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常若比売の天降り婚  作者: 根占桐守
第四章
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第23話 もしも、逆だったのなら



 今日の日差しは一層強い。

 そのせいか、いつも以上に空の青が濃く、澄んでいるいるように思える。

 そんな初夏の日和。

 屋敷の縁側に一颯(かずさ)を座らせた常若は、お茶と茶菓子を差し出す。


「どうぞ」

「ああ、どうも。お気遣いなく……やないねん!」


 突如ノリツッコミとやらをしたかと思えば、一颯(かずさ)は片手で髪を搔き乱しながら常若に勢い良く問うてくる。


「あんた、こないだ喧嘩売ってきたよう知らん男相手に、何を茶ァしばこうとしとんねん!? もてなそうとすることある? 警戒心とか無いんか!?」

「警戒はしてない。だって今日の一颯、僕に対する殺意も敵意も感じられないから。お客さんにはおもてなしの心、大事。そう千種に教わった。ので、お茶をどうぞ」

「……」


 ツッコミの勢いで立ち上がったのだろう一颯が、常若の淡々とした返しを受けると黙り込んで再び縁側に座る。

 そして半眼でお茶と茶菓子をしばらく睨みつけていたので、常若は茶菓子のクッキー一枚を摘まんで食べると、お茶を飲んで見せた。


「……ん。毒とかは入ってないよ」

「は? ……あんた、毒とか入れられたことあるん?」

「うん。千種に出逢う前までは、たまに。まあそれも、五年くらい前の話だけど。でも、僕は異能の力が強すぎたから。毒で死ねることはなかった」

「……」


 一颯は一瞬目を瞠ったかと思えば「望まれざる……っちゅうことか、あんたも。俺たちと、少し似とるわ」と独り言ちて、茶菓子とお茶に手を付け始めた。

 それを目にして、常若は何だか胸がぽっと波打つような、心地いい感覚を覚えるのだった。

 いくつか茶菓子を摘まみ、お茶を飲んだ一颯は湯呑を持ったまま、どこか気まずそうに口を開く。


「……千種は。どこおるん」

「千種は、氷真(ひさね)のところ。今度、大規模神舞を展開したいって話が氷真(ひさね)からきたから、その打ち合わせだって。すぐに帰るって千種は言ってた」


 常若の答えに「まあ、別に? 微塵も? 興味あらへんけど?」とでも言いたげな顔をして、一颯が鼻を鳴らす。


「ほーん」

「一颯は千種と仲直り、しにきたんでしょう?」

「ぶっ」


 首を傾げて直球に尋ねる常若。

 それに一颯は飲みかけていたお茶を噴き出しそうになったようで、しばらく俯きがちになると咳き込んでいた。

 ようやく落ち着いたのだろう一颯が、常若から視線を逸らしながらも顔を上げる。


「……な、仲直りて。子どもか……ちゅうか、別にあいつとは喧嘩なんぞしてへんし。俺らの喧嘩言うたら、もっと、こう。取っ組み合いの殴り合いやから。ソーゼツなんよ、ソーゼツ。それに、いい歳して双子(きょうだい)喧嘩なんぞやってられへんし?」

「そうなの? この前、僕も含め結構取っ組み合うみたいな感じになってたから。あれはもう喧嘩なんだと思ってた。あとさっき『喧嘩売ってきた』って一颯、言ってたよ」

「ぐ……」


 痛いところを突かれたのか、一颯は低く唸ると「見た目に反して、レスバ(つよ)……油断できひんわ……」とぼそぼそ呟く。

 そんな一颯にも構わず、常若は相変わらずの無表情ながらも、どこか輝くような目をして真っ直ぐに一颯を見据えた。


「この前の一颯、凄かった。強かった。客神(まれびと)と神使、両方の(わざ)を自在に使いこなしてて。それで僕、そんな強い一颯のこと知りたくなって、一颯のこと、千種に訊いた。そうしたら千種、こう言ってたんだ——『カズは誰よりも、神使を愛してるから』って。僕は『あいしてる』とか、そういうのよくわからないけど。でもそれを聞いて、思ったんだ。もしかして、一颯は千種に自分の神使になって欲しいんじゃなくて……」


 常若は一瞬だけ視線を漂わせた後、また真っ直ぐに一颯を見つめた。


「本当は千種と一緒に、神使をやりたいんじゃないかなって」


 常若の言葉に一颯が目を大きく見開いて、常若を見つめてくる。

 その千種と同じ黄金の瞳は、確かに揺れていた。


「ほんの、ちょっと。たまに……ほんのたまに、気の迷いで思うねんな。俺やなくて、千種が客神(まれびと)に成っとったらって。しょうもない妄想なんやけど。それでも、考えずにはおられへん」

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