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天文18年(1549年) 越後国山東郡与板城下
蘆名 四郎丸
俺は今長尾家重臣の直江与兵衛尉の居城与板城に立ち寄っている。
何故かというと越後への使者として発ち直江家の領地を通過していた時、
城によってほしいとの伝者が来たためだ。
正直ここまで来て呼び出しをうけるとは思わなかったが
休憩も出来るわけだから俺としてはありがたかった。
なにせ移動に馬を使っているといっても俺の今の体では長時間乗っているが本当につらい…
しかし直江か…
俺が詳しく知っているのは有名な直江兼続のことぐらいだ。
しょうがないので右衛門大夫にどういう人物か聞いてみたら長尾家の内政と外征を一手に引き受けている優秀な人物らしい。
となるとこちらを呼び出した理由もなんとなくだが見えてくる。
おそらくこちらがどんな思惑なのか探るつもりなのだろう…
まったくもってめんどくさい!!ここはちょっとした悪戯でも仕掛けてやろうか…
「右衛門大夫!直江殿との話し相手まずその方がしてくれ!!俺はその方の小姓の振りでもしておる」
「四郎丸様さすがにそれはまずいのでは?」
まぁそれはそうなんだが…
「話し合いを有利に進めるためにも相手の意表をつきたい!
なに春日山にいってからはちゃんとするから心配するな!!」
「はぁ…わかりました。」
右衛門大夫はしぶしぶ納得してくれた。
さて直江与兵衛尉”どのような反応をしてくれるか楽しみだ。
天文18年(1549年) 越後国山東郡与板城
直江 与兵衛尉 実綱
蘆名家の使者が来たというので部屋に通してもらった。
若い男がまずは入ってきた。その後に続いて護衛の者とみられるもが二人、最後に小さい稚児が入ってきたが…あの稚児はなんだろうか?使者の付添いにしてもどうみてもはやすぎるが…
儂が戸惑っていると若い男が「お初にお目にかかります、某”蘆名家家臣金上右衛門大夫にございます!」と頭を下げ挨拶してきた。
疑問はあるがこちらも挨拶せねばなるまい。
「こちらこそお初にござる。某が直江与兵衛尉にございます!以後良しなに。」
さて此度の同盟の件どういう思惑があるのか
殿に御目通りに向かう前に少しでも聞き出しておくとするか。
伏齅に調べさせても田村を攻める準備をしているとの情報しか入ってきていない。
「此度はお役目とはいえ遠路はるばるお越しいただきお疲れでござろう。
本日はこの城でお休みいただき明日春日山へと参りましょう。」
「お気遣いかたじけのうございます」
「それにしても今回の同盟の件いったいどのたの案でござろうか?
正直蘆名家が今こちらと同盟を結ぶ利は少ないと思うが…
どちらかといえば我が主家の上杉様か常陸の佐竹などの方が利は多いと思うのだが」
さてどう返してくるかな?
「同盟の案を提案したの私にございます!」
突然後ろでおとなしく控えていた稚児話しかけてきた。
いやそれよりも待て!今この稚児が出した案だと申さなかったか?
「すみませぬが某の聞き間違いかな?そちらの子供が案を出したと聞こえたのだが?
それと気になっていたのだがそちらの子はいったい…?」
「ご挨拶が遅くなって申し訳ありませぬ。某”蘆名修理大夫が嫡男蘆名四郎丸にございまする!」
なに⁉どういうことだ…なぜ同盟の使者団の中に幼い嫡男がおるのだ?
「右衛門大夫殿これはどういう事かな?
我らは当主の嫡男自ら来るなど聞いておらぬのだが⁉」
「それは私の一存によるところにございます。なにせ当主の嫡男が自ら赴くのですこの機会によからぬことを考えるものもいるかと思い、春日山に着くまではと思い秘してございます。
申し訳ございませぬ。」
儂は右衛門大夫殿に聞いたが代わりに嫡男の方が答えてきた。
その言を聞き納得する部分もあるにはある。
なんといっても長尾家は代替わりしたばかり国内が安定しているとは言い切れぬのだから…
しかしだからといって納得できるものではない。
「お話は分かりましたがそれでもご嫡男の四郎丸殿が来られる理由にはならぬのではないですかな?」
そう普通に考えればこのような幼い嫡男を使者に出すことなどするはずがない。
父親の修理大夫殿は何を考えているのか…
「私が来た理由ですが先ほども申したようにこの同盟の件私の案だからにございますれば。
私自身がきて話した方が説明の手間が省けるかと思いまして。
それと先ほど直江様が仰った蘆名家の利でございますが、同盟の話し合いも含めて春日山の御当主殿に直接お答えしたいのでこの場での発言はご辞退したく思います。」
この小僧先ほどからのらりくらりと…
しかし殿に直接話すと言われてしまえばこちらもしつこく聞くわけにもいかぬし…
まったく思惑を探るつもりで城に呼んだは良いが、思いもよらぬことで出鼻がくじかれてしまったな。
とりあえず春日山に先触れを出しておくとするか…
天文18年(1549年) 越後国山東郡与板城
金上 右衛門大夫
直江殿との話しは終始四郎丸様が主導権を握って終えられた。
まったく四郎丸様にも困ったものだ…
直江殿がいろいろと聞かれても意に介さぬように淡々とかえされるのだから…
少しはこちらのことも考えてほしいものだ。
だが長尾家の重臣がまだ二歳の四郎丸様相手に右往左往している様は正直見ものではあったな。
しかしこれで蘆名家の嫡男が来ていることが知られてしまったな。
いずれ知られることとはいえ、これからは護衛の方も一層引き締めねばならんな!
それにしても四郎丸様はいつもでお笑いになっているのかそろそろ御止めするか…
「四郎丸様そろそろ落ち着かれてはどうですか?
その様に周りに気づかれぬように笑っているのはお体にもよくありませぬよ。」
「すまぬすまぬ!なんとも直江殿が可笑しかったものでな。
それにここで大声で笑うわけにもいかぬだろう?
それにそういう右衛門大夫も顔が笑っているではないか!!」
それはしょうがない。可笑しかったのは事実なのだから。
「さて右衛門大夫よ明日には春日山だ!気を引き締めておけよ!
春日山におるもの皆が皆直江殿のようになるわけではないだろうからな」
その発言を聞きまた少し笑ってしまったが、
明日の為にも護衛の家臣達に気を引き締めるよう言っておくとするか…