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天鏡記  作者: 藤桜
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天文18年(1549年) 陸奥国会津郡黒川城

蘆名 四郎丸


春日山と直江津での交渉も終わり数日ぶりに黒川城に帰ってくることができた。

正直無事に帰ってこれてほっとしている自分がいる。

口では皆になにもあるはずがないと言っていたがこの時代何が起こるか予想は出来ない。

疲れがでたのか帰ってきて数日寝込むはめにもなった…

本来なら帰ってすぐに父上に交渉の事について報告に上がらなければならなかったが、俺の疲れを察してくれたのか俺からの報告は後日改めて話し合いの場を設けることになった。

代わりに右衛門大夫が父上に報告してくれているはずだ。


「父上”四郎丸でございます。入ってもよろしゅうございますか?」

「かまわぬ。入ってまいれ」

父上に許可をもらい部屋に入るとすでに右衛門大夫と大和守、あともう一人父の下座に座っていた。

今日は俺からの報告と今後の動きを決める話し合いをする為に集まった。

「大分顔色も良くなったようじゃのう。帰ってきたときは心配はしたが、しかしああいうところを見るとやはりまだ幼いのだとあらためて実感するものだな」

「ご心配をおかけして申し訳ありません。体調には気をつけていたのですが少々甘く見ておりました」

「大事無いなら良い。報告も右衛門大夫から聞き及んでいるのでな。さて話しを始める前に四郎丸に紹介しておこう。我が蘆名家の御用商人をしておる簗田藤左ヱ門(やなだとうざえもん)だ!儂からも話は通しているが藤左ヱ門がお前からも話が聞きたいようでな、この場に呼んだというわけだ」

なるほど。誰かと思ったらうちの御用商人か。

「四郎丸様お初に御目にかかります、簗田藤左ヱ門(やなだとうざえもん)でございます。殿からお話をお聞きしておりましたが随分と面白いことを考えなさるとか。ぜひお話をお聞きしたいと思い参った次第にございます」

面白いこと?そんなことあっただろうか?

「四郎丸様はわかっておられないようなのでご説明いたしますが、普通の武家の方は関銭や座の廃止など考えたりは致しませぬ。どちらも重要な収入源でございますれば。私が知る限り同じようなことをしているのは相模の北条家ぐらいでしょうか?かの北条早雲殿も座の廃止をしておられますし。」

えっ?そうなの?

俺が知っている知識だと楽市楽座をやったのは織田信長だからそれよりも前にやっている人物がいたなんてビックリした。

「驚いておられるところを見るにこの話はご存じなかったようですな。

 そうなるとどうやってこの考えにいたったのか興味はありますが…」

どうするか…俺が転生して知っているなどいえるはずもないし、だからと言って正直に話しても信じてくれるはずもないしな。まぁ右衛門大夫は信じてくれはしたが…

「簗田そのへんで良いだろう。儂も興味はあるが今は今後の話を先にするとしよう」

「さようですね。私としましても先に商売の話をしたいところですし、儲けられると分かっているのに余計なことでご不快をかいたくはありませんからな」

父上が助舟をだしてくれて助かった。しかしこれからのことを考えると簗田との付き合い方を考えなければいけないな。まぁ商人は自分に利益があるうちはこちらを裏切るようなことはしないだろうから大丈夫だとは思うが…

「では右衛門大夫から聞いているとは思いますが、まずは先の交渉の確認からいたしましょうか」

俺は交渉でのことを父上に報告しはじめた。


「ふむ。右衛門大夫から聞いた話と差異はないの。それでこれからどうするのだ?」

「そうですね…取りあえず交易については簗田に任せようかと。長尾家の蔵田殿にもこちらから伝えますのでうまくやっていただければと思います。かわりに大和守と私は澄酒以外の領内の産物を増やす事を考えていこうかと思っています。そのうえで父上にお願いがあるのですが、領内の土地を私にお貸しいただきたいのですが」

「土地を貸すのは問題ないがあまり多くはやれんぞ。それでも良いか?」

「かまいませぬ。ただ出来れば山と平地の両方がある土地をお願いします。」

今迄は右衛門大夫達の土地でいろいろと試していたが、これで自分の土地で試すことができるな。

「わかった。後でお前に貸し出す土地を伝えるとする。

 それはそうと右衛門大夫はどうすのだ?何か他に頼むのか?」

「はい。右衛門大夫には先日話した小姓の人選と育成、他に人集めをお願いしたいのです。ただ小姓の人選は父上とも話し合いたいと思いますが…」

「ほう。小姓をつける気になったか。して誰を選ぶつもりだ?」

「猪苗代家、松本家それと穴沢家からと考えております。」

猪苗代家と松本家と聞いて父上が顔をしかめられた。

まぁ当然か。なにせこの二家は謀反を起こしたことのある家だ。

普通なら嫡男の小姓にしようとは思わないだろう。

だが若いうちから忠誠心を植え付ける意味では小姓にするのは悪い手ではないはずだ。

それと穴沢家。俺が知っている穴沢俊光という武将がいるはずの家だ。

こちらも今の内から抱え込んでおきたい。

「お前の顔を見るに何かしら考えがあるのだろう。しかし他に富田家と平田家からも小姓につけることとする。良いな」

「かしこまりました」

「では話し合いはここまでとする。皆下がるように」

さて話し合いも終わったことだし右衛門大夫と大和守にこれからやる事を話しておかなければな。


天文18年(1549年) 陸奥国耶麻郡猪苗代

金上 右衛門大夫盛備


「右衛門大夫帰ってきていたのか。四郎丸は元気にしておるか?」

「はっ!帰ってきて少し体調を崩されましたが今は元気にしております」

「そうかあまり無理をしないように見ておいてくれ」

今日は四郎丸様の命によりご先代様の所へ来ている。

「して今回は何ようで参ったのだ?」

「この度四郎丸様に小姓をつけることになりまして、その人選ですが猪苗代家と松本家も加えると四郎丸様が仰ったのでございます。ですので四郎丸様がご先代様に二家対してご助力いただけぬかと仰せにございます」

「そうか。可愛い孫の為だ協力するのは問題ない。ただそれなら四郎丸本人が参ってもよさそうなものだが、それだけ忙しいというところかの…」

ご先代様が気落ちなされている。

だが四郎丸様は大和守殿や簗田と新しい産物を作るために領内を回ったりしている為今は忙しい。

また後日顔を見せに来るように進言しておくか。

「して四郎丸は今は何をしておるのだ?」

「四郎丸様は新しい産物を作るために大和守殿と領内を回っております。殿より土地を借り受けることもされていましたから既に何かしら考えがあると思いますが」

「確かに土地を所望したという事は何か考えているのだろうな。せっかくじゃから儂の土地を四郎丸に預けてみようかのう」

ご先代様は随分と四郎丸様をかっておられるようだな。

いやただただ孫に甘いだけかもしれぬが、

それで四郎丸様に助力いただけるのであれば問題はないだろうな。

「それにしても右衛門大夫は随分と四郎丸にこき使われておるようだな」

それは私もそう思う。

四郎丸様に信頼されていると思えば良いかもしれんが、たまにはゆっくりしたいものだな。

私はご先代様に対して苦笑するしかなかった。

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