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天文22年(1553年) 陸奥国信夫郡
蘆名 四郎丸
伊達家での話し合いも終わり俺たちは許可をもらって伊達家の領内を進んでいた。
「四郎丸様真にこのままお進みになられるのですか?」
俺の後ろで手綱を握っていた右衛門大夫が声をかけてきた。
「当たり前だ。私が同行することが策の一部なのだ、だからこそ私がここで引き返すことは出来ない」
「私としましてはまだ元服もの済ませていない方を戦場には連れて行きたくないのですが…」
右衛門大夫の言い分はもっともだが、今回の策は俺が考え実行に移すと決めたわけだ。
俺だけ逃げるわけにはいかない…
それよりも予定通りに策が進んでいるかが気がかりだが…
「それより右衛門大夫、父上の方から何か報告は届いているのか?」
「まだ何もございませぬが予定通りであればすでに先端が開かれている頃かと」
まだ無いか…さてどうするか…
場合によっては兵を引き上げねばならぬが…
その後一刻ほど進軍していると前から一頭の騎馬が走ってきた。
警戒しながら目を凝らして見てみると馬に乗っているのはどうやら平太郎のようだ。
「四郎丸様にご報告申し上げます!
昨日巳の刻限に田村家とぶつかりましてございます」
「そうか!それで田村の兵は如何程になった?
できればどこから兵が出ているか分かればなお良いが」
「はっ!田村の兵数はおおよそ5千、そのうち相馬と佐竹が1千程かと」
5千か…想定内ではあるが思っていたよりも出てきたな。
父上の兵数も予定では5千のはずだ。そうなると兵数は五分になるか…
「平太郎、戦の状況はどうなっている?」
「一刻ほどはうち合いましたが戦況が膠着した為、阿武隈の川を挟んで睨み合いが続いておりました。
私は膠着後にこちらへ向かった為その後の戦況はわかりませぬ」
どうやら策通り父上は敵を引き付けてくれているらしいな
であればこちらも急がねばならないか
「平太郎良く報告してくれた。
右衛門大夫聞いての通りだ。父上達は上手くことを運んでいるらしい。
我らも急ぎ兵を進め予定の城を落としに行くぞ!
平太郎は右衛門大夫に代わり俺の護衛につけ」
さてここまでは上手くことが運んでいるがどうなるか…
そこからは右衛門大夫に全軍の指示を完全に一任し、
俺は同行していた伊達家の兵たちに進軍を早めることを伝えた。
伊達家の兵たちは進軍を早めることに最初こそ驚いてはいたが、領の境も近いこともありすぐに納得してくれた。
伊達家の兵との話を終えたころ右衛門大夫が兵に指示を伝え戻ってきてた。
「四郎丸様この後は予定通りでよろしゅうございますか?」
「あぁ予定通りだ。
まずは田村方に付いている二本松氏を落とし、そのままの勢いで田村の本拠である三春城を攻めるぞ。
敵は父上が引き付けてくれている為数は少ないはずだ。その分こちらは優位に事に当たれる。
今回は三春城を落とす為の速さが肝心なる。
右衛門大夫は兵たちに余計な乱捕は行わないように厳命しておいてくれ。
さぁ一気に田村を平らげるぞ!」
俺が出来る限りの大声で叫ぶと、周りにいた兵たちが声を張り上げそこから全軍に伝播していった。
今回連れてきた兵は俺がかねてより右衛門大夫に任せ鍛えてきた直属兵がほとんどだ。
上手くいってほしいものだがさてどうなるか…
天文22年(1553年) 陸奥国安積郡
田村 月斎
数日前に蘆名が5千の兵を率いて攻めてきた。
こちらは相馬や佐竹の援軍もあり兵数は五分、戦況も今の所は膠着した状況が続いている。
殿は戦況が五分のなせいもあり幾分か油断しておられているが儂は今一つ楽観視することは出来ん…
今迄蘆名が攻めてきた時は万に近い兵が攻めてきたはずだが…今回はいつもより大分兵が少ない。
その減った兵だが手に入れた情報によると嫡男の護衛として伊達領について行ってるらしい。
そんな状況で攻めてきたことが儂としては裏があるようで納得いかん…
儂が考えを巡らせていると陣内が騒がしくなってきた。
そんなおりに儂のもとへ伝令が息を切らせながら走ってきた。
「月斎様、急ぎ来てほしいと殿がお呼びにございます!」
何かあったのだろうか?
「殿この騒ぎはいったい…何がございましたか?」
「おぉ叔父上来てくれたか!容易ではないことが起こったのだ。
これからどうするか急ぎ皆に諮らなければならん。叔父上の意見もぜひ聞かせてほしい」
容易ではない事とはいったいどうしたというのだ?
殿の御顔は青く落ち着きなく足を揺らしていた。
「殿そのように取り乱して如何されたのですか?」
「皆が来る前に叔父上には知らせておくが、数日前に二本松城が攻められたそうだ。
二本松城はその日のうちに落城し、
攻めてきた兵は数百の兵をを残し我が三春城を囲み攻めているらしい」
二本松城が落城?我らが居城が今も攻められていると…
「どこの勢力が攻め込んできたのですか?まさか伊達ですか?」
「傷だらけになりながら報告してきた兵によると相手の旗印には丸に三引両が刻まれていたそうだ…」
丸に三引両とはつまり…
「蘆名家が我が後方の居城である三春城を攻めている…
それも二本松城に数百の兵を置いたらしいが、それでも2千以上の兵がいるらしい」
2千以上という事は我らの半数の近い兵が後方にいることになる。
つまりは挟み撃ちの状況になってしまったわけだ…
仮に退却しようと兵を引き上げようにも前方には5千の兵、川の水量はそこまで多くもなく簡単に追い打ちの目にあうことになってしまう…
良しんば抜けられてもそのような疲弊した状況で城を取り戻すことなどできまい。
「殿言いにくい事ではございますがこのような状況では降伏も視野にいれなければなりますまい…」
「叔父上もそう思うか…皆に諮って決めるが事ここにいたっては致し方あるまい…」
そこからは援軍に来てくれた相馬や佐竹の将や重臣達と共に軍議を開き皆から意見を諮った。
重臣達の中には徹底抗戦を唱える者もいたが、最終的に殿が降伏の意思を決めたことにより皆の意見は降伏でまとまることになった。
軍議から半刻後に蘆名家へ降伏の使者が向かった。
帰ってきた使者から降伏は認められたが殿や将達は蘆名家の兵の元で捕縛のうえ監視され兵は解散、他の詳しい条件などは三春城にて知らせる為後日決めることにすると知らされた。
この知らせを受け反発するものが出てきたが使者と一緒に来た蘆名家の者に
「捕縛とはいっても縄で縛ったりなどは致しませぬ。
しいて言えば武器の類は全てこちらで預からせていただくくらいです」と言われ渋々納得していた。
そこからは武器を取り上げられ蘆名家の監視のもと皆で三春城に向かうことになった。




