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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第5章 蠱毒の王

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中層のイレギュラー個体 Ⅲ





 対峙するフリュムと流霞。

 天候が悪化したかのように強烈な横殴りの吹雪が周囲を包み、視界が悪化している。

 そんな中であっても互いにひたすらに動き回りながら、流霞とフリュムは何度もぶつかり合い、しかし決定打には届かずに膠着状態が続いていた。


 ――速すぎて避けられる。【潮汐破断(ちょうせきはだん)】を警戒して深く入り込んで来ないし、一撃のあとの離脱も早くて届かない。


 互いに足を止めずに動き回る。

 フリュムは動きを止めれば他の面々に捕まることを理解しているのか、それを嫌っており、一方で流霞は、常に仲間たちのカバーに入れる位置を気にする必要があるために、大きく動き回ることを強いられている。


 不幸中の幸いは、流霞が重力を操っているおかげで疲労も少なく済んでいることだろうか。

 それでも、ゴーレム系統と思しきフリュムに疲労の色が見えない以上、ジリ貧なのは間違いなく自分たちだ、と流霞は思う。


 ――菜桜さんは、さっきから動かない。でも、諦めた目をしている訳じゃない。機会を窺っている……とも少し違う。でも、こっちをちゃんと見ているから、すぐに動けるはず。


 流霞は持ち前の視野の広さを発揮し、戦いながらも周囲を確認していた。


 奏星は魔法を〝焼失〟させ続けるために、定期的に周りに薄い炎を走らせている。

 莉緒菜や瑛里華、聖奈、それに美佳里も、隙を見つけようと集中力を持続させて戦いを見守っている。


 膠着状態は続いているものの、しかし、今の状態で無理に押し込もうとして崩れてしまうのはリスクが高い。


 ――それにしても、さっきから吹雪が強く……? あれ?


 鬱陶しく吹き荒ぶ吹雪は、奏星の炎に焼かれて消えては、また復活している。

 炎に触れて溶かされたのか、と何も考えずに受け止めていたが、今の奏星の炎に《《熱はない》》。

 であれば、この吹雪が消えるのは、奏星が燃やしている対象――つまり、魔法なのではないかと、流霞はその違和感に気がついた。


 ――何のために? 攻撃、防御、どちらでもないような。でも、無意味な魔法だとは思えないし……――ッ! 破壊した右腕、あんなに長くなかった!


