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天鏡記  作者: 藤桜
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2-3

天文22年(1553年) 陸奥国田村郡三春城

蘆名 四郎丸


この歳で初陣を飾ったわけだが正直本当に戦をしているのかという気分になる。

最初に攻めた二本松城は兵が殆どおらず簡単に降伏してきた。

城内の者は武器を取り上げ軟禁し、兵3百を置き任せてきた。

その後急ぎこの三春城までやってきて攻めているわけだが…

こちらもほとんどの兵が戦に出払ってしまっているようだ。

「四郎丸様、降伏を伝える矢文を飛ばしましたが一向に返答がありません。

 本当にこのまま待機でよろしいのですか?

 正直兵の数で差がある今簡単に城を落とせると思いますが?」

平太郎が窺う様に聞いてきた。

「このままで良いんだ平太郎。

 この状態になった時点で俺の策の8割は達成している。だからこそ右衛門大夫にも無理して攻める必要は無いと指示を出し、かわりに物見を出し戦場から引き返してくる者がいないか警戒させているのだ。

 後はこの状況を知った田村がどう出るか次第だ」

そう、今回の策で一番重要だったのはいかに敵を引き付け減らし、相手にばれずに後方の城を攻められるかといったところだった。

父上には敵が打って出てくるぎりぎりの兵で向かってもらい、俺はと言えば別動隊を率いて伊達家へ挨拶に向かった。

伊達家への援軍打診は建前で本当の目的は伊達領内を通り田村家の不意を突くこと。

伊達の領内を通ってくるとは思わないだろうし、まして元服も済んでいない嫡男が一緒となれば別動隊の存在は意識の外になるだろうと思っていた。

結果は田村の兵の殆どは父上達のもとへ向かい、城には数百の兵もいない状況出来た。

後は詰めを間違えなければ良いだけだ。

「四郎丸様、右衛門大夫様が参りました」

平太郎が馬に乗った右衛門大夫様がこちらに向かってきているのを見つけた。

「右衛門大夫如何した?」

「先ほど殿より使者が参り、田村が降伏を申し出てきたらしいです。

 それによりこの三春城で降伏の条件を決める為こちらへ向かっているそうにございます。

 殿からは城攻めは一時中断、到着まで待機だそうです」

「そうか、降伏してくれたか。

 では父上達が到着するまで兵たちを休ませておけ。ただし一応警戒はしておいてくれ。

 それと城の者達にもこのことを伝える為に矢文を飛ばしておいてくれ」

右衛門大夫に指示を出し終えた俺は緊張の糸が切れたのか地面に座り込んだ。

「四郎丸様大丈夫ですか?」

平太郎が心配して声をかけてきた。

「大丈夫だ…

 どうやら自分が刀や槍を持って戦ったわけではないが初めての戦という事もあり疲れていたらしい…

 私も少し休ませてもらうがその間は父上が来るまで右衛門大夫に任せる。

 平太郎も少し休んでおけ」

後は父上が田村をどうするかだがそこは任せるか…

これで少しは戦が落ち着いてくれれば良いがまだ佐竹や相馬がどう出るかわからない。

さてどうなるかな…

その後、日が落ち始めたころに父上達の軍が見え始めた。


天文22年(1553年) 陸奥国田村郡三春城

蘆名 四郎丸


父上達の全軍が到着した次の日には田村の処遇を決める評定が開かれることが決まり、その処遇をどうするかの話し合いの場がその日の内に行うことになった。

俺も今回一緒に従軍したもの達と一緒に話し合いの場に参列するようにと父上から命じられた。

話し合いの場に参列はしたが俺から特に何か言うつもりはなかった。

領地や城は取り上げが決まったが田村の一族をどうするかでなかなか話がまとまらなかった。

重臣達の中には一族全て斬首に処すべきだという者、女子供は見逃しても良いのではないかと言うものなど様々だった。

なかなか決まらない処遇に苛立ってきたのか父上が俺の方を見た。

