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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

自分が超人になる妄想してたら現実になった件

作者: ねこラシ
掲載日:2026/02/07

 普段通りの日常。

 普段通りの教室。

 普段通りの妄想。

 いつもと変わらぬ教室の一番後ろの角。

 もはや、ルーティン化されていると言っても過言では無いこと。

 皆が集中して数学のテキストに向き合う中で、唯一北条義文(ほうじょうよしふみ)は妄想劇を広げていた。


 バリンっ! 

 窓ガラスが割られ、手にナイフを持った男が狂人が入って来る。

 クラス全員がそれを視認した直後、けたたましい悲鳴が響く。

 男はナイフを振り回しながら一人の少女を人質に取る。

 細い首元に冷たい金属が当てられ、流涙するいたいけな少女は腰まである艶やかな濡羽色の髪が小刻みに揺れ、幼さの残る童顔に恐怖の念が宿っている。

 クラスのマドンナ宮本陽菜(みやもとひな)が命の危機に瀕している。


 彼女は口を振動させ、目には涙を溜め込んでいる。

 

「動くな! 動いたらこいつの命は無いぞ」


 男が声を大にして脅しをかけた。

 泥棒マスクの下に汚い笑みを浮かべながら、自分から距離を取っている生徒と先生を眺める。

 が、数学の先生山本秀明(やまもとひであき)は教師陣の中でも屈強な肉体を誇るトレナー的存在。


 彼がつけた筋肉の中でも胸筋と背筋は男でも惚れ惚れするほど。

 だが、今は顔をしかめ身動きが取れずにいる。

 

 クラスの外に出て逃げる、助けを呼ぶなどしたら陽菜は殺されるだろう。

 誰もそうしないのは、雰囲気で察しているからだ。

 しばらくの沈黙。


 それを破ったのは、何と侵入してきた泥棒――

 

