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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第5章 蠱毒の王

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【配信】魔装お披露目狩り Ⅰ




「いやっぽー」


「やぽやぽ」


「いやっぽ……やぽ?」


『はじまた!』

『草』

『カナっちww』

『ミカミカは順応してっけどきひ子ちゃん困惑しとるやんけww』

『相変わらずゆるいw』

『ぬるっと始まるじゃんww』

『これだけでアドリブだって分かるんよw』



 ドローンに向かってひらひらと手を振りながら、声を張るでもなくゆるりと声をあげた奏星と、それに即応してみせた美佳里。

 唯一流霞だけが置いてけぼりになったように尻すぼみしながら真似るという姿に、視聴者たちのコメントが最初から凄まじい勢いで加速した。


 あの全国新人探索者パーティ対抗戦の影響は、まだ始まったばかりだというのに同時接続者数はすでに5桁になり、時間が経つにつれて徐々に増えていく。


 配信が始まったことに気付いたばかりの視聴者たちが集まる、開始5分程の間は本題に入らずに、少しゆったりと待つ方が視聴者も追いつきやすい。

 そうした時間を埋めるように、ちょっとしたオープニングトークが始まった。



「いやさ、あの大会からこっち、めっっっっちゃ忙しかったんよ。配信する暇なくね、ってなった」


「それなー」


「色々ウチらもやることありすぎてさー。配信リクエスト貰ってたけどごめーん」


『気にしないで!』

『学生でもあるからね』

『この時期はしょうがない』

『探索者一本でやってるならまだしもなぁ』

『毎秒配信して!』

『探索だけじゃなくても雑談配信でもええんやで』

『地味に無茶苦茶言ってんのいて草』



 奏星と美佳里のトークが始まり、コメントはそれなりの早さで流れているものの、爆発的な流れからはずいぶんと落ち着いてきたが、それでもやっぱり早い。

 きっと流霞が今の同時接続人数を知れば、それはもう埴輪のように固まって動かなくなる程度の早さと人数である。


 とは言え、AIで類似の言葉は表示されなかったり、アンチ――邪魔をするようなコメントや文句を言ったり――なども排除される形となるおかげで、奏星や美佳里のようなデバイスをつけている面々ならば余裕で反応できる速度だ。



