彼女をかった理由
ちょっとしたお話です。ぜひ暇つぶしに。
波の音が遠くに聞こえる、とある家の中、瓶やガラス器具を倒す盛大な音が響き渡った。
「ぎゃー、マスターっ!」
「まったく、君は……」
慌てふためいた女の声と諦めきってあきれ返っている男の声。さんさんとした陽光降り注ぐ朝に似つかわない、床に散らばった惨劇の痕。
「まったく、高いものばかり割ってくれて……。おかげで私の得意魔術に一つ加わってしまいましたよ?」
そういって男が黒いローブに包まれた腕を一閃した。キラキラと、透明な光が散らばったガラスを包み込み、そして、時を逆戻しにしたようにガラス瓶の形に戻り、瓶が置いてあったらしいすっからかんになった棚に戻りながら置かれていく。再生の魔術だ。
あまりに使えないと話題の魔術だが、とりあえず、固体のものはもとの形に戻せるようになっている。
それに合わせて、瓶の中身の個々の精霊力を……、といったように複雑な解析をして元のように片づけた男は、そっとため息をついて、固唾をのんでそれを見守っている女を見る。
「わっ、すごいっ!」
「……」
この惨劇を繰り広げた彼女自身がそれを言うか、と、あきれ交じりのジト目を送った男はそっとため息をついて、はしゃいでいるらしい彼女の背から伸び、バタバタとしている純白の羽を押さえつけた。このままではまた、ほかの瓶も割られてしまう。
「マスター?」
「いい加減にしてくださいね? イレーニャ?」
どす黒いものが混じったのを感じたらしい。イレーニャと呼ばれた彼女がしゅんとして、ごめんなさいと、翼を畳み、垂らした。
「とりあえず、朝ご飯を食べてください。今日は朝から遠出ですからね」
彼は、荷造りの途中だったらしい。扉があきっぱなしの隣の部屋には投げられたと思わしきぐしゃぐしゃの鞄。
「そうだ、イレーニャ」
「はひ?」
パンをかじって首をかしげる銀色の髪に彩られた目鼻立ちが小さくぱっちりとした彼女を見て、確認するために、いうのだった。
「とりあえず、けがはないようですね」
その言葉に、彼女は、目を見開いて、嬉しそうにうなずくのだった。
ちょっと名義わけしてみました。毛色が違うものでね。