不養生なご主人様にご奉仕
そして、バーナードが、ご飯をかっぱらってきて、ウィルが起きたらなんとしてでも食べさせるように、と、念を押して、仕事に戻っていった。
「……マスター」
真っ青な顔をして、汗を浮かせて荒い呼吸を吐くウィルの傍らにずっとついていた。
額に置いたタオルを時折冷やし、見える場所に浮いた汗をぬぐって、冷やして、また、額に乗せるという作業を、ウィルが目を覚ます日暮れごろまでずっとしていた。
「……イレーニャ?」
いつもよりかすれて低い声。はっと、ウィルを見たが、周りが暗すぎて、イレーニャにはウィルが見えなかった。
気が付けば、真っ暗な外からは、ころころころと虫のなく声が聞こえ、遠くからは潮騒の音が聞こえている。
「……ああ、もう暗いですねえ」
そういって簡単な魔術を使って、家の中の光を付けたウィルは目をしばしばと瞬かせているイレーニャを見た。
「マスター!」
「すいません、心配かけましたね」
と、穏やかに言いつつ、すぐに咳き込んでイレーニャに背中を向けた。
「マスター」
おろおろとその背中をさすってぐっしょりと汗に濡れていることに気付いたイレーニャは、眉尻を下げた。
「お水……」
水差しを差し出すと、のどを鳴らして飲むウィルの姿に、イレーニャはふっと肩を下げた。
「大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫です。すいませんねえ」
ばつが悪そうに言う、ウィルに、イレーニャは泣きそうな顔をして首を横に振って、バーナードから預けられたご飯を、やさしい味のリゾットをウィルに渡して、水を替えるために外に出た。
「……」
泣きそうになりながらも水を替えて、思い出したウィルの着替えが入っている位置を漁って、おけと多めのタオルと一緒にもっていった。
「イレーニャ?」
「汗で、気持ち悪くないですか?」
着替えを指して言うと、バツが悪そうにうなずくウィルに、いらない気じゃなかったと、ほっとしながら、どの程度手伝えばいいのだろうか、と目を泳がせた。
「大丈夫です。それぐらい、一人でできますよ」
だるそうに体を起こして笑うウィルに、うなずいて、桶を置いて空いた皿をもって部屋の外に出た。
やがて、着替えが終わったのか、ボタンを緩めにかけて、ふらつきながらもウィルが汗でぬれた服をもって部屋から出てきた。
「私がやっておきます! マスターは……」
「大丈夫ですよ。少し寝たので、楽になりました。動けないほどじゃないですよ」
「……でも!」
うるうると、目を潤ませて、ウィルを見上げるイレーニャに、ウィルは、目を見張って、そっとため息をついた。
「わかりました。よろしくお願いします」
着替えを渡して、ウィルは部屋に戻って、ベッドに入った。