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天文21年(1552年)越後国頸城郡春日山城
蘆名 四郎丸
俺は今、長尾家の上洛に同行する為春日山城に来ている。
今回俺には御爺様と富田美作守、蘆名家の御用商人簗田藤左ヱ門が同行している。
他に一応俺の護衛として、俺が右衛門大夫に頼み独自に集めて鍛えていた兵500人と小姓達がいる。
さすがに兵を連れてこないという選択はなかったが、500人は多すぎたか?
だが父上も右衛門大夫も出来るだけ連れていけとうるさかったからなぁ…
まぁ戦をしに来たわけではないし別にかまわないか。
それより御爺様達と一緒に弾正少弼殿に挨拶をしに行かなければな。
「まずは越後守護に任ぜられたことおめでとう存じます。
また此度は上洛に同行をさせていただきありがとう存じまする」
「四郎丸久しぶりに会うのだ、そのように気をつかわずとも良い。
それに此度は儂から誘ったのだから礼も不要だ」
弾正少弼殿は相変わらず目つきはきついが雰囲気は嬉しそうだな。
常日頃から文や贈り物をしたかいもあったな。
「四郎丸親交を深めあうのも良いがそろそろ儂らも紹介してくれるかのぅ」
そういえばまだ御爺様達を紹介してなかったな。
「弾正少弼殿紹介が遅れましたが、私の隣にいますのが我が祖父蘆名遠江守でございます。
それと後ろに控えますのが上方への献金などの外交を担っている富田美作守にございまする」
「四郎丸の祖父蘆名遠江守盛舜にございます。
此度は孫の付添いにこの老骨の同行を許していただき誠にかたじけない…」
御爺様達が弾正少弼殿に頭を下げられたので俺と美作守も同じく頭を下げた。
「遠江守殿頭を上げられよ。四郎丸も遠江守殿が一緒なれば心強いというものよ。
それに遠江守殿は朝廷や幕府と通交をされていたのだから、
こちらとしても頼る部分はあるかもしれん。その時は御頼み申す」
「この老骨に出来る事であれば喜んでお力を貸しましょう」
御爺様達の紹介も一通り済んだことだし、そろそろ上洛の行軍予定を聞かなければな。
「弾正少弼殿お聞きしておきたいのですが、此度の上洛はどのぐらいの期間を予定しているのですか?」
「一応帰りも含めて2月ほどを予定している。
それ以上になると雪が降ってしまい、年を越さねば帰れぬからな」
雪か…確かにそうだな。だが2月となるとどれくらい堺にいられるだろうか?
2月とはいっても移動だけで1月近くはかかるだろうしな…
弾正少弼殿や御爺様の目的は帝や公方様への拝謁だろうが俺は違う。
せっかく境に行ける機会ができたのだから種子島を手に入れておきたい。
まぁ手に入れたところですぐにどうこうできる訳もないが…
やはりこうなってくると簗田を連れてきたのは間違いではなかったな。
むこうへ着いたら簗田にはすぐに境に行ってもらおうか。
「何か考えているようだが、何かあるのか?」
いかん!自分の思考に沈んでしまっていた。御爺様と弾正少弼殿がこちらを見て笑っておられる…
「申し訳ありませぬ。京に着いてからの事を考えておりました。」
「ほう。そこまで深く考えるくらいに楽しみにしているのか。
だがまずは朝廷と公方様にご挨拶するのが先になる。そこは忘れてはならんぞ。
まぁ方々はお忙しい御身だ。待っている間は好きにすれば良かろう」
御爺様がフォローしてくれて助かった。
今度から深く考える時は一人のときにしよう…
天文21年(1552年) 山城国慧日山東福寺
蘆名 四郎丸
京に着き数日が経った。
京に来る途中で公方様がおられる朽木谷寄ったが会うことは出来なかった。
なんでもご気分が優れない為との事だ…
そのせいで帰る際に再度挨拶に向かうため、京での滞在日数を少し減らすらしい。
今は帝に拝謁する日まで時間がある為、御爺様と弾正少弼殿が公家の方たちと会われている。
俺はといえば数人の公家の方には挨拶したがさすがに毎日これだと疲れるから、旅の疲れが出たと言って今回の宿場でくつろいでいる。
何せ公家の方たちの話といえばほとんどが金の無心ばかり…
たまに違う話をしたかと思えば和歌などの古典文学の話が主で、俺も御爺様や母上に少しは教えてはもらったが正直ついていけなかった…
しかたがないので俺が連れてきた兵に、御所の修繕を出来るだけしておくよう美作守に命じて、公卿の方々への援助は俺の一存では出来ないので御爺様に一任をしておいた。
「四郎丸様お茶をお持ちいたしました。それと簗田が戻ってきたようです」
「もう戻ったのか?わかった。平太郎ここへ簗田を連れてきてくれ。それとお茶も頼む」
「仮病を使い公卿の方々とのお話し合いを欠席されたのによろしいのですか?」
昨年に元服して以来、表立っての苦言は減ってはきたが…
二人だけになると遠慮がないのは相変わらずだな。
お前だって疲れると言っていたであろうに…俺は顔をしかめて平太郎を見た。
「…わかりました。すぐにお連れいらします」
「ああ、たのむ」
それにしても簗田の戻りが思ったよりも早いな…
数日で話がまとまるような事でもないし何かあったのだろうか?
とりあえず簗田の話を聞いてみなければわからんな。
「四郎丸様ただ今戻りました」
「ああわざわざすまなかったな。しかし思っていたよりも随分と早いが何かあったのか?」
簗田はいつもと同じ表情のようだし悪い話ではなさそうだな。
「はい。四郎丸様の命により境に赴いたのですが、その際に会合衆の方と話す機会に恵まれ此度の話をしたところ承っても良いといわれました」
会合衆は境をまとめる者たちだったか?という事は種子島が手に入るという事か
「ただその方が四郎丸様にお会いしたいと申しまして…」
俺に会いたい?別に簗田との話でまとめてもよさそうだが…
「会うのはかまわんがすぐには無理だぞ。今は公卿の方たちとの挨拶がある故、境に向かうことは出来んのでな」
平太郎がこちらを呆れるように見ている。
わかっている。明日からはたぶん向かうからそのような顔で見るなよ…
「いえ…京まで一緒にお越しになられたのでお暇なときにお会いしたいようです」
えっ⁉まさか来ているとは思わなかった。
しかし来ているならば直ぐに会わなければならないだろうな…
「わかった、会うとしよう。簗田は相手の都合の良い日を聞いて来てくれ。
それはそうとその者の名はなんというのだ?」
「堺の納屋、今井宗久殿にございます」
意外な人物が来たな。これは気を引き締めないといい様にやられそうだ…
今回誤字の指摘をしてくれた方、ありがとうございます。助かりました。
こちらも気づいた時は都度修正していきます。
また何かありましたら御意見、感想お待ちしておりますので皆様よろしくお願いいたします。
※作者コミュ障の為、感想への返信はしない場合がありますが、見てはいますのでそちらはご了承ください。