、今の材料で作れるかを考える。
「少し待っていてくださいね、すぐにできます」
ちょうどいいのがあった。席に座らせて、私は、引出しから銀と、思い出した宝石を取り出して磨いて彼女に似合うようなデザインで、シルバーリングを作る。もちろん、小指にはめられるような小さなものだ。オリーブの枝のような、そんなデザインのリングに小さな、ガーネットを埋め込み、焼成させる。そして、冷やして、彼女の小指にはめる。
「これでどうですか?」
「うわあ」
目を輝かせているイレーニャに、少しだけ満足して、イレーニャがくれたリングを首から下げるためにチェーンを取り出して通して、首から下げる。
「こうしたら、指につけなくても持ってられるでしょう?」
それを不思議そうに見ていたイレーニャにいうと、嬉しそうに笑った。この笑顔を守りたい。
そっと頭をなでて柔らかい髪を楽しむ。