「先ほどから何も意見を出さんが四郎丸はどう考えているのだ?」

さてなんと答えればいいものか…

「この場に参列はさせていただいておりますが、私のような若輩者が軽々に発言すべきではないと思い皆の意見を聞くだけにとどめておりました」

「今はどのような意見でも参考にしたい。

 それに今回の戦の勝利はお前の策によるところが大きいところもある。

 ならば意見の一つぐらい言っても皆も何も思わんだろう」

この父上の言葉で今迄意見を出し合っていた重臣たちもこちらの方に顔を向け始めた。

「では僭越ながら申しますと此度は御許しになってはいかがですか?」

「何を申されるのですか!

 今までの事を考えれば到底やつらを許すことなどできませぬ!」

まぁ当然の反応だな…

「皆の気持ちも分かるが今後の事を考えれば生かしておいた方が使い道があると思う。

 今回の事で相馬や佐竹とも本格的に戦になるかもしれん。

 しかし田村を生かして服属させれば相馬とは停戦に持ち込むことも可能だ。

 田村と相馬は一応は縁戚関係になるのだからな。

 そうなれば佐竹とて簡単に攻めてくることも無いだろうと思うのだがどうだろうか?」

俺の発言を聞き皆が考え始めた。

「四郎丸様は佐竹が攻めてくると考えておられるのですか?」

「いや佐竹が攻めてくることは無いとは思っている。

 今はこちらより北条や里見に注意を払っているだろうからな。

 だがどうなるかはその時になってみないとわからんからな。

 一応手を打っておいても良いだろうと思ったわけですがいかがでしょうか父上?」

俺の考えを述べたうえで父上の方に顔を向けてみると父上は目をつむって考えていた。

その様子を見た俺は父上が言葉を発するまでしばし待つことにし、他の家臣達も同じように待った。

「四郎丸の考えは一考の余地はある。

 田村に思う所もあるが遺恨があるわけでもない。

 だが田村がおとなしく服属を受け入れるとは儂には思えんのだが…」

父上の言葉は確かにその通りではある。

服属しろと言っても田村の家臣達は素直には受け入れることは無いだろう。

周りの家臣達も然もありなんといった感じだ

「父上の言葉通り簡単には受け入れないでしょう。

 であればある程度考える余地を与えてやればよいのです」

「ほぉ、もうしてみよ」

「まずは現当主には隠居していただき嫡男の清顕殿に家督を継いでいただきます。

 そのうえで清顕殿には当家の領地ですごしていただき、三春城の城代には当家の者を置きます。

 そのうえで領地は減俸、田村郡の西部と南部は当家が治めることにいたします。

 あと忘れておりましたが月斎殿にも清顕殿と一緒に来ていただきましょう。

 月斎殿さえいなければ兵を挙げたところで簡単に抑えら荒れましょう」

「悪くは無いがそれで納得しない場合はいかがする?」

「その時は家臣たちが申していたように斬首に処すしかないでしょうが、

 こちらとしても最大限譲歩したというところを見せれば折れる者もでてくるでしょう」

父上は広間を一通り見まわしたうえで

「皆が他に意見が無いようであれば四郎丸の意見を採用するが、

 どうだ!他に意見のあるものはいるか?」

そう皆に聞いたが家臣達も俺の意見に納得してくれたのかそのまま俺の意見が採用された。

話は終わりかと思っていたが父上が俺に清顕殿達を何処に住まわせるのか聞いてきたので、

俺が御爺様から受け継いだ領地に住んでもらう事を言ったところで父上や家臣達から反対された。

だが俺が当家で預かる以上は下手な所に住まわせるわけにもいかない事、

また俺の領地であれば警備の面でも問題ないうえに預かった当主がないがしろにされていないと田村の家臣に見せる事も出来るとも伝えた。

だが家臣達の中にはそれでも反対する者もいた為にさらに一刻ほど話し合いは続いた…

だが最終的に父上が了承したために家臣達もしぶしぶ納得してくれ話し合いは終わった。


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