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天文22年(1553年) 陸奥国田村郡三春城下
蘆名 四郎丸
田村郡西部の領地改革を始めて数ヶ月がたった。
最初の内は領民から多少なりとも不満や懐疑的な声があがったが、清顕殿が領民たちに親身に接し説明してくれたおかげもあり大した問題も起きずに始めることができた。
「ふ~…取りあえずある程度の目途はたったな。
後は様子を見ながら細かいところ直していくしかないな。とはいっても成果が出るのは来年になってみなければわからんが…」
「そうですね。それにしても収穫が終わる時期で良かったですね。
おかげで領民たちの不満も少なく済みましたし後は皆に任せて良さそうですね」
「清顕殿、そうですね。
ですがこれからすぐに雪も降るでしょうしやれる事はやっておかないと」
俺と清顕殿は刈入れが終わり、来年の為に土地を開墾する領民たちを見ていた。
「そういえば、この間襲ってきたもの達はいかがいたしたのですか?」
「あぁ…あの者達は前に襲ってきた者達同様、右衛門大夫と月斎殿達にひとまず任せている。
ただしこちらにつく気がある者は減刑することも伝えています」
「さようでございますか…」
心配そうだな…
領地改革を始めて一月ほど経った頃、賊徒たちによる襲撃があった。
賊とはいっても元々は田村家に仕えていた反蘆名派の者達だが…
まぁ俺が来ることがわかればそう動く者達が出ることは右衛門大夫や月斎殿も分かっていたことなので、兵を伏せたり、罠に嵌めたりといろいろとやっていたな…
正直二人が楽しそうに賊を罠に嵌めていたので俺としてはドン引きだった…
むしろ清顕殿の方が動じていなかったな。
「問題ないとは言いませんがこれからの事を考えると兵を増やしておきたいので」
「兵をですか?」
「はい。これから父上がどう動くのか分かりませんが、おそらく次は二階堂か岩城攻めになると思いますので私も準備しておかなければ」
「準備ですか?まさか四郎丸様も出陣するつもりですか?」
「いえ、さすがに次は出るつもりは無いと思います。
ですがこの地を治めることになった以上兵は出す事にはなると思いますので…」
「なるほど」
「その時は清顕殿にも出陣をお願いするかもしれません。
その時がきたらよろしくお願いいたします」
「はい。その時はお家の為にも精一杯はげまさせていただきます」
二人で談笑していたところに遠くから馬に乗った右衛門大夫が向かってきた。
どこか顔がこわばっているな…何かしたか?
「四郎丸様一大事にございます!」
「そのように急いでどうしたというのだ?」
「どこから話せば良いものか…
まず結論から言いますと古河公方足利晴氏様、北条の手により幽閉されました」
はっ?今なんて言った?
古河公方様が北条の手により幽閉?なんの冗談だ…
「…すまぬ右衛門大夫、それは真の話か?」
「真の事にございます!」
「それはつまり北条との戦に負けたということか?」
「いえ正確には戦はおきておりません…
詳しくは城に戻ってからお話いたしますが、どうやら事を起こす前に情報が漏れたらしく、御所を北条の兵に囲まれ捕まったらしいです」
なんだそれは…
それでは佐竹を抑える策も失敗したということか…
とにかく詳しい話を聞かねば判断できんな。
「清顕殿、右衛門大夫すぐに城へ戻るぞ」
最悪北条との戦も考えねばならなくなったか…最悪だ
天文22年(1553年) 下総国猿島群古河城
北条 氏康
「御所を兵で囲むとはいったい何のつもりだ氏康?」
「何のつもりとは異なことを。晴氏様が良くお分かりなのではありませぬか?」
「なんだと!儂は身に覚えなど無いぞ!」
古河公方北条晴氏様は儂に対して苦言を呈した。
ここまできてもこの方はまだ白を切るつもりらしいな
「すでに簗田殿から聞き及んでいるのではありませんか?
なんでも晴氏様は我らに対し戦を仕掛ける準備をしておられたとか。
となればこちらがこう動くのは分かっていたことではありませんか?」
「………どうするつもりだ?」
「何も命まで取るつもりはございません。
ですがこのようなことが起きないよう晴氏様にはここより移っていただきます。
その後どうするかは小田原に戻ってからおってお伝えいたします」
晴氏様と嫡男の藤氏は兵に連れられていった。
「さて簗田殿、此度のご報告まこと感謝いたします」
「約定通りまことに晴氏様の命は取らないのでございましょうな?」
「それは間違いござらん。
ただし晴氏様がおとなしくしておればだがな。そのあたりは簗田殿が良く言い聞かせるが良かろう」
「…かしこまりました」
「さて佐竹や宇都宮はいかがしておる?」
「どうやら佐竹も宇都宮も兵を出すつもりは無さそうだ…
こちらが兵を起こしても戦支度にはいる様子もない。動いたのは里見ぐらいなものだ」
「そうか。引き続き何かあれば報告を頼む」
「わかった…」
北条に仕えている忍びから他家の動向について報告をうけた
「動いたのが里見だけとなればしばらくは綱成に任せておけばいいだろう。
儂は一度小田原に戻る。その後里見に対する為、江戸に向かうと綱成と氏尭に知らせてくれ。
それと綱成には儂が江戸に入る迄は現状維持に努めよと、間違ってもはやって行動をおこす事のない様に伝えてくれ」
「わかった。それともう一つ報告がある。
どうやら今回の件に会津の蘆名も支援しているらしい…」
「……そうか。引き続き調査と報告を頼むぞ小太郎」
会津の蘆名か…あそこの家はもともとは相模の出だったはずだが。
となれば話し合いで何とでもなるであろうが、一応こちらから今回の事書状を出しておくか?
それとも今回の事を利用して佐竹や宇都宮のおさえに使っても良いやもしれぬな。
どちらにせよ小田原に戻ってから判断するか…




