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天文22年(1553年) 陸奥国会津郡黒川城
蘆名 四郎丸
年の初めに御爺様が亡くなられた…
かねてより話しをしていた通り御爺様の領地と屋敷や諸々が俺のものになった。
とはいっても城で過ごす事が多い為、御爺様が使っていた下男に屋敷の管理を任せているわけだが。
御爺様の葬儀には同盟国の伊達家や上杉家の使者が参列され、そして後日に公方様の使者の方が書状を持ってわざわざ来てくれた。
来てくれた使者の方には丁寧にお礼の言葉と手土産を渡し対応をした。
「四郎丸様、殿がお呼びにございます」
最近父上に付いて仕事をしていた右衛門大夫が俺を呼びに来た。
「父上がお呼びとはどうしたというのだ?」
「おそらくはまた田村の件かと…」
また田村か……
いい加減うっとうしくなってきたな。
「わかった。すぐに向かうとしようか」
「父上お呼びにございましょうか?」
「来たか四郎丸。とりあえず右衛門大夫と共に座れ!」
随分といらついておられるな。
まぁ田村の件となればわからんでもないが…
「田村が昨年に続き兵を出してきおった。
父上が亡くなってすぐはおとなしかったものを!
その方には儂が留守の間の事を頼むことになるから呼んだわけだ」
昨年に俺が上洛している間に、田村が二千の兵を率いて領地を取り戻そうと攻めてきていた。
上洛には俺の直属のみ連れて行った為、問題なく撃退することは出来た。
だが和睦交渉から数年とたたずの侵攻だったせいでその時も父上は御怒りであったな…
「それはかまいませぬが…父上は此度も小競り合いで治めるおつもりですか?」
「それはわからんが昨年と同じならばおそらくはそうなるだろうな」
「父上の様子を見るに田村家には大分お怒りの様子。
ならばいっそのこと可能な限り叩き潰してはいかがですか?」
「お前に言われずともわかっておる!
しかしこちらが大軍を率いて攻めればまた佐竹や相馬が出てくるに決まっておるわ。
そして戦が長引けばまた和睦などと言い出しかねんわ!」
やはり問題となるのは佐竹と相馬か…
「ならば佐竹や相馬がこちらに兵を出せず、なおかつ短期間で攻められれば問題ありませぬか?」
「言うのは簡単だがお前には何か良い策でもあるというのか?」
「上手くいくとはかぎりませんが一つ試したいことがあります。
父上が私の策を聞いて問題なければやってみたいとは思いますが…」
「わかった。どんな策かわからんが話してみよ。判断はそれからじゃ」
そこから俺は田村を攻める策を話し始めた
天文22年(1553年) 出羽国置賜郡米沢城
伊達 総次郎
「父上お忙しいところ申し訳ありませぬが、相談したきことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「総次郎か?相談とはどうしたというのだ?」
書院で書き物しておられた父上がこちらへは顔を向けずに声を発せられた。
「実は蘆名家の四郎丸より書状が来たのですが、葬儀への礼と話したいことがある為こちらに赴きたいとの事なのですが…」
「どうした?何か問題でもあるのか?」
どう答えたらいいだろうか?
いやありのまま伝えた方が良いか…
「なんでも護衛として兵を連れてくるらしいのですが数が三千ほどになるが良いかと…」
「何!?三千だと!さすがにそれだけの兵を連れてくるとなれば容易なことではないぞ。
どう考えてもただ礼に来るわけではあるまい。
総次郎その書状を見せよ」
「かしこまりました」
私は四郎丸からの書状を父上に渡した。
父上の反応は当たり前の反応だ。
いくら同盟国といえど普通は礼と話し合いの為に簡単に三千もの兵を出すなど言ってきたりはしない。
四郎丸ならそのぐらいわかりそうなものだが…
「なるほどな…
一応経緯を話すためとして金上右衛門大夫殿をこちらに先触れとしてよこすと書いてはあるが、
蘆名家の思惑はいったいなんだ?
