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「ぴゆうちやん」の事

微風(そよかぜ)が語る言葉を聞け晩春 涙次〉



【ⅰ】


「もぐら御殿」から持つてきたホワイトボードと差し棒、もぐら國王はもう、「泥棒道」を枝垂に叩き込んだので不要だと云ふ。カンテラ事務所では、金尾が「収入・支出報告、及び各人へのギャランティーの配分について」と云ふ定期報告を行ふ。それにホワイトボードは必要なので、國王からカンテラが譲り受けた。


 今日は、カンテラがそれを使つて、由香梨と光流にレクチャーをしてゐる。「かまいたち」について、である。

 由香梨がまづ挙手した。「光流くんが、(いたち)を品種改良してフェレットを作つたつて云ふから、フェレットの餌を『ぴゆうちやん』にあげたんだけど、ちつとも食べないの。口に合はないのかしら?」案に(たが)はず、カンテラは「それはね、鎌鼬つて云ふのは、旋風(つむぢかぜ)つて自然現象の形象化。分かり易く云ふと、『ぴゆうちやん』は妖怪なんだ。動物としての鼬とは違ふ。餌も要らないんぢやないかな?」

 更に、カンテラはホワイトボードに黑々とマジックで文字を書いた。「鼬の最後つ屁」→「鼬の臭腺」が、妖怪である鎌鼬には、ない。そして風の精である彼らは、人間に相對する時だけ、實體化する、と云ふ。



【ⅱ】


「ぴゆうちやん」の爪は、鎌になつてゐる。彼は、由香梨と光流には傷をつけないやうにしてゐるけれど、他の人間たちにはだうだか分からない。それに氣を付けて、飼ふ事。そんなところで、カンテラのレクチャーは終はつた。


「ぴゆうちやん」は方々で、風と一人遊びしてゐたが、由香梨と光流を見付けると、猫のやうに擦り寄つてきた。光流が車椅子の膝に載せる。


「カンテラさん、想像してたよりも、ずつと優しかつた」と光流。「テレビで観てたのとは、随分雰囲氣が違ふね」

由香梨「楳ノ谷さんとか、『血に飢ゑた』剣鬼なんて云ふからねー。ホントは皆の事を面倒見てくれる、頼りになる所長さんなのよ」


「『ぴゆうちやん』のパパ・ママは『魔界』つて處にいるの?」「さうよ。(由香梨は光流の前では『魔界』は禁句だつたと思ひ出して、慌てゝ口を噤んだ)」「僕のママも、さうなのかなあ」光流は男の子らしく、もう泣かなかつた。たゞ、母への憧憬已み難く、遠くを見るやうな眼差しをしてゐる。



【ⅲ】


 光流の母・節は、魔界に帰り、元通り黑ミサの「祭壇」役をしてゐる。要するに、鰐革男の愛人だ。鰐革は見た目グロテスクなご面相をしてはゐるが、或る種のセックスアピールを發散してゐる。光流の父の「優しさ一點張り」とは、違ふのである。【魔】相手とは云へ、男女の機微とはそんな物だ。凝視(みつ)められるだけで參つてしまふ者も、中にはゐる、らしい。

 カンテラは、鰐革の陽根を斬り取つてやらうか、とも考へた。鰐革の性的魅力を根絶してやらうかと。さうすれば人間界から拐帯される、女性もゐなくなるだらうと云ふ目論見だ。

 どんな吠え面掻く事やら。カンテラは殘忍な微笑みが、ふとその横顔に浮かぶのを覺えた。いかんなあ、これぢや世間の「正義の味方」イメージに叛するではないか。楳ノ谷の云ふ「血に飢ゑた剣鬼」つてのは、当たるとも遠からじ、なのである。今日は子供たちには、その本性は見せなかつたが。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂

 

〈臭腺を除去され即ちフェレットと云ふは鼬のなれの果てかな 平手みき〉



【ⅳ】


 待てよ。カンテラの思考は續く。陽根切除が殘酷ならば、『修法』で鰐革の性を制御出來ないものか。   

 カンテラは急ぎ魔導書に当たつた。えーと、頁✕✕✕。ぺらぺらと頁を手繰つた。

 あゝ、これこれ。なになに? 毒人參一本、後は呪いの對象となる者の、髪の毛か爪... これ、「シュー・シャイン」に命ずれば、入手可能なんぢやないか? 魔導士やつてゝヨカツタ!!


「シュー・シャイン」その命を聞いて、「宜しう御座います。鰐革のベッドルームから拾つてきませう」

「今度は踏み潰されないやうにするんだぞ」「御意」



【ⅴ】


 ごきぶり姿と云ふのは、誠に以て便利だ。まづ、人の目に立つと云ふ事がない。それが「シュー・シャイン」が、他のなりをせず(やらうと思へば出來るのだが)ごきぶりの儘でゐる理由だ。彼の使ひ魔としての、血がさうさせるのだ。


 で、首尾よく彼は、鰐革の拔け毛を拾つてきた。カンテラそれを、毒人參と共に、護摩壇に投じた。それら焚かれる事暫し。だうやら、臭ひがもうもうと立ち込めてゐる。そのガスを吸つたら、毒人參の毒氣に当てられてしまふ。念の為、「相談室」は立ち入り禁止にした。


 テオに「思念上」のトンネルの張り番をして貰ふ。すると、既に人間の女たちが、トンネルを傳つて、わらわらと出てきてゐる、と云ふ。これなら、光流の母も-


 案の定、節はトンネルから逃げてきた。じろさんが保護する。まづは、光流に引き合はせなければ...

「光流、ママが惡かつたわ。堪忍して頂戴」母子の感動の對面。本当はそこには、どろどろとした性に纏わる感情の泥沙が、底流として流れてゐるのだが。鰐革の使ふセックスの妖術から目醒めたのだ。


「ぴゆうちやん」が、きょつ、と啼いた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈赤裸々に語れど春は呑み込めり 涙次〉



 さて、鰐革男。「だうしたつて云ふんだ、この役立たずめ!!」ハーレムも崩壊したやうだし、ヘマも續出。カンテラ一味に對抗出來るものは、全て奪はれてしまつた。だうするんでせうかねー? あ、さうさう、誘拐された女性方が帰つて來た、と云ふ事で、親族の方々から、莫大な謝礼金が、カンテラ一味に齎された。久し振りの「プロジェクト」以外からの入金である。これが「斬魔屋」の醍醐味と云ふものだと、カンテラつくづく、思つた。


 ぢやまた。お仕舞ひ。

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