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天鏡記  作者: 藤桜
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天文19年(1550年) 陸奥国会津郡黒川城

蘆名 四郎丸


「父上ご無事の御戻り恐悦至極に存じます」

「ああ今帰った…」

父上が田村攻めより帰ってきたが少し怒気を放っている…

怒るのも無理はないか。

右衛門大夫から聞いた話だが三春城まで落とす準備をしっかりしたうえで出陣したのにもかかわらず、佐竹や相馬の援軍のせいで思うように進まなかったらしい。

おまけに途中で伊達家も仲裁に出てきてそこで戦を打ち切ってきたとのことだ。

「父上、此度の戦口惜しいとは思いますが

 安積郡の大部分を取れただけでも良しとするしかないでしょう」

「わかっておる!相馬だけなら何とかなったものを佐竹まで出てこられてはしょうがあるまい!」

いかんな。余計なことを言ったらこちらに怒りが飛び火しそうだ…

なにか別の話でもして気を紛らわせるか?

「それはそうと仲裁に来た伊達家の中野常陸介殿より話があったが、左京大夫殿がお前に一度会いたいと申し出があった。お千の方にも息子と一緒に里帰りをしてはどうかなどとも申しておったがいかがする?」

伊達の当主が俺に会いたい?目的はなんだ?

正直な所行きたくはないな。長尾家に行った時も気疲れしたし他にやる事もあるしなぁ…

「一応聞きますがそのお話は断ることはできるのですか?」

「難しいな。伊達家とは同盟もしているうえに相互の関係性もあるからな」

「わかりました。では準備が出来次第母上と向かいたいと思います」

さて出発前にいろいろと指示を出しておかないと。

後は手土産を準備するのと誰を連れていくか考えないとな。


天文20年(1551年) 出羽国置賜郡

猪苗代 平太郎


「母上伊達領に入りましたのであと二刻ほどで米沢に着くと思われますがお疲れではありませぬか?」

「大丈夫ですよ。私よりも四郎丸の方が疲れたのではないのですか?

 そなたはまだ幼いのですから無理はいけませぬよ。」

「わかっております。ですが最近は領内を回っているので随分と体力もつきましたので心配無用です」

四郎丸様と御方様が互いに気を使いあっておられる。

私は今四郎丸様の小姓として伊達家に挨拶に行くのに同行している。

他にも小姓はいるのだが、今回同行しているのは私一人だ。

その為、四郎丸様のお世話も基本的には私がしなければならない。

何故私一人なのか聞いてみたところ

「平太郎はしっかりしているうえに私に遠慮なく物を言ってくるので気を使う必要もないし、他の元服している者たちには別で頼みごとをしているのでな。

 まぁ右衛門大夫もついてくるから心配する必要はないぞ」

これを聞いた時は唖然としてしまった。

そんなことで同行する小姓の人数を減らすなんて本当に困った主だ。

そんなこんなで道中私は苦労させられたわけだ。

「平太郎、悪いが右衛門大夫に少し休憩を入れたいと伝えてきてくれ」

「まもなく米沢に着きますのによろしいのですか?」

「かまわない。今回は正月の挨拶も兼ねてはいるがそこまで急ぐ必要もあるまい」

「…わかりました」

また始まったか。御方様のことを思ってではあろうが急に言われてはこちらの予定もくるってしまう。

さて小姓が私しかいない今、私が行くわけにもいかないだろうな…

近くにいる護衛の方に頼むとするか。

はぁ…これでまた右衛門大夫様に四郎丸様を抑えろと言われるのだろうな。

困ったものだ。右衛門大夫様が抑えられないのに私に抑えられるはずがないであろうに…

領地に残った他の小姓達たちと変わりたいぐらいだ。

いかん。また溜息がでそうだ…  


天文20年(1551年) 出羽国置賜郡米沢城

伊達 晴宗


「次郎久しぶりですね息災なようで何よりです」

「姉上、次郎はよしてください。某は構いませぬが家臣に示しがつきませんので」

「まぁ!これは失礼いたしましたね。次からは気をつけますよ」

まったく姉上のこういうところは昔から苦手だな…

「母上仲良く話しているところ申し訳ありませぬが、そろそろ私が挨拶してもよろしゅうございますか?」

姉上の後ろに控えていた子供が声を発した。

「叔父上お初に御目にかかります。蘆名修理大夫が嫡男蘆名四郎丸と申します。

 以後よろしくお願いいたしまする」

なりは小さいが随分としっかりとした子供だな。

息子の彦太郎と比べても落ち着きがありすぎるな。

「儂が伊達家当主伊達左京大夫晴宗である。

 それにしても丁寧な挨拶なことだな。姉上や修理大夫殿が良く教育しているようだな」

姉上に顔を向けてみると姉上はどこか何とも言えないような顔をしていた。

いったいどうしたのだろうか?

「違うのですよ次郎…

 この子は今よりも幼い時から誰に教えられるのでもなく大人のような話し方をしているのですよ。

 皆からは神童だなどとも呼ばれていましたね」

なんの冗談だ?そのようなことあるはずもないではないか。

また姉上にからかわれたのかとも思ったが、姉上の様子を見ても冗談を言っているようには見えんし…

「母上さすがにその様なことを仰っても叔父上が困惑してしまいます。

 それに今の私があるのは母上や右衛門大夫達にいろいろ教えてもらった賜物でございますよ」

四郎丸は笑顔で話しているが、これはどう判断すればいいのだろうか?

「叔父上今の話はあまり気になさいますな。

 それより此度は正月の挨拶もかねさせておりますので、少量ではございますが手土産を持参いたしました。 領内で作っている澄酒と石鹸にございます。よろしければお納めください」

最近話題に出ている澄酒か。儂も飲んだことがあるがあれは旨い。

普段飲んでいる酒とは違い香りも良い為、一度飲めば前の酒が少し物足りなく感じてしまうほどだ。

それに石鹸とは…こちらも貴重な物だな。

蘆名家が最近潤っているとは噂で聞いてはいたが本当のようだな。

「これはかじけない。気を使わせてしまったようだな」

「いえ叔父上に会うのに手土産の一つもなければ失礼かと思い用意したにすぎませぬ。

 さて叔父上への挨拶も済みましたし、母上とも積もる話もあるでしょうから私は下がることに致しましょう。」

「そうだな、息子の総次郎は年も近いし一緒に遊んでいるとよかろう」

もう少し話をしてみたいとも思うがこの様子だと姉上からの方がいろいろと聞き出せそうだな。

「ありがとう存じます。それでは失礼いたしまする」

一応誰かつけて見させておくとするか…


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