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比翼の乙女たち~見えぬ呪いを斬り裂き、因果を断つ女子高生異能剣士と祈りの幼女巫女の現代怪異譚~  作者: GOM


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第3話 切り拓かれる結界

「え!? もう警察が来ていたの?」


 わたしは寒い夜の街を自転車で走りぬき、廃病院に到着した。

 現場には既に黄色い非常線テープが引かれており、警官らが野次馬たちを病院跡に近づかせないようにしていた。


 ……警察は慌てていないって話だったのに、随分と早いわ。


 古い洋風作りの廃病院。

 白く塗られていたはずの木造外壁は雨と時間に削られ、月明かりの下では白骨のように見えた。

 いくつかの窓はガラスが破れており、中は真っ暗。

 入り口には、立ち入り禁止の張り紙とバリケードがある。


 朽ち果てつつある廃病院は、まるで骨格標本の様に周囲へおどろおどろしい雰囲気を醸し出していた。


「すいません。病院の中に友だちが入っていったみたいなのですが……」


 関係者を装い、わたしは規制線の中に入ろうとしてみた。


「病院内に入るのは危険です。立ち入らないでください。今、中を確認中です」


 しかし、規制線テープ前に立つ制服警察官に制止されてしまう。

 中に入った子たちの家族らしき人が来ても、警察官は誰も中に入れさせようとしなかった。


「どうしよう。ここからじゃ、中の様子が分からない」


 廃病院の周囲に、見えない「壁」らしいものがある。

 そう、わたしの感覚は告げている。


 ……この『壁』。嫌な感じだけど、わたしなら切れる気がする。


「もう、無理やりにでも中に……。あれ、あの子は!?」


 木刀をケースから抜き、強行突破しようとした時。

 警察庁警備局と車体に大きく書かれた灰色の小型バスが現場に入ってきた。

 そしてドアが開き、中から赤と白の衣装。

 巫女姿の小さな女の子が出てきた。

 彼女の到着により、淀んでいた空気が一瞬で澄んだように、わたしの感覚が告げた。


「え! ひなちゃん!?」


 わたしが声を掛けると、ひなは驚いた様子で振り向く。


「綾香お姉さま!? どうして、こんな危ない場所におるのじゃ!? 早く、ここから離れるのじゃ」


「あら、ひな。その方はお知り合い?」


 ひなの背後。

 そこにはすらりとしたスーツ姿の長身女性が立っている。


 ……この女性(ひと)。何処か、ひなちゃんに似ている?


「母さま。綾香お姉さまは、先日此方(こなた)を助けてくれた方なのじゃ!」


「ひな! 今は公務中。わたしの事は室長と呼びなさい。公私混同はダメよ。あら、ウチのひながお世話になったようで。綾香さん、ここは非常に危険な状況。お早くお離れ下さいね」


 スーツ姿の女性は、ひなの母を名乗り、他の警官同様に現場からの退避を告げた。


「ひなちゃんのお母さま、どうしてひなちゃんが、ここに?」


「綾香さん。すみませんが、これは公務。ひなのお友達でもお話しすることは出来ないわ」


 わたしの問いに、顔を伏せて答えられないと告げる女性。

 警官らの方に顔を向け、命令を叫んだ。


「所轄及び警視庁の警察官! これより、当事案は警察庁警備局公安課。超常犯罪対策室、『超対室』の管轄となります。指揮はわたくし。室長の倉橋警視正が行います。まず、周囲の警備を厳にし、これ以上の被害者を出させないようにお願いします」


「はっ、了解しました!」


 ……警視庁じゃなくて警察庁? それに超常犯罪対策室? そんなのニュースでも聞いたことないよ?


 凛とした声で命令を下す女性室長。

 その命に従い、警察官らがキビキビと動き出した。


「ひなちゃん。これは一体なに? お母さまが警察の偉い人なの?」


「綾香お姉さま。今は、いとまを争うゆえ、詳しい話は出来ぬのじゃ。お姉さまのご友人が中にいらっしゃるとの事。此方が必ず助け出してくるのじゃ!」


 わたしの言葉に、顔をあげて微笑みを返してくれたひな。

 大丈夫と手を振りながら規制線を越え、廃病院の入り口前まで進んだ。


「各員、野次馬のカメラ、通信の妨害をお願い! 市民の皆さん、これは『超対法』の対象になります。撮影及びSNS投稿はご遠慮くださいませ」


 ひなの母が周囲に命を飛ばす。


 ……あれ? ひなちゃんだけが、規制線の中に入ってる。他の警官はどうして動かないの?


 わたしが疑問に思った瞬間、ひなは衣装の懐から何かを出す。

 それは、朱と炭で字と文様が書かれているように見える紙。

 ひなは、その紙を前方へ。

 バリケードを避け、廃病院の扉に向けて掲げ、可愛いらしい声で何かを唱えた。


急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう! 我が前にありし見えぬ扉よ。我が命に従い、開きたまえん!!」


 ひなが唱えた言葉。

 それに反応したのか、扉に張り付いた紙。

 お札は蒼い炎を上げて燃え、パキーンという涼やかな音が周囲に響いた。


「巫女さんが魔法を使ったの?」

「トリックかよ?」

「ちきしょう、スマホのカメラが動かないぞ」


 野次馬たちから、色々な声が飛ぶ。


「ひなちゃん、綺麗……」


 わたしには、ひなが行った儀式。

 それは恐ろしく感じる現場でありながら、とても神聖で美しく見えた。


「では、此方は建物中に潜入するのじゃ。通信は切らずに入るで、フォロー頼むのじゃ!」


 ひなは、顔を半分くらい覆いそうなほど大きなゴーグルを目もとに装着し、廃病院の扉を開く。

 そして、ばたんと扉を閉じて一人中に入っていった。


 ……また、壁が閉じちゃったわ。え、ひなちゃん、手が震えていなかった? どうして一人で行っちゃうの!?


「お母さま。どうして、ひなちゃんを一人で危ない場所に行かせたんですか!? 危険とか思わないんですか? あの子、手が震えてたんですよ」


 わたしは、忙しそうに指示を飛ばしているひなの母親ににじり寄り、心に浮かんだ疑問をぶつけた。


「……思わない訳ないでしょ!! わたしに『力』があれば。わたしが、あの子に代われたら、とっくの昔にやっていたわよ! 他の警官も同じ。何もできないばかりか、足手まといにしかならないから、行かないだけ。部外者の貴女には関係ない事よ!!」


 ひなの母は目元に涙を浮かべ、わたしを睨み感情的に叫ぶ。

 その声に、娘を思うもどうに出来ない苦悩をわたしは感じた。


 ……何もできない思い、わたしもあの時に同じだった。


「……だったら、わたしがひなちゃんを助けに行きます。あそこにある見えない『壁』なら切れると思いますから」


「貴女、結界が見えるの!? それに切れるって??」


 ひなを助けたい。

 あの子を一人で危険な場所に送りたくない。

 わたしは木刀をすらりと抜き、ひなの母に訴える。

 自分なら、結界を切り裂けると。


「じゃあ、行ってきます」


 わたしは警官らの制止を振り切り、見えない『壁』。

 廃病院の扉前まで進む。


「この扉、壊しても良いですよね?」


 許可の答えを聞く前に、木刀を上段に構える。


 ……嫌な感じの『壁』ね。でも、わたしなら切れる!


 凝視して、切るべき「線」を見抜く。

 木刀へ「切断」という念を込める。

 そして深呼吸をしたのち、見えた線に沿って一気に木刀を振り下ろした。


「はーーっ!!」

お読み頂き、ありがとうございます。

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