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天鏡記  作者: 藤桜
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天文21年(1552年) 陸奥国会津郡黒川城

蘆名 四郎丸


昨年は伊達家への挨拶以外は俺は領内の発展に従事していた。

その間も父上は田村を攻めようと兵を出したりもしていたが結局は小競り合いに収まっていた。

理由としてはこちらが兵をあげると必ずと言っていいほど佐竹が横やりを入れてきたらしい。

父上は佐竹を抑えるために北条家との同盟を考えているようだが俺は反対した。

今年の初めに関東管領殿が長尾家に身を寄せる事になった為、長尾家と北条家が敵対する可能性が出てきたためだ。

蘆名家と長尾家は同盟を結んでいる為、長尾家が北条家に敵対した場合やっかいなことになってしまう…

だが父上は田村を攻めることを諦めないだろうしなぁ

今日も呼ばれているしどうするか俺も考えないとな…


「父上前回も言いましたが今北条家と同盟をするのは長尾家が敵に回ることになりますし、交易の面でも納得することはできません」

「それはもうわかった。大和守や右衛門大夫からも反対されている為、強行するつもりはない。

 今回は同盟の件とは別だ。長尾家から書状が届いたのだが近いうちに上洛をするらしい。

 それで弾正少弼殿がお前も一緒に同行しないかと言ってきた」

うん?なんの冗談だ?弾正少弼は長尾景虎殿のことでいいとして…

なんで俺が長尾家の上洛に同行しなければいけないんだよ。

いや京に行くことは興味はあるんだが…

「それはもちろん断るつもりという事でよろしいですか?」

「儂も最初はそう思ったのだが父上がな…」

御爺様がどうしたというのだ?

「お前と一緒に行くと申している」

「それは…さすがに御止めしたのですよね?」

「もちろん止めはしたが…老い先短い者の最後の頼みと言われてしまって儂も止めることは出来なんだ」

御爺様は今の帝に対して敬意をもっておられるからな。

ただ弾正少弼殿や御爺様は俺を巻き込むのはやめてもらいたい。

「父上が行かれるという案は…」

「弾正少弼殿に誘われているのはお前だぞ。儂が行くわけにはいかんだろう…

 それに田村や佐竹の事もある。儂は動けん!

 いい加減諦めて同行してこい。これも良い経験だ」

これは断ることは難しそうだな…

「わかりました。御爺様と一緒に参ります」

「それと今回右衛門大夫は同行できんからな。

 先ほども言ったが田村や佐竹のことがあるので場合によっては後詰を頼まねばならんからな。

 今回は上方への対応をしていた富田に行かせる」

右衛門大夫がついてこないのはつらいな。それにしても富田か…

息子の与平は小姓として仕えているので接点があるが、父親の方とはほとんど話したことが無いんだが大丈夫だろうか?

後で与平に父親の事を聞いてみるとするか…

さてせっかく京に行くのだから折を見て堺に行けないか考えないとな。堺に行くとなれば

「父上お話はわかりました。それならば一つ頼みたいのですが、簗田を共に連れて行ってもよろしゅうございますか?」

「簗田をか?それはかまわんが簗田を連れて行ってなんとする?」

「せっかく上方に向かうのですから折をみて堺にも寄ろうかと。

 堺は商人の町と聞き及んでおりますから簗田がいれば何かと都合が良いかと」

「そうか。わかっているとは思うが問題を起こしたりはするなよ。

 それ以外はお前の好きにせよ」

さて上方に向かうとなれば念入りに準備をしなければならないな。

今回の俺は同行するだけであろうし軽い旅行気分で行くとするか。


天文21年(1552年) 越後国頸城郡春日山城

直江 与兵衛尉実綱


「それで蘆名家は四郎丸を同行させることを了承したのだな?」

「はい。何でも先の当主である遠江守様が上洛に乗り気のようで、共に同行するようにございます」

「そうか。遠江守様がご同行なされるのであれば失礼があってはならんな。

 家臣達にも失礼が無いよう周知しておくようにしてくれ」

「かしこまりました」

御屋形様は此度の上洛で蘆名家の嫡男に会えるのが嬉しいのかいつもより機嫌が良さそうに見える。

先の同盟以来あの小僧と文を交わしているせいか、御屋形様はますますもってあの小僧に心を開いているように感じるな…

だからといって本来他家の嫡男を同行させるなど考えられぬのだが…

蘆名家も蘆名家だ!普通であれば断るであろうに。

今回は御屋形様が越後守護に任ぜられてから初の上洛だ。

不手際があってはならんというのに…御屋形様もこちらの事を少しは考えていただきたいものだ。

「それはそうと憲政様はいかがしておる?」

関東管領上杉憲政様か…

北条家に攻められ此度、長尾家に身を寄せられたわけだが…

「今は大分落ち着かれてはおりますが女中の話によると酒が入ると北条家やそれに味方した者たちへの悪態が止まらぬようにございます」

「そうか…こちらとしても兵は出したいが上洛の準備もある。

 儂が帰ってくるまでは我慢してもらうしかないだろうな」

「北条の勢いは凄まじい様ですが何も手をうたなくてよろしいのでしょうか?」

「上野には名将と名高い長野業正殿がおられるが万が一という事もあるか…

 ならば北条が攻めよせてきた場合は揚北衆に出てもらうとするか」

確かに今回の上洛に揚北衆は同行しないが、あの者たちを信用してもいい者だろうか?

先の上田衆といいまだまだ領内には不穏の種があるというのに…

「…そう心配するな実綱。あの者たちとて下手に動いたりはしないであろう。

 仮に事を起こすようならば儂自ら事にあたり成敗いたす」

御屋形様がそう仰るのであれば儂からこれ以上言うこともあるまい。

「かしこまりました。ですが念のため伏齅を忍ばせておきます。よろしいですか?」

「ああ任せる」


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