「お前ら全員道連れだ! まずはこの女をやってやる!」


「だ……誰か、助け、て……!」


「黙れ! 誰も助けねぇよ!」


 男が次のアクションに移る。

 全員をドアから遠ざけ、窓側に寄せる作戦だ。

 窓からの逃亡は……不可能だ。

 ここは三階、男が上がってくるのに使用した梯子は既に地面に倒れている。

 これで、男と俺たち対極の位置に置かれた。距離にして約六、七メートルといったところ。


 逃げ場はない、全員が男の意思に従った。

 俺を除いて――

 皆が恐怖に怯え、どうしたものかとあたふたする中俺は状況を冷静に見ていた。

 視界から外れる一瞬、俺から目を離す瞬間を。

 前傾姿勢となった俺を見て、何かに気がついた男が咆哮。


「あ? おい、お前! 早くしろさもなくば――」


 普段は大人しく、クラスの隅で本を読んでいる俺だが、実の力はとてつもない。

 こっそりと手にしていた長ぼうきを手に、教室の地を蹴った。

 その速度は男が彼女の首に当てたナイフよりも速い。

 後ろにいた大勢の生徒は俺の行動に唖然としていた。


 一呼吸の間に距離を潰した俺は、ナイフを鷲掴みにし抑える。

 もちろん、血が滴るがなんの問題もない。

 人質の生徒、陽菜が希望と心配が混じった顔をしている。


「陽菜を離せっ!」


 迷いなく蹴り上げた膝は男の股間を捉える。

 男という生物かつ人間であればこれが一番の急所づきであり、一番効く。


「がぁぁあっ!!」


 痛みの反動で陽菜を束縛から離し、地面へと倒れる。

 すぐさまそこに追い討ちをかけるように俺は手にしていた箒で男の首を押さえつけた。馬乗りだ。


「このガキっ!!」


「俺を甘く見たな、他とレベルが違うんだよ」


 グッと力を込めれば男の首が圧迫される。

 このまま押し込めば――そう思ったが、そう易々といかないようだ。


 男が執念の左ストレート。

 俺はそれを衣のように軽やかに躱す。

 しかし、繋がるように片足が跳ね上がった。なんと膝には暗器がある。これは、降りるしかない。


「しぃっ!」


 地面をアクション映画のように転がり、立ち上がる。

 男もフラりとおぼつかない足取りで立つ。

 足が小刻みに震えているのは金的の影響だ。

 俺は全員の前に立ち、


「俺が相手をする、みんなは逃げろ!」


 止められるのは俺だけだ。

 ならば仕方ない。人柱になるしかないのだ。

 もちろん、山本先生はそれを止めるが先生も逃げてもらった方が良い。

 足手まといなのだ。

 先生は筋肉はあれど、それは戦い向けのものではなく承認欲求を満たすだけの展示品。


 大丈夫です、俺最強なんで。

 それに対して先生は、


「北条、聞いてるのか。おい、北条!」


「え、あ、はい?」


「はい? じゃないぞ、どうした窓の外を見て何かあるのか?」


「いえ、何も……」


「全く、期末試験が近いんだからしっかりと話を聞け。特にお前は前回、赤点ギリギリだったろう」


「はい、すみません……」


 クスクスと笑い声が広がる。

 その中には陽菜の姿もある。

 どうやら妄想の時間は終わってしまったようだ。

 窓の外には何も無い、訳ではない。

 ここ、『名海中学校』は太平洋に近い学校だ。

 つまり、窓の外には空を鏡で移したような蒼の大海が広がる。

 

「で、Xについて解くと……」


 現在中学一年の俺は中学生になれば青春ウハウハ生活が出来ると勝手に思い込んでいたが、現実は甘くなかった。

 友達も数少なく、女の子の友達は一人としていない。

 毎日、角の席で女子たちの集団に少し混じっている一軍陽キャたちを見て羨むことを繰り返している。


「まーた妄想してたのか? 義文」


「うっせ、暇なんだから仕方ないだろ」


 先程の痛手を刺激するように言葉を放ったのは数少ない俺の友達こと岩本奏汰(いわもとかなた)

 頭脳明晰、運動神経抜群、容姿端麗、清廉潔白。

 絵に書いたようなイケメンだ。

 キリッとした眉と鼻筋の通った鼻と女子が妬ましく思うほどの美白。その上、優しい人情で情に厚い性格。モテないはずがない。


 俺と関わることなんてありえない。それはこれからも――と思っていたが、この席になってから奏汰は俺に良く話しかけるようになった。


「現実を見ろって、泥棒なんて入って来ないからさ」


「現実で生きるのが厳しいから夢の世界に入ってるんだよ、邪魔すんなよな」


 俺の返答に彼はやれやれと少し困った顔を浮かべ、シャーペンを手に問題を解き始めた。


 そんなことは言われずとも俺が一番分かっている。

現実になる事など無い、絶対に――


「はぁ……マジで、誰か窓ガラス割って入って来ないかな」


 大きなため息と共に愚痴を零した直後、それが現実となった。

 

 山本先生が解説する声の合間に、バリンっという妄想の空間の中で聞き馴染んだ音が聞こえた。

 全員がその音の方向を見た。


 だが、『それ』は速すぎた。

 

 教卓の前に立つ屈強な山本先生の前を神速で過ぎたと思えば巨体の先生に尻もちをつかせたのだ。

 過ぎた影は一つ。真っ黒だった。

 そして再びの割裂の音。


 今度入ってきたのは西洋風の制服を纏い、特異な銀の面をつけた男? であった。

 しかも、彼の手には長く鋭い金の槍がある。

 おいおい、なんだこりゃ。ここは夢か? 寝てるのか、俺は!


