第2話 切れない絆
「お前ら。期末試験が終わったからって気を抜くなよ!」
教壇の上では、担任の男性教師が叫ぶ。
教室の同級生たちは、冬休みを前に大騒ぎだ。
「はぁ、みんな気楽でいいよねぇ」
……でもその輪の中に、わたしはいない。
みんなは解放感で浮かれているのに、昨夜のことが頭からずっと離れない。
わたしは、周囲の子たちの騒ぎを他所に、昨晩の衝撃的な出会いを思い出していた。
◆ ◇ ◆ ◇
ひなと出会った事件。
悪意の糸を切り、子猫の霊を救った。
あの時の光景は、今もはっきり覚えている。
「良かったのじゃ! お姉さまのおかげで、子猫を助けられたのじゃ!」
「うん。よかったよね、ひなちゃん」
あの時、ひなの笑顔を見て、胸の奥が少しだけ温かくなった。
しかし、その直後。
公園に、パールホワイト塗装の国産高級車が乱暴気味に乗りつけてきた。
「ひなお嬢さま! ご勝手に家を飛び出たかと思ったら、こんな場所で何をしていらっしゃったんですかぁ!?」
「家の『仕事』をしていただけなのじゃ! 悪意を感じて、邪霊が暴れる前に阻止していたのじゃ」
高級車の運転席から急ぎ飛び出してきたスーツ姿の女性が、ひなに対しガミガミと叱る。
「それでも! スマホで連絡一つくらいは出来ますよね。女の子が一人夜の公園なんて危なすぎます」
ひなの家の使用人らしき女性はひなを叱った後、わたしとひなの距離をしばし見て、軽く頭を下げた。
「……貴女さまにはご迷惑をおかけしました。ひな様は、こちらでお預かりします」
「葛城! 綾香お姉さまになんて酷い事を言うのじゃ! お姉さま、ご自宅は遠いのかや? ウチの自動車で家まで送るのじゃ」
「ど、どうしよう……」
結局、わたしはひなの勢いに押し負け、ご厚意に甘えて高級車の中に入った。
「す、凄い。まるでテレビドラマとか映画の中の世界みたい」
あまりの豪華な内装に、わたしは思わず息を呑んだ。
その上、エンジン音も揺れもなく、現実感が薄れていく。
「このくらいは普通なのじゃ! そ、そういえば、綾香お、お姉さま。お姉さまは、どうして霊を切れるのじゃ?」
帰路の道中で、色々聞いてくるひな。
とても楽しそうな様子に、わたしも嬉しくなる。
なので、過去の事を少しだけ語った。
……全部話せば、ひなちゃんはきっと悲しい顔をしちゃうから。
「……そうなのかや。あの神隠し事件の件も、関係しておったのじゃな」
「あの時、もっと何か出来てたら良かったんだけどね」
その後、わたしとひなはSNSで連絡先を交換し、自宅前で別れた。
◆ ◇ ◆ ◇
「綾香さん? どうかなさりましたか?」
「アヤっち、聞こえてる?」
思索に耽っていたわたし。
名前を耳元で呼ばれ、思考を現実へと戻した。
「あ、ごめんね。少し考え事をしてたの」
私の前に、二人の同級生女子がいる。
既にホームルームも終わり、多くの生徒たちが教室から出ていた。
「綾香さんは、昔からお変わりないですわね」
二人は小学校時代からの友人。
おしとやかでお嬢様。
ふわふわ髪の子が、福沢 結衣。
「っていうか、アヤっちは変わらなすぎだって。アタシ心配しちゃうぞ」
長身短髪、ボーイッシュで元気娘なのが、辻 葵。
わたしは、彼女の言葉に胸の奥が少しだけ痛んだ。
「そうですわね、葵さん。綾香さんは、ご自分をあまり大事になされない方ですので」
「だよね、ゆいっち。あやっちの事だから、また自分から危ない事に首突っ込んでいるんじゃない?」
「……危なくはない、と思う。たぶん」
心配してくれる二人に対し嘘は言いたくはないが、彼女たちを危ない事に巻き込みたくはない。
……二人とも、心霊現象で怖い眼にあっているんだもの。
