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天鏡記  作者: 藤桜
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天文18年(1549年) 越後国頸城郡春日山城

蘆名 四郎丸


広間での交渉が上首尾に終わり退室しようとしたところで、

長尾景虎の提案で別室で話し合いをすることになった。

同行者はあちらが直江実綱、こちらが金上右衛門大夫と2対2での話し合いだ。

おそらく先ほどの話の深堀でもするのだろうと俺は思っていたのだが、話し合いをするといった本人は手土産に渡した酒を普通に飲んでいる。

酒を飲んでいて大事な話が出来るのか?

それても俺の考え過ぎで世間話程度のことなのだろうか?

「してわざわざ別室での話し合いとは、あの場では話せぬことでしょうか?」

「いやそんなことはない。本来ならさしで話したかったのだがお互いそういうわけにもいかんのでな」

うん。考え過ぎだった。というかさしでなんて絶対に話したくない。

この人顔はイケメンなのに目つきが鋭すぎて目をあわせるのが怖すぎる…

どうやら怒っているというわけではなくこれが素のようだが、それでも目を直視は出来ないな。

「それにしても四郎丸殿は若いわりに随分と弁がたつようだな。与兵衛尉も随分としてやられたようだしな。それもあって話すのを楽しみにしていた。」

「そのように言っていただけて嬉しく思いますが、私としましてはそこまで弁がたつとは思いませぬ。

 直江様の時はこちらが意表をついただけの事ゆえ、本来であればこちらが丸め込まれたことでしょう」

直江様は「そのように謙遜されずとも」と笑いながら言ってきたが、

謙遜ではないのだからしょうがない。

実際あの場で必要以上に話した場合なにかしら情報が漏れた事だろう。

交渉が得意など思ったことはないし、出来れば得意な人に任せてしまいたいぐらいだ。

今回は来た方が詳しい話が出来るうえに直江津の港に来たかったからだしな。

「このやり取りだけでも四郎丸殿が弁がたつと思うものは多いだろう。

 しかしこれ以上は四郎丸殿も居た堪れないだろう。話を変えるするとするか。

 四郎丸殿は何か興味が惹くものはあるかな?私は兵法が好きだが」

兵法かぁ…さすがは軍神というべきか

「そうですね…私も兵法を学ぶことには興味がありますが、今は国を富ませる事ですかね。

 領内が富んでいく様はなかなかに楽しいですね。」

「ふむ、今回の同盟も両国の発展の為だったな。

 それで幼いにも係わらずここまで来るのだから大したものだ。

 そうだな…せっかくだからこちらの御用商人とも顔みしりになっておいた方がよかろう。

 先に先触れを出しておくので後で会ってみてはどうかな?」

越後の商人と知り合いたいと思ってはいたのでこれは渡りに船だな!

ここはありがたく了承しておこうか。

「こちらとしてもぜひとも会っておきたいので、そのお話ありがたく受けさせていただきまする」

そこからしばらくは兵法について話をした。

途中で直江殿や右衛門大夫も意見を出し4人で話したが、戦の経験の無い俺にとって内容は難しかった。

ただ後に軍神と呼ばれる人の戦術を聞けただけで十分為になる経験だった。

その後は長尾殿が途中で退室したので直江殿と関税に関してのすり合わせを行うことにした。

父上や大和守とあらかじめ話し合っていたのでこちらは問題なかったが、直江殿は長尾家の御用商人の蔵田殿の意見も聞きたいと仰せになったので3人で蔵田殿のもとへと行くことにした。


天文18年(1549年) 越後国頸城郡直江津港

直江 与兵衛尉実綱


殿を含めての話し合いは特に問題なく終わることができた。

話を聞いてみて確かに両国に利がある事は分かったが、やはり交易を行う為だけに同盟をするという事がいま一つ納得がいかなかった。

この小僧を見ていると他にも何かしらの思惑があるのではないかと勘ぐってしまう儂がいる…

やはり殿に許可を取りこの小僧を伏齅に見張らせた方が良いかもしれんな。

殿とてそこらへんは考えていることであろうしな。

さてそれはそれとして今は蔵田の意見も聞き関税をどの程度にするか決めねばならんな。


蔵田の屋敷に着いた儂は屋敷の下男に声をかけ蔵田に着いたことを知らせた。

「直江様お持ちしておりました。そちらの御方たちが件の御使者様たちにございますか?」

「そうだ。先触れでも伝え聞いているとは思うが此度蘆名家と同盟を結ぶことに決まった。

 そのうえで両国の交易を活発にするために関税に関して話し合いをすることになったが、儂が蔵田の意見も聞きたいと言ったのでこちらに罷り越した次第だ。」

「そうでしたか。御使者様お初にお目にかかります。

 わたくし越後長尾家につかえまする蔵田五郎左エ門分と申します。以後良しなに願いまする。

「ご丁寧にありがとうございまする。私が蘆名修理大夫が嫡男蘆名四郎丸でございまする。

 此度は御目にかかれて嬉しく思います。」

「こちらこそご丁寧にありがとうございます。

 それでは皆様客間へ案内いたしますのでこちらへお越しください」

挨拶もそこそこに蔵田の案内で客間へと向かいそこで話し合うことになった。

「して今回は交易をするうえでの関税をどうするかとの話し合いですが、蘆名家はどのようにお考えなのかお聞きしてもよりしいですか?」

「関銭は今までと同じでも構いませぬが、こちらが持ち込む荷へかける税や津料を減税していただきたく思います。代わりにこちらは関銭は取りませぬし、長尾領内からの来る荷には税も減税いたしまする。」

減税か。妥当なところではあるが関銭を取らぬとは本当に大丈夫なのだろうか?

「幾分こちらの利が大きいように感じますがよろしいのですか?

 また関銭を取らぬとなれば国土領主達が騒ぎそうですが?」

「大丈夫です。今の所関銭を取らぬようにするのはこちらの右衛門大夫の領地と蘆名家の直轄領のみになりますので。ですので長尾領からの荷物もそこを通るようにしていただきたく思います。それから朝廷や幕府に定期的に献金を行っていきますのでその度に税をかけられますと、どうしてもこちらも苦しくなってしまいますのでそこを考慮しての事でございます。」

なるほど一部の場所だけなら問題も少なく対応も可能か…

また献金は我が長尾家もしていかなければならないから苦慮する部分は分かるな。

「わかりました。ではそこを考慮して税の割合を決めていきましょう」

そこから税の割合やら持ち込む荷と持ち出す荷のどれにどの程度税をかけるか話し合いを始めた。

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