 槍なんて戦国時代以降ほとんど使われてないはず。

 ごっこ遊びにしては……やり過ぎだ。

 山本先生は即座に立ち上がり、入ってきた男? に対して、


「誰だ!」


 恐れる風もなく一蹴する。

 が、入ってきた人物は聞こえていないかのように教室内を行く。先生の前を過ぎようとした時、先生はその人物の肩を掴む。


「待つんだ、君は――」


「――――」


 彼は何も言わずに、胸に付いている勲章のようなものを先生に見せつけた。

 何かの証明書を見せつけているかのような様子に先生はジッとそれを見る。

 すると先生はハッとした顔になり、ぺこりと大きな図体で頭を下げた。


 その光景にクラス中がザワつく。

 追い出すのではなく、まさか頭を下げるという意味不明の行動。

 俺も何か分からず奏汰とコソコソ話していたところ、入ってきた人物はクラスを一周。

 窓側の席を見た時、何かを見つけたのか黒い影を追うのでは無く、ゆっくりとこちらに歩いてきた。


 一人、また一人の前を過ぎて行き、なんと俺の前で止まった。

 彼は銀の仮面の顔を至近距離に近づける。

 俺の目に入るのは銀、だけだ。


「――っ、な、なんですか?」


 もしもこいつが悪人だったら、俺は殺られる前に殺らなければいけない。

 妄想をしていた時のように、雄々しく、漢を見せる必要がある。

 早速、と言いたいのだが……手が、勝手に震え出した。

 口内が一気に砂漠化し、喉が激しく水を求め乾燥している。


 生命の本能か何かだろう、動けない。

 動くと死ぬ。

 それを直感で感じ取った。


「――名前は?」


「え……?」


「名前だ、名前を聞いている」


 知らない人に名前を教える義理など無い、と言いたいところだが何故か先生は止めるのではなく「北条義文です」と口走った。

 迷いのないその言葉に俺は開いた口が塞がらなかった。


「そうか、義文……また来る」


 白銀の面の下に見える金色の瞳を輝かせ、彼は背を向けた。そのまま先生と言葉を交わすと、その人物は金槍を異空間の中へしまい込んだ。その代わりとして、空間の中から紙と羽根ペンを取り出し山本先生へ。


 アニメの世界に自分が迷い込んだ不思議な感覚。

 非科学な現象が目の前で起きているのにどこか魅力的に感じ俺は目が離せなかった。


 先生が紙に何かを書き綴るとそれを受け取り、彼は教室を後にした。

 

 誰も口を開くことなく終始呆然としていた。

 しばらくの沈黙の後、先生が俺を名前を呼ぶ。何が何だか分からない俺に対して、先生は――

 


「お前は今日で転校だ」


 本日付で学校を去ることを告げた。



※※※※※※※※※※


 

 その後、早々に学校から帰らされた俺は急いで母に内容を詳細に語った。

 家にいるのは母だけなのだが、件のことを伝えると母は血相を変えて父に連絡。

 勤務中であった父も爆速で帰宅し、話をした。


「ってことがあったんだけど」


 すると、両親は共に顔を合わせ何か、覚悟のようなものを決めた様子で父は、


「縁が無いと思ったが、時が来たようだ」


 腕を組みながら父が口を開く。

 重みのある重厚な語り口で父は俺に衝撃的なことを言った。


「お前は、普通の人間ではない」


「? そりゃあまぁ、授業中に妄想してるのは普通じゃないけど……」


「違う、お前は裏の世界で生きる人間だ」


「裏? まさか俺は反社の子供ってこと……?」


「違う、お前は――」


「もう! 回りくどいわよ! 義文、貴方はね均衡の守護種(きんこうのしゅごしゅ)っていう血を引いてるの」


「んん??」


 遠回りの説明をする父を抑えた母からの説明を聞いて尚、理解が及ばない。

 均衡の守護種とは? 血を引いている? どういう事だ、まさか本当に俺は妄想のような世界に入り込んでしまったのか?


「隠していて悪かった、出来れば普通の子として育てたかったが……バレた以上はもう避けられない」


「私たちの工作が甘かったのよ……あの学園を去ってから気を抜きすぎていたわ」


「待って、分かんない。どういうこと?」


 未だに理解が出来ぬボンクラの俺が眉をひそめると父は「見ていろ」と一言。

 リビングのテレビに手のひらを向けると、何かに吊り上げられているかのようにテレビは宙に浮かんだ。

 そのまま上に下にと上下運動をするが、父の腕の運動に連動している。


「え……魔法?」


「魔法では無い。俺も母さんも、お前も出来ることだ。俺たちは普通とは違う人間だ。

 お前が見たという黒影、それは破衡者(はこうしゃ)という人種。俺たちはそれを狩る人間だ」


「つまり、俺もその破衡者ってやつを倒さないといけないの?」


「そうよ、その為に貴方は学ばないといけないの。その術を。だから先生は貴方を転校にしたのよ」


 心臓が先程からうるさい。

 どんどん脈が早くなっているのを感じる。

 俺が、能力者で悪なる人間を倒す……本当だ。夢では無い。俺は本当に妄想の世界を現実にしてしまったのか?