「綾香さん。わたくしの事は、変えられぬ過去。もう過ぎた事ですわ。それに……貴女が必死に両親に訴えてくださったから、わたくしは無事に帰ってこれたのですもの」
「アタシの時も、あやっちは助けてくれたじゃん。水臭い事は無しだぜ」
「……うん。ありがと。でも、本当に危ない事は無いから安心して」
真摯に心配してくれる二人の暖かい心に触れ、冬にもかかわらずわたしの心は温かくなった。
「しっかし、あやっち。ぼーっとしてても成績は良いんだよなぁ。アタシはバレー部が忙しくて、勉強の時間が足りないよ」
「ですが、葵さんもちゃんとクラスの半分以上にはいらっしゃいますわよ。わたくしは、塾に通う事でようやく綾香さんと同じくらいですわ」
「えー。わたしってぼーっとして見えるの? いつも、気を張っているつもりなんだけど?」
この平凡でも暖かい日常。
わたしが大好きな陽だまりの時間。
「やっぱり自覚が無いかぁ、あやっち。じゃあ、同級生女子の間で人気なのも知らないな?」
「ええ。なんでも綾香さんは、バレンタインデーに女子生徒からチョコレートを貰う女の子ランキングで上位らしいですわ。不思議っ子なのが注目点なんですって」
「でもガキな男どもは、イヤな目であやっちをみるんだよな。まったく人を見る目が無いよ」
「なにそれ? どれもわたし、聞いたことが無いよぉ?」
友とのたわいもない会話。
こんな時間がいつまでも続けばいい。
……わたし、今度こそみんなを守る。邪魔するやつらは、全部切り払うわ!
◆ ◇ ◆ ◇
「あやっち、ごめん。急にこんな時間に電話して」
「どうしたの、葵ちゃん。そんなに慌てて?」
翌日の夜遅く。
突然、酷く興奮した様子の葵から電話がかかってきた。
「今日の夕方、部活の先輩たちが肝試しするって急に言い出して、別のクラスの一年生を無理やり連れ出したの。アタシは、もう霊関係はこりてるから断ったんだけど。で、その場所が例の『廃病院』跡なんだ」
「あそこ、肝試しに行った子たちに行方不明が出て、立ち入り禁止になってたんじゃないの!?」
わたしの脳裏に、数日前のニュースで話題になった事件が思い出される。
テレビ画面越しにすら、胸の奥がざわつく場所だった。
行方不明になった子たちは一向に足取りを掴めず、一緒にいたはずの子たちは「突然消えて、何も分からない」と言うばかり。
……結衣ちゃんの時に似ているわ。
「うん。心配になって、肝試しに行った子全員に連絡したんだけど、誰にも繋がらないの! もしかして、本当に幽霊とかが居て……」
「葵ちゃん、そのことは警察とかに連絡した?」
わたしの胸の奥の鼓動が激しくなる。
……もし、結衣ちゃんのときみたいなことだったら……。
「うん。警察には一番最初に電話したんだけど、なんか慌てた風が全然無いの。……まるで、よくある事みたいに。ゆいっちにも相談して、アタシも現場に行こうと思うんだけど……」
「絶対に行っちゃ、ダメェ!!」
わたしは思わず声を荒げて、葵を制止してしまった。
「ひぃ!」
ただでさえ怯えている葵は、悲鳴を上げてしまう。
わたしは、彼女を傷つけてしまった事に気づき、優しい声で続けた。
「あ、ごめんね、葵ちゃん。行くなら、わたし。今のわたしなら、何か出来ると思うの」
わたしはジャージ姿に急ぎ着替え、ケースに入れた木刀を抱えて家を飛び出す。
「お母さん。友だちが困ってるから、ちょっと出かけてくるね」
母からの返事を聞かず、わたしは現場の廃病院へと自転車を走らせた。
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