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1123many wind damage〜少女へ。沈んだ海を犯して――~

作者: 絢香redeyes
掲載日:2026/01/04

日本 札幌さっぽろ

令和七年 夏

無人の駅前


キャンセルした。理由が思い出せないからだ。だからアンインストールもしようと私はスマホを手に取る。と、着信。――出ずに切った。

さて、何をしよう?

三日後の朝、同じ場所で私はまたそれを考える。

と、猫の鳴き声が後ろから聞こえた。さて、何をしよう?

と、着信。――非通知か。 私は出る。

「――『渇いている』?」と、私は振り返る「いないんだけど、どうしてそんなことが分かるの? キミは誰?」と、質問した「あいにく今持ってないんだけど?」

「キミのせいだよ」若い男の声はさりげなく言った「もっとも、したくないならしなくていい。そんなこだわることじゃない。キミには他にやることがある」

やること? へぇ、いいね。「教えてよ」

と、また猫の鳴き声がした。左にいるのかと私は気になった。どんな猫なんだろう? 白なら――

「――納得だろ?」

えっ? 「ごめん、聞いてなかった。なんて?」

「死ね」

「はっ?」

切られた。はぁ?

――まぁ、私が悪いか。

「教えようか?」

背後から声。私は振り返る。

外国人の若い男がいた。私は、「ありがとう」いや「いいわ」

「いいの?」

「死ねなんて言う相手の言葉だから」

「なるほど」

「キミは?」

「ボクはマーカス。クリエイターだ」

「私はキョウコ。クリエイターってどんなことするの?」

「色々さ、何か作ったり直したり」

「――私暇なの。何か暇潰しない?」

「少女なのに?」

私は首をかしげた。マーカスは、「戦いは?」

「戦い? 私とキミが?」

「ボクは誰ともしないよ」と、マーカスは肩をすくめた「観戦したら?」

「戦いって何? なんで戦うの?」

「教えない。調べるのも暇潰しになる」彼はなにげなく言った「調べる?」

「興味ないわ。でも、観戦は良いかもね」私はなんとなくそう思った「観戦はどこで?」

「分からない。突然だから」

と、私に着信。出る。「もしもし」

「おはよう、チビーテ」チビーテ?

「違います」と、私は電話を切った。

と、また電話が鳴る。「もしもし」

「ザゼン、おはよう」ザゼン? また間違い電話か。

「違います」と、電話を切る。

モリコ、サンク、シスグ――それから立て続けに間違い電話があった。

「出会い系でもしてるの?」と、マーカスは不思議そうに聞く「悪女なのか?」

「はっ?」私は不思議に思う「そんなふうに見える?」

「キョウコ、一緒に旅をしないか?」

無視? 「旅?」

「道内をさ。暇潰しさ」

道内か……

あれ? なんでガッカリしてるの?

「他に行きたい所あった?」と、マーカス。

「えっ?」

「そんな顔してるから」

そんな顔?

行きたい所あるの――?

「ないわ」私は答えた「付き合うわ」行き先は決めてるの? と私は付け加えた。

数週間後の朝、田舎の無人の駅前で私は、「飽きた」と、マーカスに言った「切ない景色ばかりで。――あっ、キミの仕事は面白いわよ?」

「ありがとう。――道北ばかりじゃそうなるか。じゃ札幌――」

「そこの女の子」と、遮られた。私達は横を見る。

外国人の若い女がいて、「早く北海道から出たほうがいいわよ」と、微笑した。

その笑みに好感を覚えつつ私は、「どうして? キミは誰?」

「私はクラウディ。先生よ」

「先生がなんの用?」

「私には役目がある。だから蘇った」先生はなにげなく言った。

蘇った? と私はマーカスを見る。彼はかぶりを振る。違うのか。

「役目って?」

「導くことよ。あなたは北海道を出たほうがいい。危険だから」

「危険?」

先生は頷く。と、彼女は真剣な表情で、「狙われるのよ。私もそうだった」

そうだった?

先生は、「私のように勝手にされてほしくないの。お願い、私の言うことを聞いて」

私は温かみを感じた。「――でも、どうして私は狙われるの?」

「そのほうがさらに面白いから。あなたは私と同じ――」

「そこまでだ」

遮られた。私達は横を見る。愉快そうな表情の若い男がいた。ふと、男は私を指差す。

「そこの女の子、ボクの相手をしてよ」と、男は表情を変えずに言った「ターゲットなんだ」

ターゲット? 私は首をかしげる。

「私にしなさい」と、先生は言った。

「誰だ?」

「誰?」クラウディ先生は戸惑いの声を上げる。

「キミは違う。ボクはその子を殺したいんだ」

殺す?

「殺すですって!?」クラウディ先生は驚愕する「あなた達そこまでするの!?」

「消えろ」

「お前が消えろ」

その声に男は振り返る。「ピストルだと?」男は困惑を口にする。

「オレは傭兵だ。消えろ」

その直後、男はどこかへ行った。

と、ピストルが私に向く。

「キョウコだな?」若い傭兵は言った「キミを始末する」

私は凍りつく。「どうして?」

「約束を果たしていないからだ」

「約束?」

「覚えがあるはずだ。なぜだ? 個人的にはその約束は果たす価値が十分――」

「私は男じゃないわ」私はなにげなく遮った。

男じゃない?

私は何を言っているの?

