第5話 切り離したくない絆
「ひなちゃん! 敵はどこ!? ……まさか」
「綾香お姉さまの想像通りじゃ。おそらく、この病院が異界の魔神の身体。此方らが、魔神の腹の中に居るのじゃぁ!」
ヒトガタを斬り捨てたはずなのに、終わった感じがしない。
一向に粘りつくような殺気は消えず、根のようなモノで縛られ、壁に捕らえられている人たちも開放されない。
……壁も床も天井も、全部生きててるみたい。
わたしは、ひなと背中合わせになりながら、周囲を警戒する。
何処から襲われても、ひなを守り切れるように。
「母さま、母さま! 聞こえるかや? ん……。通信が届かぬのじゃ。この結界からは電波も届かぬのかや?」
「そのゴーグル、通信機にもなるの? え、電波が届かないんじゃ、応援が呼べないじゃないの! わたしのスマホも圏外!!」
ひなは、顔の半分くらいの大きなゴーグルを通して母に呼びかけるのだが、外部との連絡は付かない様。
わたしのスマホも、アンテナが全く立っていない。
「じゃあ、二人で戦うしかないんだよね」
「そうなのじゃ……」
このまま二人で戦って勝つしか、道はない。
ゆっくりと時計回りに動きながら、敵の動向を探った。
「綾香お姉さま、巻き込んでしもうて、ごめんのじゃ! 本来なら、此方一人で片付く筈じゃったのじゃが、コヤツ。どうや此方の術とは相性が悪いのじゃ」
「ううん、気にしないで良いよ、ひなちゃん。わたしが勝手に首を突っ込んだだけだもの。こうなったら、二人で戦おう。そして、絶対生きて帰ろうね」
じりじりと殺気が迫る中、謝るひなにわたしは戦って生き残るんだと宣言する。
「先程までは、弱弱しく震えておった童女が案外と強気よのぉ。ワレの一部を木刀で切った恐るべし小娘が来たからか。だが童女が言った通り、この屋敷全てがワレの身体よ。切るしか出来ぬ小娘にも、術を使いこなせぬ童女にも何も出来まいて……」
建物全体が震え、しゃがれた声が大きく響く。
その声は、ひなやわたしを弄び、嘲笑う。
「さて、もう少し弄ぼうぞ。一体で苦戦しておったが、五体から同時に襲われたらどうなるであろうかのぉ! 精一杯足掻いて見せよ、小娘らよ」
魔の声と共に床から五体のヒトガタ。
歪な形の人形たちが、まるで底なし沼の水面からぬめっと浮かび上がる様に現れる。
一体だけが紅い単眼を闇の中光らせ、他の四体はこちらに迫ってきた。
「ひなちゃん、先に言っておくよ。わたし、一切後悔していないから。貴女の背負う運命を全部は知らないけど、半分わたしに頂戴! わたしは、貴女の半身になって敵を切り伏せてみせる!」
ひなの母が流した悔恨の涙。
そして時折ひなが話す、「国」や「家の仕事」。
ひなが小さな背に負う運命は、とても重いのだろう。
……こんな小さな子が背負っていい物じゃないわ! だったら、何もないわたしが半分持つの!
ひなに迫ろうとするヒトガタを一撃の元に切り伏せる。
一体、また一体と木刀に切断の念を込めて。
「綾香お姉さま! 此方の為にお姉さまが傷つくのは嫌なのじゃ! もう、此方の前で誰もいなくなってほしくないのじゃぁ!」
ひなはお札を飛ばし、わたしの背後に回り込もうとするヒトガタを氷漬けにする。
そして、震えながらわたしに傷ついて欲しくないと叫ぶ。
「それは、わたしも同じなの。ひなちゃんが泣いているのを見るのはイヤ! だから、一緒に戦って生きよう。嫌な事でも半分こにしたら、楽になる。だから、今みたいに半分頼って!」
術の反動で動けないひなに覆いかぶさろうとするヒトガタ。
わたしは、ひなに熱い思いを告げながら木刀で突き飛ばし、袈裟懸け切りでトドメを刺す。
「……うん! お姉さまぁ」
ひなの笑顔を視界の端で見、わたしは残る敵。
真紅の単眼を持つヒトガタを睨みつけた。
「中々に手ごわい。じゃが!」
魔の声と同時に床や天井から根が一気に飛び出し、わたしの手足はあっという間に縛られる。
「くぅ! ヒトガタは囮だったの!?」
「ご名答。言ったであろう、建物全てがワレだと」
ぎちぎちと身体を締め付けてくる根。
わたしは手を強く捻り上げられ、木刀を落としてしまう。
「……お姉さまぁ」
声の方へ無理やり首を向けると、ひなも同じように床から生えた根で縛り上げられていた。
「これで童女も小娘も終わりよのぉ。二人とも実に美味しい『餌』。ワレがこの世界に長く居残るため、存分に精気を吸わせてもらおうぞ」
身体を締め上げられ、苦し気なひなの顔を覗き込む赤い眼のヒトガタ。
目以外はのっぺらぼうで表情も無いはずなのに、その顔は邪悪な笑みに見えた。
「さあ、甘い夢。永久に目覚めぬ夢に落ちるのだ。童女らよ」
ヒトガタの声と共に、強烈な眠気が襲ってくる。
締め上げられた身体は骨が軋み、色んな部分が痛むのにも関わらず。
「くぅぅぅ」
睡魔と必死に戦うわたしの脳裏。
ひなが目に涙をいっぱい貯めながら、にへらと笑った顔が浮かぶ
笑っているのに、肩が小刻みに震えていた。
一生懸命、小さな身体と心で戦い、自分がどうなろうとも何かを救う。
誇らしそうにするも、どこか諦めが見える笑顔が見えた。
「……ひなちゃん。うぉぉぉぉぉ!」
わたしの中で、ひなの存在がとてつもなく大きくなっていた。
ひなが失われることなんて、絶対に嫌だ。
唇を噛みしめ、口元から血が噴き出す。
ぎゅっと握りこんだ拳からも血が流れ落ちる。
今は、痛みも意識を保つために役に立つ。
……今、『切れ』なくて、何時切るのぉぉぉ! 木刀なんてなくても、わたし自身が切ってやる!
わたしは、縛り付けてくる根に向かって力を籠め、引きちぎろうとする。
腹から声を上げ、気合を込める。
「全部切れろぉぉぉ!!!」
わたしとひなを苦しめるもの、全てを切り裂け。
捕縛された身体を必死に動かし、わたしは世界に向かって叫んだ。
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