 先程までは肘よりも上あたりの位置まで破壊されていたはずの腕。

 それが、今ではちょうど肘あたりまでの長さになっている。

 よくよく見れば吹雪くように吹き荒ぶ風が、フリュムの右腕あたりで渦巻いている。


 それらが意味することを逸早く見抜いて、流霞が視線を動かさないまま口を開いた。



「――この魔物、周囲の冷気を集めて身体を回復してる! この吹雪はコイツの魔法だと思う!」


『は!?!?』

『マジだ、腕いつの間にか伸びてる!?』

『周囲の全ての氷とか冷気を吹っ飛ばさないと延々と回復されるってこと!?』

『めちゃくちゃ厄介過ぎないか……?』

『どうやって勝てっての?』



 驚愕するコメント欄は、回復持ちの魔物であるということに絶望したような空気を放っている。

 しかし、流霞はそういった普通の感想を抱かず、ただただシンプルに考えた。


 ――回復される前に全部壊せばこっちの勝ち。


 そこまで考えて、再びフリュムと交錯。

 着地しながら奏星の近くへと移動し、一度たりともフリュムからは目を離さないまま、トントンと跳ねるようにリズムを取って改めて口を開いた。



「奏星」


「おけおけ。周辺の氷、全部溶かす」


「うん、お願い。私は――アイツを壊しきる」



 短い二人のやり取りだけで、奏星と流霞の行動方針が定まった。

 先程までも定期的に魔法を〝焼失〟させる炎を走らせていたが、今度はそうではなく、炎が渦巻くように燃え盛り、地面を燃やしているかのように周囲に広がる。


 吹雪が封じられたことに気がついたのか、フリュムが周囲を軽く見回すように頭を動かしてから、消えるように駆け出した。

 迷うことなく最大の障害である流霞を狙い、真っ直ぐ突っ込んできている。

 対する流霞も、それを見て詰めるように一気に飛び出した。


 右腕の再生はまだ完全には終わっていない。

 右肩で体当たりを狙ったような体勢で突っ込んでくるフリュムが、左手を身体の向こう側から突き出してくる。


 瞬間、ぞわりと嫌な予感がして、流霞は【潮汐破断(ちょうせきはだん)】と大鎌での反撃をやめて回避に専念し、横に跳び、フリュムの一撃を回避した。


 その判断は正しかった。

 何も持っていなかったはずの左手の形状が、刃に変わって伸びていたのだ。

 もしも腕だと思ってそのまま迎撃しようとしていたら、伸びたリーチにタイミングを崩され、そのまま身体を斬り裂かれていただろう。


 ――ッ、コイツ、本当は一瞬でどうにかできる……!? ってことは、右腕もこのタイミングで治してくる!


