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常若比売の天降り婚  作者: 根占桐守
第四章
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第22話 意外な来客


 ◇◇◇


 それから数日。

 最近はますます神遺の出現が多くなり、常若と千種は毎日、神遺を鎮魂する神舞に追われていた。


「は、はあ、はあ……フ——……今日もお疲れ、若さん」

「……うん。千種もお疲れ」


 本日も屋敷周辺で神舞を終えた二人。

 以前ほどではないが、相変わらず息を切らして疲弊している様子の千種に、常若は「千種の負担を考えて。やっぱり他にも神使を雇った方がいいのではないだろうか」と思いながらも、空を仰いで息を整えている千種に片手を差し出した。


「大丈夫? もう少し休もうか」

「ん。ありがと、若さん。俺は大丈夫」


 常若が差し出した右手に、千種が「ぱん」と乾いた音を立てて互いの手を叩き合う。

 これも千種に教わった「神舞を整える行為」の一つで、こうして客神と神使、神使同士が互いの手を叩き合うと、拍手(かしわで)よりも強い効果で、互いの神舞共鳴率を高めたり、逆に深く共鳴しすぎた互いの弦を整えることができるのだとか。


「そんじゃ、そろそろ帰りますか」

「うん」


 二人は頷き合うと、屋敷に向かって歩き出す。

 しかし、ふと三歩ほど歩いたところで、千種の懐から着信音が鳴り響いてきた。常若と千種はすぐに立ち止まると、千種が「ごめん。ちょっと失礼、若さん」と常若に断って、電話に出る。


「はーい、もしもし。千種です……げっ。氷真(ひさね)くん……いや、今の『げ』っていうのは言葉の綾でして、ハイ……」


 相手は氷真(ひさね)のようだ。

 どうやら聞いた話によると。今度近いうちに銀鏡一家も交えて、大規模神舞を開かないかという誘いだった。氷真もこの地域の異常な神遺の出現率の高さを見かねてのことらしい。

 氷真との話を終えたのか、千種が電話を切ってスマホを懐に仕舞うと、隣に居る常若を振り向いた。


「悪い、若さん。話聞こえてたと思うけど、氷真くんから近々大規模神舞を共同で執り行わないかって誘われた。若さんはどう思う?」


 千種からの問いかけに、常若は即答する。


「氷真の言う通り、ここ周辺の神遺出現率は近頃、異常なもの。このままだとキリがないし、市街の方にまで影響が出始めたら厄介だ。だから僕も氷真の意見に賛成。大規模神舞の誘いは、是非受けたい」


 常若の答えに、千種がにっと口角を吊り上げた。


「若さんならそう言ってくれると思った。おし、んじゃ氷真くんのお誘い受けるのは決定な。そんで実は急遽、今から軽い打ち合わせできないかって氷真くんのとこに俺が呼ばれたんだ。場所はすぐそこの山界。そんなに時間はかからないと思うから、若さん。行ってきてもいい?」

「うん。わかった。僕の方は問題ない」


 常若が首肯すると、千種も頷き返して、そのまま身を翻してひらりと手を振って見せながら小走りで駆け出す。


「ありがとう。若さんは先帰ってゆっくりしてて! じゃ、行ってきます」

「気を付けて、千種。行ってらっしゃい」


 常若も小さく手を振り返して、千種の背中が見えなくなるまで見送った。


「……千種が帰ってくるまでに、夕飯の準備をできる分だけでもしておこうかな。お米なら炊けるようになったし」


 常若はそう呟きながら帰路につく。

 しばらくもしないうちに屋敷に帰りついた常若は、ふと立ち止まって目をしばたたかせた。


「……」


 屋敷の門の前では、見覚えのある高身長の男が、何やら落ち着かない様子でうろうろしている。

 濡羽色の髪、しかし千種より少しだけウェーブのかかっているお洒落なセット、今時の若者らしい服装、何より千種と同じ顔をした双子の片割れ——間違えようもない。一颯(かずさ)だ。


「……一颯(かずさ)?」


 思わず常若は、一颯へと声をかける。すると一颯は大きい身体をびくりと震わせて、弾かれたようにこちらを振り向いた。

 一颯はどこかぎこちない様子で目を泳がせながら「の、呪いのヒト……」と常若の声に小さく応える。

 どうやら相当に動揺しているらしい。

 意外だと、常若は何となく思った。

 常若は千種から以前習った、千種がいない時他者に会った場合の予行練習を思い出す。


『慣れない人と会った時はまず挨拶な。そしたら相手の緊張もほぐれる』


 そんな千種の言葉を反芻して、常若は再び一颯に声をかけた。


「こんにちは、一颯。よければ、お茶でも飲んでいく?」

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