総次郎お前はどう思う?」
「わかりませぬ。
ただ私は四郎丸と常日頃より書状のやり取りをしております。
最近では領内や上洛の事が書かれていたのみでしたが、他に特筆すべき事として田村家が攻めてきたとありました」
「田村か…あの者ら儂が蘆名家との和睦を仲裁してやったというのに性懲りもなく攻めたと聞いておる。
しかし攻めたは良いが此度も結局撃退され撤退したと聞き及んでおるぞ」
父上の言う通り昨年や今回の戦も結局は小競り合いどまりで終わっていると聞いている。
となれば別件か?だがそうなると三千もの兵を連れてくる意図がわからない。
本当にただの護衛というわけでもあるまいしな…
「まぁ近いうちに来るという金上殿の話を聞いてみるしかないか。
総次郎お前も同席してもらう故準備を怠るなよ」
「準備ですか?」
「そうだ。まさかとは思うがこちらに攻めてくるともかぎらんからな。
それゆえ何が起きても良い様にしておけ」
「わかりました」
四郎丸が攻めてくる?その様なことあり得るだろうか?
しかし父上が仰っる以上用意はしておかなければな…
天文22年(1553年) 出羽国置賜郡米沢城
伊達 晴宗
「左京大夫様此度は御目通りが叶い恐悦至極に存じます」
「そのようにかしこまる必要は無いが書状では金上殿が先に来るとの事だったが自ら来られるとわな。
して此度の許可もなく兵を連れてきたのはどう弁明するおつもりだ?」
儂の前に蘆名家の嫡男が座っている。
しかし先に書状で説明の為に先触れを寄こすはずだったが、書状を出したはずの本人が自ら参った。
連れてきた兵は100名、他は関所近くに待機しているとの事だ。
「本来であればその予定ではありましたが所要が済んだので私自ら参りました。
兵については書状にも記した通り私の護衛でございます」
この期に及んでも護衛と言い切るか…
「四郎丸よ、さすがに私でもその言い分は通らんと思うが」
「総次郎ご挨拶が遅れて申し訳ありますぬ。
お元気そうでなりよりにございます。
私もそれですんなりと通るとは思っておりませぬ。ですがすべてが違うわけではございますぬ」
まぁ護衛など明らかに建前でしかないわけだが他の理由はとは言ったなんであろうか?
「四郎丸他にも理由があると申すのか?」
「さようにございます総次郎様。
修理大夫殿、蘆名家はこの機会に田村を攻めることに決めました。
つきましては伊達家に援軍をお願いしたく参った次第にございます」
援軍か…まぁそれならば来た理由としては納得は出来るが、多数の兵まで連れてきた意味はなんだ?
まさかとは思うが脅しのつもりという事はないと思いたいが…
「援軍の要請はわかったが…
ただ伊達家が援軍を出す利点が無いように感じるがそちらはどうするつもりだ?」
「もし此度手伝っていただけるのであれば伊達家の相馬攻めを手伝うというのはいかがでしょうか?」
いかがいたすか…確かに先の父上との戦で相馬とも険悪ではあるが今どうこうなるわけでもない。
まして今は領内の統制を優先した方が良いとは思うが…
「父上よろしいのではありませんか?
田村や相馬はこちらが仲裁したのにも関わらず、たびたび蘆名を攻めこちらの面目を潰しております」
「総次郎簡単に申すな!
伊達家の利点が少ないこともあるが今は他家を攻めている場合ではないという理由もある。
それにいざ援軍を出すとなれば兵をどれだけ出すのか家臣達と相談しなければならん」
血気盛んなのは良いが総次郎にはもう少し色々と教えねばいかんな…
「こちらも急に申したことでもありますので修理大夫殿の申す事もわかります。
であれば援軍の代わりに連れてきた我が兵が領内を通る事をお許しいただけませんか?
多少でもよろしければ私の自由に出来る金銭も出す所存です」
「ほう。援軍はいらぬと申すか。
確かに領内を通るぐらいならばそこまでの問題はないが本当に良いのかな?」
「かまいませぬ。
ただその場合は相馬攻めを手伝うことは出来ませぬがいかがでしょうか?」
領内を通すぐらいは問題ない。
そもそも相馬を攻めることはこちらも望むところではない。
であれば多少なりとも金銭を得た方が良いか
「いいだろう。領内を通る事を許すことにいたそう。
ただしそれ相応に金銭を出してはもらうがな
それとそちらの兵が領内を通る時はこちらの兵を多少つけさせてもらう」
「かしこまりました。それで構いません。
持ってきた分で足りなければ後日家臣に持たせて参ります」
さて此度の話と兵の手配を常陸介に話をせねばならんな