 流霞を追いかけるようにぐるりと身体を回し、その場で足を軸に回転するように振るわれた右手。

 流霞が予想した通り、右腕もまた鋭い刃を伸ばしていたようで、真っ直ぐ流霞の身体へと向かって振るわれる。


 その一撃を予測していた流霞はロッドを立てて一撃を受け止めながら、その勢いに吹き飛ばされるようにして再び距離を取った。


 どうにか凌いだ連続攻撃。

 仕切り直しに――と流霞が構え直すより早く、フリュムが動いた。

 流霞が吹き飛ばされて離れたその瞬間を狙って、標的を変えるように即座に飛び出し、炎を操る奏星へと肉薄する。



「――まず……ッ!?」



 奏星の反応が僅かに遅れたことに、流霞も気がついた。

 けれど、流霞はその奏星の後ろから迫った影に気がついて、ほっと安堵する。



「させないッ!」



 奏星の前に飛び込んできたのは菜桜だった。

 いつもなら片手ずつに持っていた短剣を一本だけ、右手で持ち、そこに左手を沿えてフリュムの一撃を受け止めた。


 菜桜ではフリュムの攻撃を捌ききることはできない。パワーが違い過ぎるのだ。

 速度に特化し、腕力や膂力があまりない菜桜では、敵の強烈な一撃にあっさりと身体を押し込まれてしまう。


 今までの菜桜であれば、止めることなどできない――そのはずだった。


 しかし今、フリュムの攻撃が菜桜の短剣に受け止められ、大幅に減速。

 その隙に奏星も後方に離れることに成功した。


 フリュムもすぐに菜桜に攻撃を仕掛けるが、奏星が下がった以上、無理に受け止める必要はない。

 身軽に身体を動かして避けてみせると、短剣を太腿につけたナイフシースに戻すと、両手をぶらぶらと振ってみせた。


 フリュムが再び動こうとしたところで、横合いから迫りくる赤い霧の塊に気が付き、後方へと跳ぶ。

 直後、フリュムの立っていた場所に流霞の【潮汐破断(ちょうせきはだん)】が襲いかかり、どばん、と激しい音を立てて地面が破裂し、流霞が飛び込んできた。



「菜桜さんっ、大丈夫ですか!?」


「ん……っ! いける……! 任せてくれて、いい!」


『うおおおおおお!!』

『菜桜ちゃんきたああああ!』

『ないすうううう!』

『すげえ、あの一撃受け止めて吹っ飛ばなかった!』

『どういうこと!?』

『今までの菜桜ちゃんなら身体ごと持っていかれたんじゃ!?』



 流霞に答えてサムズアップしてみせた菜桜が、再び短剣を手に取り、一つ深呼吸。



「ごめん、るかちー。待たせた。あとは私が決める」


「……何か、掴んだような感じですね」


「ん、迷走してたけどもう大丈夫。今の私は――最強だと思う」



 吹っ切れたように、気負いもなく告げるその姿は、妙な説得力があった。


 ――やっぱり、私にはこれが正解。


 菜桜は今、改めて思う。

 正直に言えば、スキルの拡張というものは、菜桜が抱いていた《《劣等感》》を刺激するものであると言えた。


 莉緒菜の【悪魔】、瑛里華の【雷纏】、聖奈の【支援魔法】。

 そのどれもが特徴的で強いダンジョン因子だ。


 だというのに、一方で自分は【身体能力強化】。

 あまりにもシンプルで、それ以上でもそれ以下でもないもの、というのが菜桜の自身の評価であった。


 自身のダンジョン因子に、どこか不満と言うか、物足りなさのようなものばかりを感じてきた。

 だから、少しでも役に立てるようにトラップに対する知識や観察眼といったものを鍛えて、パーティで自分がしっかりと貢献できるように努力してきたのが、これまでの菜桜だったのだ。


 だからこそ、スキルの拡張と、それによってできることの応用の広さを知り、菜桜もまた自身の【身体能力強化】に、これまでとは違う強さに繋がる何かがあるのではないかと期待して、色々と試しては失敗に終わっていた。


 自分にも特別になれる何かがあるはず、と。

 そんなことを思って、肝心の【身体能力強化】という本質に向き合うことすらせずに迷走していたのだ。


 ――スキルの拡張で、【身体能力強化】に、ただ身体を強くするだけじゃない何かがあると、そう思って……ううん、そう《《思いたかった》》。みんなみたいな《《特別な何か》》があるんじゃないかって、そっちにばかり期待してた。


 自分がスキル拡張に至れなかった理由は、正しくそれだったと、今だからこそ菜桜は思う。


 そんな迷いが、どれだけちっぽけで、滑稽で、本末転倒なものだったのか。

 今の菜桜にはよく分かる。


 自分にあるのは【身体能力強化】。それは変わらないし、変えようがない。

 それを自分自身が否定してしまって、それで足手まといになってしまっているなんて、《《ないものねだり》》をしている場合じゃなかったんだ、と。



「るかちーのおかげ」


「へ? 私、です?」


「ん。るかちーがアイツと戦っているのを見て、理解した」



 唐突に水を向けられてきょとんとする流霞に、菜桜は全てを説明するつもりはなかった。


 流霞だけが、フリュムと渡り合っている。

 速度も、力も、【身体能力強化】を持っている訳ではない流霞が、あの魔物と渡り合ってみせていた。


 その姿を見て、菜桜はふと感じたのだ。


 流霞の身体能力の高さは、魔力による強化が由来だ。

 つまり、【身体能力強化】を持っている菜桜に比べて、その強化比率はまだまだ低いと言えるはず。

 だというのに、流霞がそこまで渡り合えて、【身体能力強化】を持ってるのに自分は渡り合えていない。

 そんな自分が酷く情けなくて、悔しくてしょうがなかった。


 ――自分は、【身体能力強化】を持っているのに。


 そう、その時になって自分のダンジョン因子に誇り、あるいはプライドのようなものを自分が持っているのだと、菜桜は気がついた。


 流霞の運動能力が【月】特有の能力ではないのだから、【身体能力強化】というダンジョン因子が負けるはずはない。

 きっと、自分が持っているこの力は、その上がり幅を飛躍的に上昇させてくれるはずだと、菜桜は信じることにした。 


 そうして、極限まで【身体能力強化】を極めると、覚悟を決めた。

 これまで、意識せずに垂れ流しているような状態だった身体の強化を、集中させ、意識的に練り上げて、さらに数段階上への強化を図る。


 不可能ではないと、菜桜は理解していた。

 だから、魔力を意識して、己の限界の先へ、さらにその先へと強化する。


 ――もっと速く、もっと強く、私はなりたい……。


 そんな想いを胸に、強化の幅を、限界へと引き上げる。

 この瞬間、確かに菜桜のスキルは拡張され、『特化』を得て、新たなスキルへ派生した。



「――【韋駄天】、【金剛】。いく」



 身体から湯気のようなものをゆらりと出しながら、菜桜の姿が消える。

 直後、フリュムの左腕が中空を舞い、その後方で、菜桜が両手に短剣を持ち、静かに告げた。



「――【閃刃斬霞(せんじんざんか)】」



 菜桜の身体がふっと消え、フリュムの身体の周囲を無数の銀閃が走り、ばらばらに斬り裂いた。


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