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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第4章 新人探索者パーティ対抗戦

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探索者協会の変化




 初夏あたりを契機に、様々な話題になったことから〝金銀花(カプリフォリオ)〟。

 良くも悪くも注目を集めた彼女たちの配信チャンネルも、登録者数が78万人にまで増加。

 活動から半年程とは思えない異例の上昇率を誇っており、しかも今もまだ話題の渦中にいることもあって、じわじわと視聴者を伸ばし続けている。


 ――色々な意味で話題に事欠かないパーティだな。

 探索者協会で働く(なつめ) 惣治郎(そうじろう)という三十代前半の男は改めて思う。


 始まりは人為的『魔物氾濫(スタンピード)』事件。

 初めてのケースとも言える事件を前に、お役所めいた仕事体制が定着してしまった探索者協会は、現場の影響や被害を考えずにマニュアル通りの対応しかできず、あわや低レベル探索者を犠牲にしかけてしまった。


 それだけだったのならば、不祥事として何人かが責任を取る形で更迭されただけで済んだだろう。

 そうして被害者遺族以外には過去の出来事となるよう、メディアで取り上げなくなれば、ただそれだけで世間の中では〝過去の事件〟として風化させればいい。


 これまでもそうやってきたのだから、今回の件でもそうすれば良かった。


 だが、ここで英雄的な行動を取ってしまった女子高生――つまり、〝金銀花(カプリフォリオ)〟の活躍が、〝正しさ〟を証明する形となってしまったのが問題だ。

 探索者協会のお役所的な対応と真逆の救出に成功してしまったが故に、探索者協会への責任を求める声が大きくなりすぎた。


 これに焦ったのが、よりにもよって探索者協会の外――つまり、探索者協会に天下りしてきた連中や、推薦という形で入り込み、そういった者たちと繋がっていたことで利権に与っていた者たちだ。

 彼らは探索者協会が必要以上に叩かれることを危惧し、内部への監査が強まり、そこから芋蔓式に自分たちに捜査が及ぶのを強く恐れた。


 故に、彼らは世論に圧力をかけ、英雄的な活躍をした少女たちを、『力があるからと従来の対応を邪魔して、結果として称賛されるようになって増長した目立ちたがりの子供』とするよう誘導させた。

 俗に言う迷惑系配信者などが、モラルやルールを破ってまで注目を浴びようとするような、そういう行いと同じようなものだと印象付ける。そういった連中であるのだとメディアを煽り、世論を動かそうとした。


 しかしそれは上手くいかなかった。


 今時分、テレビやメディア発信の情報、週刊誌などが持つ力は最盛期に比べて見る影もなく衰えている。

 SNSでは炎上騒動が起こり、視聴者離れが加速。さらにはスポンサーがSNSに端を発する不買運動などの影響を鑑みてスポンサーから下りてしまうなどの事態にも発展することも珍しくない。


 要するに、〝金銀花(カプリフォリオ)〟を潰そうとした者たちが得意とするような従来の手法は、とっくに過去の遺物と成り下がり、通用しなくなっていたのである。


 そうした動きもあり、さらには〝金銀花(カプリフォリオ)〟側が〝優良探索者制度〟に目をつけて動き出してしまったのだから、追い詰められるように暴走した者たちが現れ、直接手を出そうとしてしまい、そのまま返り討ちにあって捕まるという有り様だ。


 結果、探索者協会の上層部が保有していた暗部の存在が明るみになり、大手クランが介入を求めてくるに至り、さらには一般人からも強い批難が向けられるようになり、探索者協会側も旧体制から大幅に改善されることになった。


