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天鏡記  作者: 藤桜
30/31

2-8

天文22年(1553年) 陸奥国会津郡黒川城

蘆名 盛氏


倅が儂の話を聞いて難しい顔をしておる。

大分賢しらな所があったがそれでもまだまだ子供ということか。


「というわけでだ、儂は今後二階堂や岩城に対する備えに動かねばならぬ。

 そこでだ、お前には手に入れた田村の領地をまかせたいと思っておる」

「…私にですか?」

「そうだ!他の者も考えたがお前の所には田村家の当主もいるし、田村の者も自分たちの領地が栄えるとなれば素直に動いてくれると思ってな」

「そうは言われましても清顕殿達はまだこちらについて日も浅くそうそう上手くいくとは思えませんが…」

「そこは儂とてわかっておる。

 何もすぐに結果を出せと言っているわけでもない。

 田村の者と協力して少しずつ変えてゆけばよい。まぁ気長にやれ」


確かに普通に考えれば元服も済んでいないような者に任せる仕事ではない。

だが四郎丸ならば何だかんだ上手くやりそうな気もするのだ…


「…わかりました。どこまで出来るかわかりませんがやってみます」

どこか渋々ではあるが納得してくれたようだな。

「では四郎丸、古河御所様の件と田村の事任せたぞ」


ひとまず必要な話は終えたので四郎丸達を下がらせることにした。

さて四郎丸に面倒な仕事を押し付けた以上儂も仕事をせねばな…

まずは二階堂だな。岩城はいつでも後詰を出せる準備をしておけばいいだろう。

さて二階堂攻めを誰に任せるか…



天文22年(1553年) 陸奥国耶麻郡猪苗代

蘆名 四郎丸


まったく父上にも困ったものだ…

御爺様から受け継いだこの土地を栄えさせるのですら大変だというのに…

「…右衛門大夫、父上に言ってお主が代わってはくれぬか?」

「それは…さすがに難しいのではありませんか?

 そもそも今の蘆名家をここまで変えたのは四郎丸様ではありませんか。

 私も四郎丸様なら出来ると思いますが」


そうは言ってもなぁ…

俺は知っている現代知識を使ったにすぎない。

それを信じて行う者、父上や右衛門大夫達がいたからここまで発展できたわけだが…

田村の者はどうでるかわからんしなぁ…


「そのように悩まれずとも。

 盛氏様も気長にやれと申しておったではないですか。

 私も手伝いますのでやれるだけやってみましょう」

「わかった。右衛門大夫がそこまで言うのならやるだけやってみよう。

 すまぬが清顕殿を呼んできてくれ」


「四郎丸様、田村清顕殿が参りましてございます」

「あぁ入ってもらってくれ」


戸を開けて未だ年若い男性が右衛門大夫と共に入ってきた。

「わざわざすまぬな清顕殿」

「いえ…此度は何用にございましょうか?」

さてどこから話したものかな…

「先日私が黒川城に行ったことは聞いておられますか?」

「はい…月斎殿から詳しくは話せないが大事な話がある為すぐに城へ向かわれたとだけ」

「そうです。そこで話の中で田村の領地の事で父上から命がありまして…

 何といいますか、私にこの地と同じように田村を治めよと…」

「四郎丸様にですか?」


明らかに驚いている。いやいぶしがっておられるのかな?

まぁ分からないでもないが…


「そうです。他の者からどのように聞いているかわかりませんが、一応この地は私が治めさせていただいております。他にも蘆名家が現在の様に栄えさせるきっかけにも関わらせていただいております。

 そういうところもふまえて父上は私に命じられたと思うのですが…」

「…にわかには信じがたいですが、この地が田村よりも栄えているのは歩いていれば良くわかります。

 それで四郎丸様に田村の地を任せるのは分かりましたが、私は何故呼ばれたのでしょうか?」

「まぁ清顕殿も思われていると思われますが、私は見てのとおり元服もしておらぬ童です。

 いくら蘆名で信用があったとしても他の地ではそうはいきません。

 そこで清顕殿には田村での私の補佐をお願いしたいのです」

「補佐でございますか?しかし私は蘆名家に人質として来ている身…

 いろいろと問題になると思うのですが…」


そういえば表向きは人質として来てもらっていたのだったな。

清顕殿から全くと言って敵意を感じたことが無いせいか完全に忘れていたな。


「父上も特に気にした様子もなかったし大丈夫なのでしょう。

 もしくは清顕殿の御正妻殿達がおられるから問題ないとの判断かもしれぬが。

 どうでしょう?この話受けて下さりませぬか?」

「…そちらがよろしいのであれば私が断る道理はございません。

 喜んでこのお話、お受けさせていただきます」

「そうか!それは非常に助かる。では清顕殿これからよろしく頼みます。

 さて、そうと決まれば清顕殿には田村家の者の中で信頼できる者を数名選んでいただきたい」

「信頼できるものですか?」

「そうです。いくら蘆名家の領地になったとはいえまだ先の戦から日も浅いので私や清顕殿が長くと止まることは出来ません。となれば私達の指示を行動に移す者が必要になります。

 そういった者を清顕殿に選んでいただきたいのです。もちろん父上に言って蘆名家からも何人か出してもらうつもりです」

「わかりました。では月斎殿にも伺い何人か選んでみましょう。

 してまずはどこから始めますか?」

「まずは今回直轄地になった西側から始め、慣れてきたら他の所にも広げていこうと思う。

 何事も性急に事を進めれば仕損じますからね」

「……ははは!確かにさようにございますな!」


俺の言い方が何が面白かったのか清顕殿に笑われてしまった。

そこから俺と右衛門大夫、清顕殿と清顕殿に呼ばれた月斎殿とで今後の細かい動きを話し合った。



天文22年(1553年) 下総国猿島郡古河城

段蔵


数か月ぶりに帰ってきたが少し城内がひりついておるな。

この様子では公方様もさぞ機嫌が悪いだろうな…

だが今回の話で少しでも良い方に向かってくれれば良いが…


「公方様失礼いたします」

「うん?その声は段蔵か?」

「はっ!お役目を終え帰ってまいりました」

「そうか…して首尾は?」

「安房の里見殿、常陸の佐竹殿ともに事が起これば動くとの約定を得てまいりました。

 下野の宇都宮殿は少しばかり返事は待ってほしいとのことです。」

「よし!これで準備はあらかた済んだな。宇都宮がまだらしいが…まぁ良かろう。

 北条め~目にもの見せてくれるわ!」


殿は大分上機嫌になられたが慎重に事を進めねば事を仕損じることになる。

後で簗田様にご報告した方が良いだろうか?

そういえばもう一つ報告があったな。


「公方様もう一つ報告がございます」

「なんじゃ?申してみよ」

「常陸の佐竹に寄った帰りに少し足を延ばし陸奥国まで行ってきたのですが、そこで蘆名家からも少ないながらも支援を取り付けることが出来ましてございます」

「ほう?蘆名もこちらを支援してくれるか。

 いくら陸奥の田舎武者とはいえ支援してくれる以上こちらも感状ぐらいは出してやるか」


田舎武者か…確かに公方様から見たらそうかもしれぬが…

だがこの目で見てきて思ったが蘆名家は明らかに関東のどの地と比べても栄えていた。

土地の実りや活気もそうだが、何より民衆が皆元気に過ごしていた。

それだけで今の関東とは違うと感じられる。

正直うらやましい限りだ…

そして簗田殿勧められて会った蘆名家のご嫡男。

簗田殿の申す通りどこか不思議な童だった。


…蘆名か。これからどうなっていくのか見ものだな


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