1-14
天文19年(1550年) 陸奥国会津郡黒川城
蘆名 四郎丸
長尾家との同盟から約1年が経過したわけだが効果は上々だった。
黒川城下は直江津の港を通してくる人や物で溢れんばかりの賑わいを見せ始めていた。
ただ人が増えるという事は問題も発生する訳で細かい諍い等が増えていた…
まぁ予想は出来ていたので前々から提案していた常備兵を、
警備見回りとして配置し対応をさせることにより問題の軽減化は出来ていた。
この常備兵は右衛門大夫に人を集めてもらい鍛えてもらっているので、いずれは蘆名家の精兵として働いてくれることだろう。
「四郎丸様、殿がお呼びにございます」
「今日は平太郎だったな。わかった。すぐに行くとしよか」
蘆名家の重臣の家から俺の小姓を5人選んだわけだが、
常に5人もそばにいる必要はないので日によって出仕してもらっている。
平太郎は猪苗代家の嫡男なわけだがまさか嫡男を小姓として出してくるとは思わなかった…
「平太郎仕事には慣れたか?」
「そうですね…慣れたといえば慣れたのでしょう。
なにせ使える主君がいきなり無理難題を仰ったり行動をされるのですから。右衛門大夫様も慣れるしかないと仰せでしたし。
そこは小姓集はすでに諦めておりますな」
最近こいつは右衛門大夫に似てきたせいか俺に対して遠慮がなくなってきたな。
まぁこのぐらいの方が俺も楽なのはたしかだが
「それはすまぬと思うがこれからも変わるつもりはないからあきらめてくれ。
それで父上の要件はなんであろうか?」
「私は聞いておりませんがおそらくは近々行う予定の戦の話ではありませぬか」
そういえば田村家との戦は準備はしていたが小競り合いで終わっていたな。
しかし戦の話で俺が呼ばれるとは思えんな。
他だと御爺様から譲り受けた領地の話だろうか?
しかしあそこもまだ大々的にことは起こしていないはずだがどこかでばれたか?
直接父上に聞けばいいのだからこれ以上考えても仕方ないか。
「父上お呼びにより参りましたが此度は何ようでしょうか?」
「来たか。とりあえずここに座れ」
父上の様子を見るに怒られる雰囲気ではなさそうだな…
「先日上方と長尾家より使者が参ってな、越後守護の玄清殿が亡くなりその後継に長尾殿がつかれることになった。長尾家とは同盟もしておるし何かあるとは思えぬが儂はこれから田村を攻めるため出陣しなければならない。その間城や領内の事はお前と父上に任せることになる。それもあり長尾家の動向に注視しておくように言おうと思ったのだ」
なるほど。確かに長尾家がこちらを攻めることはないだろうが気にはかけておいた方がいいだろうな。
「わかりました。私から長尾殿にお祝いの書状を出しておきましょう。父上がこちらを気にせずご存分にお励みいただけるよう私も励んでいきます。」
「よろしく頼むぞ。ところで右衛門大夫から聞いたが何やら貸し与えた領地でやっているらしいのぅ?」
ん?右衛門大夫から聞いたという事は…これは全部筒抜けか?
「別に怒られるようなことはしていないと思いますが…
しいていえば常備兵を雇い自分専属の黒鍬衆を作った事でしょうか?
それとも馬を増やしていることか?しかしあれはまだそこまで増えてはいないし。
あとは何があったか…」
「待て待て!右衛門大夫から聞いたと言えばぼろを出すと思ったがやはりいろいろしておったか。
それにしても常備兵に馬だと!他にも何かしておるようだがそれだけの銭をどこから出したのだ?」
しまった!諮られたか。
思えば右衛門大夫や御爺様には口止めしていたのだから漏れるはずもなかったか…
「銭は父上が与えてくれた物と新たに出来た産物を簗田に売って得ております」
「儂が与えた分は大した量ではなかったはずだが?その新しくできた産物とやらは随分稼げるらしいな」
「簗田と大和守に任せているのでどのぐらい稼げているのかはわかりませんね」
正直この時代の物価はまだよくわかっていない。
なにせ場所によって物の値段がかなり違ってくる。
最近になって簗田や大和守に教えてもらいながら少し把握してきたばかりのところだ。
「それでいったい何を作っているのだ?」
「最近できたのだと石鹸と蕎麦の実から作るお茶ですね。ただ石鹸は油を使うのであまり多くは出来ませぬし、蕎麦茶も麦湯と似たようなものですからどちらもこれからといったところでしょうか」
「そうか。なら成果がでたら知らせる事と何かする時は儂にも知らせるように」
「わかりました」
右衛門大夫と簗田に知らせるように指示しておくとするか。
天文19年(1550年) 越後国頸城郡春日山城
直江 与兵衛尉実綱
「殿”此度の越後守護就任恐悦至極に存じます」
「目出度いことではあるが喜んでばかりもいられん。
此度の事でまた家中から不満をもつものが出てくることもあろうからな」
確かにその通りではある。
そこは伏齅を使って調べてもいるから何か起きてもすぐに対応できるだろうが…
「それういえば蘆名家の嫡男から祝いの書状と澄酒、他に馬が送られてきたがその後どうしておるのだ?
おぬしの事だ、おそらく調べておるのであろう?」
蘆名の小僧か…正直報告するようなことは無いのだが
どうやら殿はあの小僧を気に入っているらしいな。ご自分でも文のやり取りをしているだろうに。
「そうですね。最近では常備兵を雇い土木作業をさせているようですようです。他には商人を使い領内で作ったものを売り、馬を生産などをしておりますな。おそらく送られてきた馬もそれではないかと」
「ほう。なかなかおもしろいことをしているな。
常備兵を雇ったり馬を増やしたりしているとなると蘆名家は大分潤っておるようだな」
確かにその通りだ。伏齅からの知らせでも蘆名家の城下は人と物で溢れているらしい。
だが直江津と会津に行き来するもので我が領内も潤ってもいる。
あの同盟でここまでの利が得られるとは思いもしなかった。
ただあの小僧のおかげだとすると少々思うところはあるが…
「これからも何かあれば知らせてくれ」
「かしこまりました」
「それと越後の内情が落ち着き次第公方様にお礼申し上げるために上洛をしようと思う」
「わかりました。そちらは某の方で準備しておきましょう」
「頼んだ」