表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンポラリーラブ  作者: CoconaKid
第一章 ビギニング
7/60

 氷室は同じビルにある居酒屋で純貴と酒を交わす。

 会社を出れば二人は友達同士だった。

 忙しく調理する店員の姿をカウンター越しに見ながら、二人はジョッキを握って生ビールをぐっと飲んでいた。

 氷室の息がふーと漏れる。

 ビールを飲んで満足した気持ちではなく、どこかやるせなく不意に漏れた嘆きごとのように聞こえた。

「コトヤン、最近益々ふてぶてしくなったね。どうしてもっと楽しくしないんだ。俺みたいに気に入った子がいたら、声かけてみたらいいじゃないか。コトヤンは高校生のときは女の子に良くモテては俺よりプレイボーイだったろ」

「そっか? 忘れた」

「お前、大人になって性格変わったな。あれだけ野心に溢れていたのに、なんだこの差は?」

「だからそういうのを大人になったって言うのさ。もうガキじゃあるまいし、粋がってみても虚しいだけさ」

 氷室はまたビールを飲んだ。

 純貴は料理をつまみながら、聞いているようで聞いていなかった。

「ところで、あの新しく入った子。元気で気持ちいいけど、なんか女っ気ないな。高校生みたいでガキっぽい」

 女を品定めする癖のある純貴が言いそうなことだった。

 氷室も適当に聞いていた。

「まあ仕事はちゃんとしてくれそうだから、いいんじゃないか。どうせ8月一杯までだろ。あっという間に去っていくよ。そしていずれは俺たちの記憶からも消去される」

「まあ、そうだな。それにしても本店はもう少し色っぽいの入れないと、正社員の上野原と敷川は味気ないな。その点、アルバイトの美穂はなかなかだぞ」

「それが昨日の相手か」

「さあ、なんのことですか」

 わざとらしくとぼけているが、ばれているのは本人も自覚していた。

 そしてビールを一飲みして、その話は終わりだとリセットしたかのように見えた。

「コトヤンはずっと俺と一緒に働いてくれるのか。コトヤンが居てくれたら俺も心強いからな。なんせ頭はずば抜けて切れるし、器用だから店を任していても安心できる」

「お前もちょっとは仕事しろよ。いつかは社長だろ。しっかりしないと従業員ついてこないぞ」

「だから言っただろ、コトヤンがいるから安心できるって。お前みたいな優秀な社員を破格で雇えるのはほんとラッキーだった」

「何言ってんだ。こんな仕事誰だってできるし、誰がやっても同じさ。優秀社員が必要な程の会社かよ」

 馬鹿げたことのように言ってみたが、よく考えれば純貴の会社だった。

 馬鹿にしたと誤解されてはないかと、氷室は焦りながらジョッキに残った生ビールを一気に飲み干した。

「そうだよな。大した仕事じゃないよな」

 純貴は自虐したように呟いた。

 この話もまたこれ以上しては行けないとそれで終わった。

 二人は暫く思い出話をしては、学生時代の頃に戻っていく。

 若かりし頃の氷室。

 まだ世間など知らず、若さゆえに好きなことができて、思うように何でも実現できると信じていたあの頃。

 自分も認めるほど青二才だっ た。

 情熱を持った自分を回顧しているとき、ふとなゆみのことを思い出す。

 あの子はまだ20歳になったばかりだと言っていた。

 好きなことに一生懸命になり、その目標のために前向きでひたすら頑張っている。

 くじけないで笑顔を常に見せることができるのも、彼女の夢や希望がはじけてくよくよしている暇などないのだろう。

 あの笑顔だけは光を浴びているような気にさせられる。

 氷室はなゆみの笑顔を思い出しながら、空になったジョッキを見つめていた。

「もう一杯飲んでみようかな」

 氷室はなんだかぐっと飲み干したい気分に駆られていた。

 そして二杯目のビールを飲んだあとは、はじけたような息が喉の奥が突付かれたように出てきた。

 久々に味わうように、少し気分がよくなり、ビールが美味しいと思った瞬間だった。


 純貴のおごりだということで金を心配することもなく、すっかりほろ酔い気分に氷室はリラックスしていた。

 会社では専務だが、昔からの友達という立場は変わらない。

 女癖は悪いが、気前のいいところやあっさりとしたところは純貴の長所であり、氷室もそういう部分は好きだった。

 腹も満たされたとき、純貴に携帯電話がかかってくる。

 それがお開きのサインとなり、純貴はこの後用事ができたと笑っていた。

 それは浮気相手に違いなかった。

 そんなことはどうでもいいと、氷室は何も聞かないで礼を言って別れた。

 地下街から上に行こうとエスカレーターに乗って一階についた時、また英語交じりの会話が聞こえてくる。

 前方にはちょうど外へ出ようとしていた何人かのグループがドア付近に居て、そこになゆみも混じっていた。

 あの大きなかばんですぐに分かった。

 まだこのビルにいるということは、仕事の後、英会話学校へ行って英語を勉強していたのだろう。

 氷室は後ろを付けた訳ではないが、駅へ向かう方向が同じだったので、気づかれないようになゆみの後ろを離れて歩いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