 ――まあ、俺らみたいな中間管理職にとっちゃ、〝金銀花(カプリフォリオ)〟サマサマなんだけどな。


 いつまでも上層部に居座り、みっともなく椅子にしがみつく化石のような上司。

 何かがあっても若い頃の過去を引き合いにすることしかできない者たちがいなくなったおかげで、探索者協会はずいぶんと風通しが良くなった。


 ――もっとも、有能だった者はとっくに旧体制に見切りをつけて辞めていった者ばかりではあるんだが。


 そんなことを考えていた棗のスマホが震え、棗はそこに表示された名前に目を見開いた。

 慌てて席を立ち、棗は廊下を早足で歩きながら通話に応じると、「すまん、まずは人の声がないとこに移動する」とだけ言って非常階段へと早足で出ていった。


 そうしてようやく建物の外に出たところで、棗は改めてスマホを耳に当てた。



「――すまん、待たせたな」


《いえ、想定していましたので問題ありません。お久しぶりですね、棗課長》


「ははっ、悪いがもう課長ってポストじゃなくなっちまったがな」



 電話越しに聞こえてきた声に、棗は苦笑混じりに答える。


 先日の内部粛清によって既存のポストは刷新され、能力によって新たにポストを決める方針にまとまった。

 その結果、棗は課長から降格――ではなく、昇進することになってしまったのである。



《話は伺っています。昇進、おめでとうございます》


「おう、ありがとな。――んで、おまえさんは今、何してんだ? 《《霧島》》」


《少々やりがいのある仕事を見つけて、そちらで働いています。ちなみに、給料はそちらにいた頃の倍ですよ、倍》


「……羨ましくてムカつく」


《ふふ、まあそれはさて置き、ですが。今、私は〝金銀花(カプリフォリオ)〟の所属するクランに雇われていまして》


「――っ、マジか……。さっきまで配信観てたけどよぉ。あの嬢ちゃんたち、どうなってんだ?」


《間違いなく、新たな時代を切り拓く子たち、といったところですね。少なくとも、私はそう感じていますし、そうであってくれた方が支え甲斐があると思っています》



 堂々と言い放ってみせる紅音に、棗は一つ溜息を漏らした。


 紅音はかつて、棗と同じ部署で働いたこともあった。

 年功序列の体制に苛立ち、淡々と仕事をこなしながらも不満を溜め込む紅音や新人たちを、棗は気遣い、ストレス発散に飲みに連れていったり、発散させるために色々と骨を折ったこともあった。


 気持ちは分かる。

 何せ棗こそ、昔からそういった体制には辟易としながら生きてきたのだから。

 だが、それを耐えて昇進した棗とて、有能であるが故に見えてくる組織の粗や無駄というものを後生大事にしたがるような者たちをどうにもできないのだ。

 何も変わらないまま力及ばず、紅音たちのような有能な人材が辞めていくのを見送り、残り続けてきた。


 そんな中でも特に記憶に残っていたのが、紅音だった。


 私情を挟まずに業務をこなし、最適化を行っていく。

 上司の許可を取らずとも、自動化できるところは常に自動化させ、ツールを使い、効率化を進めながら処理していく。

 そんな紅音の能力値の高さから、いずれは自分よりもずっと上に行けるであろう人材だとも考えていたからだ。


 もっとも、そういう人材だからこそ、組織の粗に気が付いて辞めていってしまったとも言えるのだが。


 そんな紅音がここまで言うというのは、棗にとっても驚きであった。



「……俺にわざわざ電話してきたってこたぁ、探索者協会が〝金銀花(カプリフォリオ)〟にまだちょっかいかけようとしてんじゃねぇかって心配したから、だな?」


《話が早くて助かります。我々は、探索者協会に対しては信用も信頼もしていませんので》


「お、おう。その探索者協会にいる俺にそれ言うかよ、普通」


《言いますよ。分かりきっていることでしょうからね。その点、棗課長ならばそれを承知で回答いただけるかと》


「……なるほどな」



 自分の命を狙ってきたような組織、と考えれば、そんな組織を信用も信頼もしなくなるのは当然の帰結とも言える。

 そんな組織の内情を把握しておきたいと紅音がわざわざ動くということは、よほど彼女も今の環境が気に入っているらしい、と棗は小さく笑う。



「今、〝金銀花(カプリフォリオ)〟は探索者協会の中じゃ『取扱注意対象』になってるぜ」


《っ、本当ですか……?》


「おう。じゃなきゃ、こんな時間に俺が配信なんて観ていられるわけねーだろ。ま、下手に手を出して懐柔しようとするつもりはねぇみたいだな」



 棗の言う『取扱注意対象』とは、上層部の決定がなく職員が独断で接触をしようとしたり、持ってきた案件を勝手に処理せず、必ず上層部へと連絡して指示を扱うように、という、言わば特別扱いが決定した対象を指す。

 この情報は一般的に外には出ておらず、しかしどの職員であってもデータを照会すれば一目でそういう存在だと分かるように表示がつく。


 以前までは、上位探索者パーティやその関係者、影響力のあるクランの上層部メンバーのみにだけ使われていた『取扱注意対象』。

 そこに〝金銀花(カプリフォリオ)〟が入っているのだと聞かされたからこそ、紅音は驚愕を隠せなかった。



《……つまり、探索者協会としては現状、触らぬ神に祟りなし、と?》


「らしいな。ちょっかいをかけるつもりなら、データ照会もロックされるはずだ。そういうつもりはないと言っていいだろうぜ」


《……そうですか。安心しました》



 本当に心配していたらしく、安堵して答える紅音の言葉に僅かに驚きつつ、棗はぽりぽりと頭を掻いた。



「……ま、俺の方でもこまめにチェックしておいてやるよ。何かあったら連絡させてもらう」


《よろしいのですか?》


「構いやしねぇよ。大した手間でもねぇしな」



 ――それが、こんな場所から飛び出すこともできずに残り続け、守れなかった部下への、せめてもの応援になるなら。


 そんなことを考えながら、棗は紅音にそんな言葉を告げたのであった。



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