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ガラリと開かれた扉の向こうから、入ってきたのは、どこか心のどこかで予測していた通りの人物で。
「おや……どうかしたのかな?」
困ったように頬を掻いて部屋に入ってきたウィリアムに、ルキ先生はどこか不思議そうで。確かに、昨日手当てしたばかりなのに。そんなにすぐ保健室に来るだろうかと、私も疑問に思う。もしかして包帯が巻けなかったのかな、と確認した腕の包帯は、ピシッと巻かれていて。なおさら違和感がある。
「…俺、鍛錬に早く戻りたいから。だから、カリプソ先生に言われた通り、安静にしてたんス。それで朝、寝てるうちによれた包帯を巻き直そうと包帯を剥がしたんです。そしたら……」
ウィリアムが言葉とともに包帯を緩める。しゅるしゅるという微かな擦れる音の後、現れた腕には痛々しい切り傷と、紫色の痣が大きく広がっていた。ルキ先生は、その腕を確認してすぐに頷いて。
「そっか、びっくりしたよね。昨日より酷くなってるかもって、感じたよね?大丈夫だよ。切り傷が深いと、傷の周りに内出血が広がったりするんだ」
そう説明しながら、ルキ先生はテキパキとウィリアムの腕に手当を施していく。その言葉を聞いたウィリアムは、安堵からか深刻そうだった表情をわずかに緩めて。そうして顔を少し上げたことで、私と視線が交錯する。そこで、初めて私がいるのだと認識できたらしい。
「うぇ、ユラ嬢!?」
「ちょっと失礼なのでは?ウィリアム様」
怪我に焦っているところが格好悪いと思ったのだろうか。あたふたとするウィリアムに、年相応の感じがして、ふふっと小さく笑う。そこで、何かが頭を過ぎった。何かゲーム本編で、ウィリアムの怪我に関することがあったのではないか、と。
「はい、終わり!引き続き安静にね?」
「はい!あざっした!」
元気よく返事をしたウィリアムの声に、思考が掻き消される。ウィリアムは何かを言おうとして辞めたようで、昨日と同じように手を振ってから保健室を出て行った。
「騎士になるためとはいえ、あんな怪我をするほど鍛錬頑張ってて偉いよね」
ルキ先生の言葉に、曖昧に頷く。何か、重大なことを忘れているような。そこまで考えても、もやがかかったように思い出せなくて。
私が答えを得たのは、その日の夢でのことだった。
(あれ……?)
不意に、ここは夢の中で、自分の意識が誰かのものと混ざっているのを感じた。
その誰かの見下ろす腕に、青と紫でできた顔が広がっている。傷口が、口となって言葉を紡ぐ。
「誰もおまえを見ていない」
「セルバンテスの子、グレアの側近候補」
「お前の価値はそれだけ」
「セージも、お前自身を見ることはない」
「自分に何もないことは、お前が一番よくわかっているだろう?」
呪詛のように、嘲る言葉が次々と傷口から漏れでる。痛い、痛い、痛い。
——どこが?
話すたびに開く傷口?それとも。
「心が弱いのでは、騎士になるなんて無理な話だろうなあ?」
うるさい、うるさい、うるさい!!!
私の頭の中にその言葉だけが反響して埋め尽くしていく。ああ、これは。
——ピピピッ!!!
クロックーの鳴き声が朝と、ウィリアム編の開始を知らせるようだった。




