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 次の日。少し早めに来た教室で、小さく息を吐き出した。制服の着用が自由な学園とはいえ、今日もちゃんと制服である。


 ルキ先生に「制服はちゃんと着ておくように」と言われたことも理由としてあるけど。次の日制服じゃなかったら、注意されたから制服じゃないんだと思われても困るし……などと言い訳じみたことを考えて。


 それに、制服のほうが服装を考える手間も、着替える手間も少ないので。ずっとこのままでもいい気がしている。


「そういえば聞きまして?昨日校舎内を駆け回っていた女生徒がいらしたとか」

「ああ、それな。男子寮でも話題になってた」

「きっと平民の生徒ですわね。令嬢でしたらそんなはしたない真似いたしませんもの」


 聞こえてきた会話に、そっと目を逸らして窓の外を見つめる。それと共に頭に浮かんでくるのは、昨日の放課後に見た、騎士の姿をした怪異のことで。ソレについては2度と遭遇したくないし、もう考えたくない。


 なので、今後は放課後ササッと帰ろうと決めている。そうすれば少なくとも放課後遭遇することもない……はずだ。


 そんなことを考えながら、何もない黒板を見つめていると、前扉から印象的なペールピンク色の髪をした女子生徒が入って来た。その子は席がわからないのか、きょろきょろと周囲を見渡している。


 その際に見えた瞳の色は、ベビーブルーの瞳。

 ここまで来たらほぼ確定したも同然で。


(恋怪のヒロインちゃんだ!)


 名前はデフォルト名のミラ・アモルティアのまんまだろうかとソワっとしかけて。そういえば、恋怪のゲームについて思い出すまで深く考えていなかったが、彼女がミラ・アモルティア公爵令嬢として、パーティに参加していたことを思い出した。


 そのときに可愛い子だなと思った記憶があるが、その理由も今なら頷ける。主人公なんだから、そりゃ可愛いに決まっているので。


 ガタッ


 不意に椅子を引く音がして、ヒロインちゃんこと、ミラ様から目線を外して横の席を確認する。私が視線を向けたのに気がついたのか、隣の席に座った男子生徒もこちらを確認した。


 そしてにこりともせずに、一言。


「なんだ、隣の席はユラ嬢か」

「おはようございます。セージ様」

「ああ、おはよう」


 セージ様こと、セージ・アストルムは、私の家と小さい頃から親交のあるアストルム侯爵の子息で、切れ長の目と眼鏡が知的な印象を与える美男子だ。現宰相の御子息でもあり、王子と歳が近いことから、側近候補として側に控えていることも多いらしい。


 そして、ゲームの記憶を思い出した今だからわかるけど、この人、攻略キャラです。


「セージ様がいらっしゃるということは、もしかして……?」

「相変わらず察しがいいな。殿下もこの学園に入学されたよ。あいつもいるがな」


 モナモ学園は15〜18歳の間であれば、いつでも入学できる。もちろん、入学式は年に一回しかないので、入学式までに入ることを告げなければいけないのだけれど。その仕様のせいで16歳の私と、17歳のセージ様と、18歳の殿下が一年生とかいう、はちゃめちゃが許されている。


 ちなみに攻略対象はセージ様と、この国の王子、グレア・フォン・セレスティアル様と、騎士団長の御子息である、ウィリアム・アウロラ様である。新月の夜限定の隠し攻略キャラは知らないが。


「ウィリアムは君と同じ歳なのに、どうしてこうも落ち着きがないんだろうな」


 疲れたようにこぼされた言葉に、愛想笑いだけ返しておいた。


 *


 授業が始まったばかりかつ、クラスに殿下がいるという理由からか、先生も生徒も手探り感が否めない授業時間を終えて、現在お昼の時間。


 モナモ学園では、お昼は食堂で食べられるようになっていて、作って持ち込むなり、学食を注文したり、自由度が高い。


(そういえば、授業ではミラ様ばっかり指名されてたな)


 困った先生が視線を泳がせたときに、ペールピンクの髪色に目を惹かれるせいだろうか。ミラ様にばっかり回答を求めたときはどうなるかと思ったけれど。ミラ様は、無事に正答を出されていて、当てた先生もほっとしてたなぁ、なんて考える。


 そもそもミラ様は15歳の最年少に属するわけで、そんな子に頻繁に当てるなとは思うけれど。


「……よろしければ、ご一緒してもよろしくて?」

「もちろんですわ」


 ランチを目の前に授業のときのことを回想していると、不意に鈴の転がるような澄んだ声で問いかけられて。座席あんまり空きがないもんなぁと、確認せずに頷いた。すると、お礼の言葉と共に着席したのは。


「ごめんなさい。座席があまり空いてないようなの」

「……いえ、同席させていただけるなんて光栄ですわ、アモルティア様」


 まさかの恋怪のヒロイン、ミラ様だった。咄嗟に伯爵令嬢としての猫を被ったけれど、心の中は大歓喜している。近くで見ると、桜と青空みたいなカラーリングで。シャンデリアのような煌びやかな光に照らされてなくても、髪の毛に天使の輪が浮いている。

 儚いのに可愛い、さすがヒロイン。


「そういえば……セージと話しているところを見かけましたわ。お知り合いですの?」

「昔から家同士で親交があります」

「なら、ウィルともお知り合いかしら?」

「ウィル、とはウィリアム様のことでしょうか?それならアウロラ様とも、セージ様をきっかけとして親交がありますわ」


 沈黙が気まずいからか、ミラ様は質問をぽんぽんと投げつけてくる。それに当たり障りなく返答しながら、友人であることを印象づけていく。


 そうすると、誰にも聞こえないくらいの声量で、ミラ様がぽつりと言葉を落とした。


「誰、このモブ」


 その言葉が聞こえた瞬間、ピシッと脳内が凍りついた。

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