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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第4章 新人探索者パーティ対抗戦

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脳筋理論




「――公式発表きたー。これ、〝第23回 全国新人探索者パーティ対抗戦〟の概要だって」



 夏休み明け、最初の土曜日――いつものクラン事務所内。

 朝一番で、この場所には雅と雪乃、〝金銀花(カプリフォリオ)〟の流霞、奏星、美佳里。そして、〝魔女の饗宴〟の莉緒菜、瑛里華、聖奈、菜桜が集まっていた。


 新事務所こと研究所は手続きと一部改装作業などに追われているため、本格的な引っ越しは順調に行けば冬休み前――12月の中旬頃になりそうだ、ということなので、今のところは少しずつ動かしてもいい荷物から整理を始めているところである。


 そんな事務所に朝一番から集まっている理由こそが、今しがた雅が告げた通り、〝第23回 全国新人探索者パーティ対抗戦〟の概要発表が予定されていたからだ。


 全国新人探索者パーティ対抗戦は、毎年その競技種目が異なり、開催の一ヶ月前まで情報がオープンにされない。

 ちなみに、参加申請についても開催二週間前まで受け付けていたり、団体推薦についてもそのタイミングまでは登録可能となっている。


 ともあれ、雅が一行に告げつつパソコンを操作。

 モニターに映し出された全国新人探索者パーティ対抗戦のウェブサイトには、競技の内容が書き出されていた。



「あ、今年の種目は〝ハンティング〟なんだ」


「去年はなんやったっけ?」


「去年は協賛が多かったとかで、〝トライアスロン〟だったわね~」


「ん、過去イチ不評で次はないと言われてる」



 莉緒菜を筆頭に瑛里華、聖奈、菜桜が歯に衣着せずに物申す。



「〝ハンティング〟の説明はー……あぁ、あった。競技種目、〝ハンティング〟。パーティレベル毎にポイントが設けられている魔物の撃破数でポイントが加算され、勝敗が決定する……――へぇ、なんかおもしろそーじゃん」


「対人戦かと思ってた」


「対人戦は禍根が残ったり、怪我はもちろん、最悪命を落とすこともあるもの。だから、一般的ではないんだよー」



 美佳里と流霞の二人に、莉緒菜が苦笑して説明する。


 かつては対人戦を種目にしたこともあったのは確かだ。

 ダンジョンという謎の空間で超人的な力を持った者たちが戦うというのは、さながら映画のような迫力があり、観客たちもおおいに盛り上がった。


 しかし、試合後に因縁をつけてダンジョン内で争いになったケースや、行き過ぎた攻撃で命を落とした者も出てしまったのだ。

 さらに追い打ちをかけたのが、非公式に賭けが行われ、それに負けた腹いせに出場選手をSNS上で貶し、特定されてその選手に襲われる、というような事件などもあったことだろうか。



「――そうした様々な余波をコントロ―ルできなくて、あれ以来対人戦での直接戦闘競技は全面的に禁止とされているの。今の対人戦は〝シューティング〟っていうスキルを使った射的と、〝レース〟っていうパーティで障害物競争をするような対抗戦ぐらいかなぁ」


「へぇ、りおなん物知りー」


「あはは、そんなことないよー。やっぱり人同士だとやりにくい人もいるから、当然だと思うよ?」



 雪乃に褒められた莉緒菜が恥ずかしそうに否定する、その横で、流霞が眉間に皺を寄せて小首を傾げていた。


 ――あれ、私の孤児院……当然のように殴るが? 殴られるが??


 毎日のように殴り殴られをしていた孤児院時代を思い出していた。

 そのような『脳筋の里(こじいん)』と一般常識を一緒にするべきではないのである。



「当日は、チーム毎に決められたハッシュタグをつけて生放送。朝9時にダンジョン入場と配信開始を許可。その後、10時から競技開始だって。あ、ダンジョンも指定されたダンジョンとかじゃなくて最寄りダンジョンでいいみたい」


「最上層と上層がメインだし、その二つなら出る魔物も変わらないからね。混雑を避けられるし、いいんじゃないかな?」


「なるなる。入場開始ってことは、それまでに入場するのはダメなん?」


「ダメっぽい。ほら、下んとこに書いてある」


「えぇー? んじゃこれ、レベル低いパーティはスタートダッシュができるってことじゃんね?」



 雪乃と奏星、それに途中で莉緒菜が混ざってそんな会話をしていると、同じく事務所にいた紅音がウェブサイトを見つめながら近づいてきて、内容をざっと確認する。



「このルールですと、つまり1時間でパーティレベルに応じた魔物のいる場所まで移動できないと、競技の開始時間が遅れる、ということになりますね」


「うへぇ、レベル1パーティは最上層から上層の低い階層。レベル2パーティが上層の魔物がほぼ全てポイント対象で、深部に近づくと一匹あたりのポイントが微上昇。レベル3パーティは……――うわ、中層の魔物じゃん」


