第7話 切れない縁、切れなかった想い
「ん……。あれ? ここ何処?」
わたしが目を覚ますと、見慣れない天井。
天井から吊るされている点滴の容器。
……これって、定番のやつかしら? じゃあ、ここは病院ね。ああ、助かったんだ。
「やっと目を覚ましたのじゃ! 綾香お姉さま、良かったのじゃ!」
「ひなちゃん……。無事だったのね」
視線を声の方へ向けると、榛色の大きな瞳にいっぱい涙を浮かべたひながいた。
既に巫女姿から学校の制服らしき服に着替えている。
……あれから、大分時間がたったのかしら? 回りが明るいものね。えっと、他に病人はいないから個室かな?
眼だけを動かして周囲を見回す。
窓から来る光は強く、昼を感じさせる。
また、病室に他の患者はいない。
「無事だったかじゃないわよ、このバカ娘! 人様の心配をする前に、自分の状態を考えなさい。まったく貴女は昔から、人の為にいつも無茶をするんだもの」
「あまり責めるでない、陽子。綾香は、こんな小さな子を助けるために一生懸命頑張ったんだ。生きて帰れた事自体は褒めてやろう。まあ、自らの実力を考えずに首を突っ込んだのは、未熟者として叱らねばならんがな」
更に母や祖父から、厳しい言葉を受けてしまう。
確かに状況を深く考えずに飛び込んで、痛い目を見たのも事実だから。
「ごめんなさい、お母さん。お爺ちゃん」
本気で心配してくれる肉親に対し、多分またバカをしてしまうと思いながらも、わたしは謝った。
「あ、痛い」
痛みを感じて視線を下に向けると、左手側に点滴がぶら下がっている。
腕や足の一部に包帯は巻かれているものの、幸いにもギブスや添え木などは無い。
「ちゃんと指も動くわ」
「綾香! 何、気楽に言ってんの? 貴女、もう少しで死ぬところだったのよぉ。どうして戦う事なんてしたの?」
指をにぎにぎして、ちゃんと動くかを確認していると、母が更にお怒りの様子。
命がけの戦いだったのに、わたしに全く危機感がないように見えるのが信じられないらしい。
……わたしだって、今になれば夢だったのかもしれないって思う事もあるわ。全身の筋肉痛とひなちゃんの涙が無かったらね。
ベットから身体を起こそうとするも、全身の筋肉が悲鳴を上げる。
この痛みが、命がけの戦いをしたのだと現実に引き戻してくれる。
「戦っている間は実感なかったんだけど、今になって怖くなったの。あの時、どうして戦場に飛び込めたのかなって? でもね、お母さん」
母の言葉から、本当に心配してくれた事は理解できる。
母の目元には涙がたまっているし、薄黒い隈も感じられる。
かなり憔悴して、泣いたのでは無いかと思えた。
……でも、ひなちゃんは悪くない!
ひなの握りしめている手が大きく震えているのが見える。
これ以上、ひなに責任を背負わせて良いはずは無い。
わたしは、母に口答えする。
「あまり大声で叱らないでよ。わたし自身、自分が悪いのは十分に分かっているわ。でも、ひなちゃんまで悪いように言うのは違うよ?」
わたしの言葉に、母ははっとしてひなの方に視線を向ける。
そして、バツが悪そうな表情をした。
「あ……、ごめん。戦ったのは綾香だけじゃない。こんな小さな子まで戦わせた不甲斐ない大人が悪いわ」
ひどい筋肉痛を感じたので、身体を起こすのを諦め、まくらに頭を乗せ直す。
ひなの小さな背中が脳裏から離れない。
小さな身体に背負った大きな責務。
わたしには、ひなを見捨てることなんて出来なかった。
……でも、後悔は無いよ。もう一度同じ場面があっても、わたしは飛び込むから。
「綾香お姉さまのお母さま、此方が成すべき仕事にお姉さまを巻き込んでしまい、本当に申し訳ないのじゃ。此方が一人で戦っておれば……」
「ひなちゃんだったっけ? さっきは言い過ぎて、ごめんなさい。綾香が言う様に貴女が謝る事ではないわ。貴女も綾香を守って一緒に戦ってくれたんだもの。悪いのは人を傷つけた魔物と何もできなかった大人よ。でもね綾香、わたしがどれだけ心配したのか、そこは分かって欲しいの!」
「……うん。本当にごめん」
母が感情的になるのもしょうがない。
わたしだって可愛い娘が危険を犯して戦うのを黙って見ていられない。
ひなの母が、必死に取り乱さない様に警察を指揮していたのも、同じ様な思いだったのだろう。
「綾香。確かにお前には普通の人には無い素晴らしい『力』がある。だからといって無敵じゃない。今回も一歩間違えば二人とも魔物の餌食になってた。冷静に敵と己の戦力差を判断し、行動するんだよ」
母も祖父も、わたしの行動。
ひなを助けに行ったこと自体は責めない。
自分の身の安全を考えずに無謀なことをしたことを責める。
「……はい。以後気を付けます」
「もー。同じ事はしないって言わないのが貴女らしいわ。そりゃ、こんな可愛い子をひとり戦場に送るなんて、わたしも嫌だけど」
「ごめんなのじゃ……」
わたしの言葉に苦笑しつつ、しょんぼり顔のひなを優しく撫でる母。
やっぱり、わたしはこの人の娘だな。
そう思えた。
「あ!? そういえば、お母さんたちは、どうしてわたしとひなちゃんが魔物と戦ったって知っているの? 普通、こんな事は信じてもらえないから公にはしないはず? それに驚かないの??」
「そこはね、ひなちゃんのお母さまから詳しく話を聞いたの。あの方、ものすごく憔悴しきってらしたわ。今は事件の後始末で忙しくて、今夜遅くにもう一度来られるって話。あ、病院代は警察持ちだって」
我が母ながら、順応力の高さにあきれてしまう。
普通、霊だの魔物だと聞けばオカルトとバカにされてしまう。
驚く以前に信じないのは普通だ。
「そりゃ、昔から綾香がお化けがいるとか、山の神さまがどーとか言ってたら、慣れるに決まってる。俺もどっちかといえば見えるタチだし、あの嬢ちゃん。ひなちゃんのお母さんの家は先々代の婆さんから知ってるからな」
「えー! お爺ちゃんも、まさか魔物退治とか?」
わたしが詳しく知らなかっただけで、我が家は元から普通では無かったらしい。
どうりで、剣術道場で道場の教えが、普通の剣術とどこか違っていたわけだ。
「綾香お姉さまのおじい様? そのお婆様とは、もしやキヨと名乗られていませんでしょうか?」
今まで家族の会話に割り込まないようにしていたひな。
祖父がひなの家について古くから知っていると話すと、おずおずと先々代とやらの名前を尋ねた。
「ああ、そうだよ。なるほど、ひなちゃんの口調はあのババァ、失敬。キヨさんの口調がうつったのか。あの妖怪ババァに似合わぬ可愛い子に育ったものだ」
母から奪い取り、ガシガシと乱暴気味にひなの頭を撫でる祖父。
「い、痛いのじゃぁ。お爺さま、乱暴にするでないのじゃぁぁ!」
ヒナの可愛い悲鳴を聞き、病室に笑顔が広がった。
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