「男じゃない?」そうなるわよね「ダサいヤツだ」はっ?「依頼を受けて正解だった」と、撃鉄を起こす「終わりだ」

「待って!」と、先生「約束を果たすよう説得するわ!」

「……いいだろう。明日までにそうしろ」

と、傭兵は立ち去った。

「キョウコさん」

「分かってますよ、先生。死にたくないですから」と、私は肩をすくめた。

翌日の昼、私とマーカスは札幌の空港の出発ロビー――あまり人のいない――にいた。

「はい、チケット」と、マーカスは私に差し出す。

「ありがとう」と、私は受け取る「嬉しいわ」

「ボクにはこれくらいしかできないから。気をつけて」

「キョウコさん」と、先生が来た「あなたは行かせないわ」

えっ? 「どうしてですか?」

「あなたは殺されるべきなのよ」先生は平然と答えた。

「えっ!? どうしてですか?」

「変わったからよ」

変わった?

「とにかく、あなたは殺されるべきなのよ。それが私達にとって――」

「そうはさせない」マーカスが遮る「彼女は死なせない」

えっ? マーカス? 私は驚く。戦うの嫌なんじゃ……

「どうして?」先生は聞く。

「それが当たり前だろ?」

あっ、なるほど。

……そっか。

「待て!」

横から複数人の声がした。

見ると、五人の若い男がいた。

「オレ達は変わっていない」と、五人の男は同時に言った「オレ達はキミを殺す」と、私を指差す。私を? こいつら何者?

「チビーテ」男の一人が言った。

チビーテ?

――どこかで聞いたような……

「ザゼン」違う男が言った。

「モリコ」

「サンク」

「シスグ」

――思い出したわ!

間違い電話の。

でも、どうして私を殺そうとするの?

いや、それよりこの状況どうすればいいの?

と、不安な私は思わずマーカスを見た。

と、彼と目が合う。

「大丈夫」彼は微笑する「キミはボクが守る」

私はホッとした。

――でも、それは彼が戦うことに……

私が戦えばいいんだ!

でも、彼に戦いを見せることになる……

「動くな」

この声は、と私は横を見る。

傭兵が、間違い電話の男達にピストルを向けている。

「命が惜しければ消えろ」と、傭兵は彼らに告げた。と、彼らは言われた通りにした。

「約束を果たしたいようだな」傭兵は私に聞く「早く飛行機に乗れ」

約束――「いいえ」私は言う「乗らないわ」

「どうしてだ?」

「先生のせいよ」と、私は先生を一瞥する「殺されるべきなんて言うんだから」と、肩をすくめる「そう思わない?」

「なるほど。だがどうする?」と、傭兵は私にピストルを向ける「オレはお前を殺すぞ?」

「そんなことはさせない」

「誰だ?」と、傭兵は横を見る。

青年の男がいた。「それはできなくなった」と、青年はなにげなく話す「ボクが“訪れた”から」

「どういうことだ?」

「試してみるといい」

「――やめておく」

「冷静だな」

すぐに傭兵は去った。

「先生、キミもだ」と、マーカスは言った「消えろ」

先生は私を見る。「諦めないわよ」と、先生はさりげなく言って去った。

「キミは誰?」私は青年に聞いた「キミも私に関係するの?」

「ボクはただ忠告したいんです。キミは北海道を出たほうがいい。対象から外れるから」

「対象?」

青年は頷く。「何者かの“力”の対象から。そうなればキミは自由だ」

「キョウコ、行ったほうがいい」と、マーカス「彼は信用できると思う」

「――マーカス、キミはどうするの?」

「ボク?」

「北海道にいるのよ?」

「――ありがとう。でもボクは行けないよ」と、彼は寂しげに笑う「能力的にね」

「……分かったわ」

「ありがとう」

不安だわ……。

でも、彼なら……

と、私の携帯が鳴った。「もしもし。――ああ、ごめんなさい。これから行くわ」

――えっ!? 私は耳を疑った。私は戸惑いながら、「それ本当……?」

――なら。

と、私は、「なら行かないわ」と、通話を切った。そして電源をオフに。

「どうしたの?」と、マーカス。

「チケットの場所へは行かないことにしたの」私は決心した「しょうもなかったから」と、肩をすくめた。

「でも、北海道を出ないと。とにかくどこかへ行きなよ」

「そうね」

でも、どこへ……?

「そこの三人」

ふいに楽しげな声がした。私達は横を向く。

ピストルを手にした、三十代の外国人の男はニヤニヤしながら、「オレはイルーファ。場所を変えるぞ」と、ピストルを私に向ける「今殺されたくなければな」と、マーカスへ走る「食らいな」と、マーカスの腹を殴る。マーカスは倒れた。

マーカス!

「気絶しただけだ」イルーファは私に言う「行くぞ」

「お願い、マーカスを頼むわ」と、私は青年に言った。

私とイルーファは空港近くの無人の駅前へ。

「どちらもだ!!」

と、着いた途端にイルーファは楽しげに叫ぶと同時に私の顔を殴った。

意識が遠くなっていく――

「悪女なのか?」

ふいにマーカスの声が蘇る――

あれ? 私、酷いこと言われたのに――


翌朝、私は姿見の前に立っていた。

目の前には、新しい顔があった。

「キョウコ」

呼ばれて、私は振り返る。「何? マーカス。ホテル、チェックアウトの時間?」

「いや……。ごめん、ボクが不甲斐ないばかりにキミを死なせてしまって……」

「もう気にしてないわ。それよりありがとう。これならバレないでしょう」

「……どうかな……」

「また同じ目に遭うって?」

「……そうかもしれない……」

「その時はまたお願いね」

マーカスは苦笑する。「強いね、キミは」ふと、真剣な顔になる「北海道を出ないのか?」

「出ないわ」

「復讐も?」

「しないわ。どちらにも」

「どうして?」

私は鏡を見る。自分の顔を見る。私が笑う。

「これからが良いからよ」


〈了〉

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