「うける。中層の魔物は進行階層によってポイント決まってて、種類別じゃないんだ」


「中層からはダンジョンによって魔物も変わるからってこと?」


「多分それ。あ、中層は低い階層から魔物のポイントちょい高くなるっぽい」


「一匹の討伐にかかる危険も大きいから、かな。そう考えると、割とこのルールならバランスいいかもね」



 紅音の言葉に雅、奏星、雪乃、美佳里がそれぞれに感想を言い合いながらも、しかしネックとなる開始時間のハンデを思い出し、顔を顰めた。


 レベル3パーティは中層の魔物だけにポイントが割り振られている都合上、最上層も上層も素通りしなければ時間だけを犠牲にすることになる。

 かと言って中途半端な速度で移動をすれば、魔物たちは追ってくる。

 もしも魔物を大量に引き連れるようなハメになれば、誰かが巻き込まれることにもなりかねないため、放置しておくという訳にもいかない。


 つまり、魔物が諦める程の速さで駆け抜けるか、それとも堅実に倒しながら進み続けるかのどちらかしかないということだ。


 一般的な探索者ならば、基本的には後者を選ぶことになるだろう。



「んー、やっぱレベル4パーティや探索者の参加はないっぽいね。そもそも設定されてないし」


「ま、そらそうやろ。活動開始から3年足らずでレベル3になるだけでも早すぎるっちゅーんが普通の感覚や。ウチらがレベル3パーティになったのは結成から2年ちょい経った頃やけど、それだけで〝期待の新星〟だのなんだの、そら持て囃されたもんやで?」


「まあ私たちは特殊だったから、そのまま人気パーティにならずに忘れられていっちゃったわよね~」


「ん、しょうがなし」



 演技の腕を磨きながら、という縛りがあったからこそ役作りを徹底し、配信ではその役をしっかりとこなす〝魔女の饗宴〟ではあるが、確かに数年前には凄まじい成長速度から、一時期話題になっていたのだ。


 ただ、縛りのせいで視聴者を選ぶ形になってしまった、とでも言うべきか。


 それ以来、配信の人気は言わずもがな、ではあるが、それでも探索者たちの中では名前は知られていると言っても良いだろう。



「んー、そう聞くと、そもそもレベル3パーティが出ること自体、めっちゃ稀なやつ?」


「せやな。昔はあったみたいやけど、少なくともウチらの数年前から今まで、レベル3パーティは出とらんはずや」


「瑛里華、詳しいのね~」


「ま、一応チェックはしとったからな。ただ、よりにもよって〝ハンティング〟てのは、〝金銀花(カプリフォリオ)〟らしい運の悪さっちゅーか、引きの強さって言うた方がええんか、迷うとこやなぁ……」


「どゆこと?」



 何やら苦笑しながら告げる瑛里華に、奏星が喰い付いた。



「いやな? 〝ハンティング〟は純粋な探索者の腕前を競い合うルールやし、ある意味分かりやすいから人気やな。けど、レベル2パーティが有利過ぎるっちゅー話題になって、テコ入れせなあかん、って言われとったんよ」


「テコ入れ?」


「せや。前までは魔物一匹で1ポイントっちゅー形やったはずや。種類によってポイント違うっていうのは、今回が初めてやし、そこがテコ入れになったんちゃうか? 知らんけど」



 ふーん、と聞き流しながら流霞はウェブサイトをじっと見つめていた。


 かつて〝天秤トラップ〟で敵対したトロール。

 あの魔物も中層8階層あたりから出てくる魔物だったはずだ。


 ――今の私で、どこまで戦えるかな……?


 今なら一人でも倒せるはず。

 それは驕りでもなんでもない、純粋な流霞の自身への評価である。


 そして、中層深部の魔物、レッドスケルトンとブリッツウルフ。


 あの時の自分では、命をかけて一対一でもどうにか倒せるかどうかという相手だったが、今の自分ならば――と戦闘に意識が傾き、口角が上がる。


 ああじゃないこうじゃない、大会の有利不利を語り合う面々の声は、流霞には聞こえていなかった。



「――きひっ。つまり、魔物を多く倒せば私たちの勝ちで、私たちが勝てばいいってこと、だよね?」



 流霞には細かいことまでは分からない。

 けれど、分からなくてもいい、とも思う。

 自分に不足している部分は、奏星が、美佳里が、そして雅と雪乃が補ってくれる。

 新しい仲間である〝魔女の饗宴〟も、教えてくれる。


 だから、難しく考えるよりも、何より。



「あぁ、早く戦いたいなぁ……」



 あの一件以来、ダンジョンに深く潜る時間が取れずに燻っている、自分の中にある幾つもの新しい〝技〟を試したい。

 ただ試すだけではなく、いっそのこと強い相手と――レッドスケルトンやブリッツウルフという、自分を追い詰めた程の魔物を相手に、どこまでやれるかを試したくて、うずうずしている。


 そんな流霞の言葉に、他の面々は目を丸くして固まっていたかと思えば、ふっと笑った。



「ま、極論それな」


「倒せるだけ倒せば勝ち。分かりやすいじゃん」


「めっちゃ脳筋だけど」


「いや、真理ってヤツじゃん?」



 戦いに向けて胸を踊らせる流霞から漏れ出た、熱のような何かに踊らされるように、誰もが獰猛な笑みを浮かべていた。



「――りおなん」


「ふふっ、そうだね。私たちも、負けてられないね?」


「あらあら、そうね~」


「ん、まだまだ先輩面させてもらう」



 その熱は、〝魔女の饗宴〟にもしっかりと伝播していた。


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