「迎えが来るはずだ、銀の仮面を着けていただろ?」


「うん、目元だけ穴が空いてるやつ」


「間違いない。学園の特待生が来たんだ」


「特待生?」


「基本的に破衡者と戦うのは特待生、だが学園の外で力を行使するのは禁止だ。顔が見られることは断じてならない。その為に面を着けているんだ」


「もしかして、俺も特待生として……?」


「そうなの、私たちがそうだったから」


 更に深く話を聞けば、この世界は古来より善と悪が存在し互いに覇を競って戦ってきたらしい。

 だが、戦いは熾烈を極め両陣営ともに数が大いに減少してしまい血を受け継いでいる人間が減ってしまった。

 それでも血はひそかに受け継がれ、現代に至るまで数は少ないが現存しているらしい。


 その血を継いでいるのが俺、中でも濃い方であり父と母の濃血が俺に流れている。

 特待生は血が濃いということが条件で、優れた才能を秘めているとのこと。俺すげーじゃん!


 父が先程使ったのは魔法ではなく、源力という生物が生来所有しているエネルギーらしい。この力は全員持っているが、唯一操ることができるのが例の血。

 その力を有効に使うために、俺は創源学院(そうげんがくいん)という場所に案内されるらしい。


「義文」


「「「っ!」」」


 一通りの説明が終わったと同時、俺の名を口にする声が聞こえたのだ。

 その方向を見れば、学校で会った銀の面をつけた謎の人物が直立していた。


「やはり、もう……」


「言った通り迎えに来た。創源学院に君を招待する」


「え、あ……」


「行くんだ義文、これは定めだ。断ることはできない」


「強く、生きるのよ」


 まるで最後の会話であるかのように両親は言葉を告げる。二人の顔はどこか悲しげではありつつもどこか誇らしげであった。


 渋って決断できずにいると父に背中を押された。

 その顔は一点の迷いもなく希望と覚悟に満ちたものだった。


 俺は未だに理解できていない。

 妄想している世界には慣れっこであったが、それが現実味を帯びる、いや現実になったことに慣れることは不可能だ。


 自分の手のひらを見つめる。

 何も無い、平凡な小さな手だ。

 豆も無ければ分厚い手でもない。

 

 何もしていない俺が、この世界でもひと握りの人間。

 それは揺るぎのない確実な事実――


「行って、きます……」


「あぁ、行ってこい!」


「邪道に走ってはだめよ!」


 両親からのエールを背中に俺は足を踏み出した。



 これが、全ての始まりで終わりだった。

 今なら、分かる。

 どうして、何故父と母が悲しんでいたのか。

 二人は未来を視ることが出来る優等生で、大人になってなおその力は健在で、俺の未来を視たんだと思う。中でも母の言葉は、五年経った今でも覚えている。


「ゲフッ……全ては、兄上の悲願だ……」


 ドクっと弱々しく鼓動する心臓の感覚を感じながら俺は、この世界を滅ぼす術を施す。

 学院に入ってから、虐げられたあの時から俺を真に受け止めてくれたのは二人だけだった。


 その二人は、どちらも破衡者と蔑まれた人間たちで悪人だと思っていた。

 だが、その認識は間違いだった。

 父母が俺に嘘を教えていたんだと、ようやく悟った。


「学院も、普通の学校も、全て滅べば良い……兄上は分かっていた」


 五年いや、正確には四年という月日を過ごした学び舎を壊す。

 普通なら渋るのだろうが、迷いは無い。

 魔道に堕ちた俺を蔑んだ人間たちを滅する。

 心臓を病んで以来、寿命が無いことは理解していた。

 遠からず死ぬ運命ならやりたいことをやって、少し早く亡くなった友や尊敬する人に会いに行く。


「全て……妄想であったらよかったのにな」


 黄昏の空と黒い風が吹き交う、創源学院の広場。

 枯れた大地の上に佇む一人の青年が、世界を滅ぼす術を行使した。


 


 


 


 


 

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