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天鏡記  作者: 藤桜
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天文21年(1552年) 山城国慧日山東福寺

蘆名 四郎丸


さて大分日も傾いてきたがそろそろ御爺様達が帰ってくる頃か。

ふと視界に何か考え込む平太郎が視界にはいった。

「どうかしたのか平太郎?」

「いえ先ほどの宗久殿との話の内容について考えておりました。

 なぜ四郎丸様が宗久殿に新たな産物になりそうな物の知恵をお与えになったのか、、またそこまでして欲する種子島とはどのようなものなのかという事です」

最近小姓達が俺の考えを理解しようと必死に考えていることはわかってはいたが、これはいい傾向だな。

小姓が主の考えを理解しようとするのは当たり前のことに思えるが、若い世代が考え成長していくのはこれからの蘆名家を支えてくれる存在になってくれるだろう。

「そうだな…まずは産物について話そうか。

 宗久に教えたほうじ茶だが茶葉を使うわけだが、これは畿内で生産している。奥州では気候的な問題もあり茶葉を作るのは難しいのだ。その為蘆名家の領地で仕入れて作ると利益が出づらいといった欠点がある」

まぁ場所によってはもしかしたら作れるのかもしれんが、あまり無駄な投資をするほどの余裕はないからやらないだけだが。

「次に宗久は境の商人をまとめている会合衆の一人だ。

 最初は正直な所吹っかけられた為別の者に頼もうかとも思ったが、ここは損することになってもつなぎを作っておくことで後々利があると考えた為だ。

 例えば先ほどの様に上方の情報も教えてくれることもあろう」

上方の情報はこれから重要になってくるだろうから今のうちに色々なところとつなぎを作っておいた方がいいだろうしな。

「そして最後に種子島だがこちらはまだ伝えることは出来ん」

「それは何故でございましょうか?」

「今理由を伝えたところで平太郎は納得はしないであろう。

 だが近いうちに私の考えが分かる時が必ず来る。それまでは教えるつもりはない」

この時代の刀や槍、弓を使う武士にこれから鉄砲が主武器になると言ったところで、誰も使っていない武器が重要になると伝えても納得することなど無いだろうしな。

「そのお顔を見るに教えてはくださらなそうですね。

 わかりました。ではその時が来るまで待つことにいたします」

「すまんな平太郎。

 それよりそろそろ御爺様達がお戻りになるころであろう?

 夕餉と出迎えの準備をしておいてくれ」

さていい加減自由に出歩けるように帝への挨拶を済ませたいものだな…


天文21年(1552年) 山城国慧日山東福寺

蘆名 遠江守盛舜


「御爺様お帰りなさいませ」

上方の公卿の方達との挨拶回りが終わって帰ってみれば、部屋で休んでいたはずの孫が出迎えに出てきてくれた。

今朝は上京と慣れぬ挨拶回りで疲れたと、顔色が悪かったがもう良さそうだの。

それにしてもわざわざ出迎えてくれるとは本当に可愛い孫よ。

「お疲れでございましょう?

 夕餉の準備をさせておりますのでお話は食べ終わってからにいたしましょう」

つもる話もあるがまぁ一息ついてからでもよかろう。


夕餉を食べ四郎丸の小姓が用意してくれた蕎麦茶で一心地着いた。

公卿の方との茶の湯も悪くはないが肩ひじを張らずに飲む茶もほっとするわ。

「それで此度はいかがでございましたか?」

「まぁいつもと変わらんな。方々の生活は苦しい様で蘆名家に援助を申し込んできておる。

 だが儂もすでに隠居の身だ。話は通しておくが判断するのは息子だと言っておいた」

儂としても出来る事なら援助をしてはやりたいが、あまり儂があれこれ言ってもあやつもやりづらかろう。それに今は孫と過ごすのが楽しみではあるしな。

「ただ此度は関白殿下からお話があり帝への拝謁が叶うことにあいなった。

 その際だが弾正少弼殿とは別での拝謁となる為、儂と四郎丸二人での拝謁となるそうじゃ」

「ようやっとにございますか…では御所へと参内する準備をしなければなりませんな」

ようやっとか…確かにそうではあるが、もう少し言い方を考えねば公卿の方たちのご不快をかってしまうことになりかねんな。後で注意しておくか。

それにしてもこの歳で帝への拝謁が叶ったことは誠に感慨深いものがあるものだ。

それとゆうのも孫と弾正少弼のおかげだな…

特に此度の同道をゆるしてくれた弾正少弼殿には感謝しかないな…

「そういえば蘆名家の上方での評判についてあるものから聞き及んだのですが、御爺様の方では何かございますでしょうか?」

「そうだな…昨今の献金や四郎丸が兵たちに命じた御所の修繕等で、帝へのおぼえは良いと関白殿下は申しておったがそれがどうかしたのか?」

「いえ境の商人と接する機会があったのでございますが、大層評判が良いとのことでありましたので、それによって今後どの様に上方の方と接していくか考えていたのでございます」

堺の商人か…

四郎丸は交易に随分と熱心だからな。そこからのつながりというわけか。

しかし今後の付き合い方か…今や畿内は三好家が掌握していると言っても過言ではない。

公方様もそれによって朽木に逃れておるようだしな…

「それは三好家ともつながる必要があるとの事か?」

「まだわかりませぬ。なにせ私は公方様とも三好殿とも会ったこともないのですから。

 ただ今後の状勢によっては考えておかねばならぬと思った次第にです」

ふむ。儂としては公方様に御味方したいところではあるが、現状は難しいところだろう。

なにせ畿内と陸奥では距離が離れすぎておるからな。

「一先ずは帝への拝謁し、そこから公方様にあってから判断いたしましょう」

そうだな…まずは帝への拝謁を無事に終わらせるのを考えねばな。

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