「――で、今日は久々の配信なんだけどー、コラボしまーす」


「まあウチのコラボって言えばもうお馴染みだけどねー。るかちー、紹介よろー」


「はぇ゛っ!? ま、まま、〝魔女の饗宴(まぞのきょーえん)〟の皆さんですっ、どぞ!」


「ちょいちょいちょい待たんかいるかちー! なんやねん、その被虐嗜好高めな連中がアホみたいに騒ぎ倒すみたいなあかんやつぅ!」


『草』

『あかんwwww』

『マゾの饗宴?w』

『マゾの競演ww』

『あかんやつwwww』

『瑛里華のツッコミが冴え渡るww』



 悪気はないのだ。

 ただちょっと、台本もないのに目立つ役を振られて、舌が回らなくなってしまったせいで、思わず一部を噛んだだけだ。噛んだ場所があまりにも最悪過ぎただけである。

 すでに〝魔女の饗宴〟の方でも配信は始まっているため、そちらでも草が生い茂っていた。


 そんな中、莉緒菜が長い髪に手櫛を通して自分たちのドローン真っ直ぐ見つめ、冷たい笑みを浮かべた。



「私はどちらかと言えば嗜虐嗜好(サディズム)の方が好みよ」


「何言うとるん!?」


「私もそうですねぇ~。ダメ男は嫌いですけれど、ちょっと情けない方が可愛いと思いますよ~」


「聖奈!?」


「私はどっちも興味ないけど、やられたらやり返す」


「菜桜まで語るんかいっ!?」


『草』

『解釈一致が過ぎるww』

『莉緒菜様がMは確かに解釈違いだわw』

『地味に聖奈様もそんな感じするわw』

『魔女様たちがこういう会話するのめっちゃレア過ぎるww』



 元々、〝魔女の饗宴〟はロール(役割)を重視して演技をしている配信スタイルだ。

 とは言え、それが〝金銀花(カプリフォリオ)〟と一緒のようなケースではずっと維持するのも難しいため、少しずつ素に近い方向に軌道修正を始めることにしていた。


 そういう意味で、流霞の今回の噛みっぷりは色々な意味で好都合ではあった。

 瑛里華もしっかりとツッコミを入れながらも、地味に「ナイスや、るかちー!」と頭の中では称賛すらしている程である。



「ほら、コメントでもそう言っているでしょう? だから、ウチで被虐嗜好を持っているのは瑛里華だけね」


「なんでやねん!?」


「だって、瑛里華はいじられてなんぼ、みたいなところがあるでしょう?」


「それは関西人の血ぃや!」


「ほら、嬉しそうだもの」


「ツッコミ入れて生き生きしてんのは被虐嗜好ちゃうわボケぇ!」


『腹痛いwwww』

『くっそww』

『関西人の血ww』

『主語でっかwwww』

『開幕からクソ笑わせてくんのやめーやw』



 もはや漫才やコントでも見せられているような気分で視聴者たちが盛り上がる。

 そんな中、奏星と莉緒菜が並ぶように移動し、両方のドローンが二人を映した。



「はいはーい、そろそろ本題入ろー。で、ウチらは今日も中層13階層の魔物狩り、今日はこの2パーティで挑戦ねー。ただ、ウチら〝金銀花(カプリフォリオ)〟と〝魔女の饗宴〟は同じ階層で少し離れた位置で戦う感じになるから、できたら視聴者のみんなは2窓でよろー」


『離れるんだ』

『3人と4人で7人だから、全員固まって行動かと思ったけど』

『案内感謝!』

『了解!』

『どっちも楽しみ』


「〝金銀花(カプリフォリオ)〟の方は相変わらずるかちーが意味分からないぐらい強いし、カナっちの炎も火力が尋常じゃないから見どころね。それに、ミカミカも最近は【色彩豊かな魔弾ヴィヴィッド・カラーズ】のおかげで多種多様な状況に応じれるようになって、見どころが多いわよ」


「いやいやいや、〝魔女の饗宴〟だって凄いじゃん。りおなんやべーし、えりりんもヤバめだし。せーなんもなおなおんもすげー強いじゃん」


「カナっち、すげーとやべーしか言ってへんやん」


「伝わるっしょ?」


『莉緒菜様優しいw』

『後輩を見るように誘導する先輩の鑑すぎる』

『やべーとすげーしか言ってないよ、カナっちww』

『語彙力勝負カナっち敗北ww』

『カナっちの語彙力ギャル感w』

『まあ、伝わるけどね?w』



 シンプルだからこそ余計に伝わるというものもあったりするのだが、少なくとも語彙力という意味では圧倒的に莉緒菜の方が上なのは間違いなかった。

 正直なところ、流霞も奏星の表現力には疑問を抱いたのは間違いなかった。


 と、ちょうどそんな感想を抱いてちらりと流霞が視線を向ければ、その先には巨大な魔物が群れを率いている姿が目に入った。



「――奏星、ミカミカ。きた」


「おけ、見えてる」


「りおなん、あれ、こっちがもらって良さげ?」


『何あの集団?』

『いや、デカ過ぎじゃね?』

『オーガ系か?』

『とりあえず厄介な集団なのは間違いなさそう』



 そんなコメントを他所に奏星が莉緒菜に問いかければ、莉緒菜がふっと小さく笑ってみせた。



「――《《魅》》せてあげなさいな。新人探索者パーティのトップになった、その実力を」



 短くそんな言葉を告げれば、奏星と流霞が魔装を顕現させた。


 ロッドに描かれた蔦が黒と金色に染まり、ロッド全体の色が銀色めいた色合いに変化した流霞の魔装と、剣身の赤い線に絡みつくように暗いオレンジ色の線が伸び、剣身の柄の部分に黒い宝珠が埋め込まれた奏星の魔装が、その手に現れた。



『やっちゃえ!』

『あれ?』

『なんか二人の魔装、少し変わったっぽくね?』

『また!?』

『え、なんかちょっとダーク感増した感じ?』



 視聴者も細かいところによく気が付く。

 二人の魔装――否、正確には莉緒菜の魔装も含めて変化したのだが、そのことに気が付いた視聴者たちが言及するコメントを書き始めた。


 そして――――



『きひ子ちゃんのロッドは以前までは白と青の二色のグラデーションだった。しかし今回は黒と金色が増している。その一方で、カナっちの細剣もオレンジ色の線と、剣の柄の部分に埋め込まれた黒い宝石、宝珠とでも言うようなものが生まれた。かつて二人が触れ合った時、魔装に変化が起きたことがあったはずだ。つまり……新たな百合の気配……!?』



『周郷おるやんww』

『周郷wwww』

『百合豚がよォ!ww』

『めっちゃ長文やめーやww』

『新たな百合の気配ってなんやww』



 ――――地味にこの配信を、とある百合の国の王子もまた観ていることが発覚し、コメントが爆発したような勢いで沸いているのを他所に、流霞が先手を切るように一気に駆け出し、【朧帳】を発動させて姿を消した。


 直後、流霞が上空に加速しながら落下している姿にドローンやその場にいる者たちが気が付き、次の瞬間――着弾。

 凄まじい爆音を奏で、大地が爆発したかのように砕かれ、砂塵が舞い上がり、魔物たちが吹き飛んでいった。



「――は?」


『は??』

『いや、え?』

『何が起きてるんです????』

『いやいやいやいや』

『なんやそれ意味わからんってええええ!!!!』



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