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アンダーワールド  作者: そのAaron
第二章 募集試験
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Layer-008

地底15層は、世界で最も法律が欠如しながらも、最も規律が保たれている場所だ。

ブラックマーケットには独自のルールがあり、それを破ることはすなわち地下の全勢力を敵に回すことを意味する。


それもこれも、この市場が三大組織に正当な理由を与え、第15層を一掃されるのを防ぐためだ。


15層の景観は、他の地下都市とさほど変わらない。


低い住宅や高層ビルが立ち並び、ネオンが街を彩っている。


だが、この層には街を行き交う人々の姿がほとんどなく、ロボットさえもまばらだ。

せいぜい、荷物を運ぶために数台が動いている程度。


これほど閑散とした街では、半分死んだ都市と言っても大げさではない。


普通なら、こんな場所に高校生がいるはずもない。

だが、この三人にとっては別の話だった。まるで市場をぶらつくように気軽な様子で、店の店員やロボットに気軽に挨拶をしている。


「それで、どの店?」


「もうすぐ。ほら、ここだよ」


四人は一棟のビルに入り、エレベーターで地下三階へと降りていった。


そこには、パッと見はただの小さな食堂にしか見えない店があった。


「お若いお客さん、今日は何を食べる?」


店員は笑顔で迎え入れ、隣に立つ灰青色のロボットもそれに倣った。


「Order.」


迴が一言だけ発すると、店員の表情が一瞬で引き締まり、ロボットは静かに前に進み出た。


それが、ついてこいという合図だった。


四人と一機は店の奥へと進み、エレベーターに乗って上階へ。


その先にあったのは——


豪華で明るいホールだった。


天井には大きなクリスタルシャンデリアが輝き、周囲にはガラスアートが飾られ、中央には小さな噴水がある。全体的に青色を基調とした高級ホテルのような空間。


場違いなほどの空間の変化に、凌奈は少し緊張感を増した。


ホールの奥には、ミケランジェロの「創世記」が彫られた金属製の扉があり、横にはインターホンとカメラが設置されていた。


迴はカメラの前に立ち、インターホンを押して、一連の暗号のようなフレーズを口にした。


「お届けものですよ。オリーブ一つ、ニンジン二本、ドリアン三つ、ナス四本、ラズベリー五つ」


合言葉を言い終えると、静寂が訪れる。


そして——


目の前の扉に刻まれた金属の装飾が青白く光り、ゆっくりと開いていった。


扉の先には、さらに贅沢な空間が広がっていた。


壁一面のモニター、高級レザーソファ、大理石のカウンター、洗練された家具が並ぶ豪華なスイートルーム。


その中央には、一人の筋肉質な中年男性が、キッチンで何やらスイーツを作っていた。


ドアが開く音を聞くと、彼は手を止め、冷蔵庫からシフォンケーキを取り出して四人に振る舞った。


「おやおや、これはこれは、『冬の大三角』じゃないか!いらっしゃい!今日はどんな用件かな?」


温かく迎える男に対し、迴はすぐに本題へ入った。


「ハイデガーおじさん、三節棍を一本頼みたい。明日には受け取れる?」


「天宮くん、お前の納期は相変わらず非人道性だな。その三節棍は誰が使うんだ?リリコちゃんか?」


「いや、姉さん用だよ。これから『北門連軍』の入隊試験を受けるんだ」


「へぇ~、『冬の大三角』が俺たちのもとを去っちまうのか?」


スイートルームの主——ハイデガー・ヴィールは、わざと悲しげな顔を作ってみせた。


しかし、迴は一瞬の無言でその演技をスルーした。


「相変わらずつまんねーな……。まぁ、いいさ。座って待ってな、サンプルを持ってくる」


ハイデガーは壁に設置された収納スペースを開け、ゴソゴソと探し始める。


四人は言われた通り、テーブルのそばに座った。


凌奈が「ケーキ、食べていいのかな?」と聞こうとした矢先——


リリコはすでにフォークを手にし、一口目を頬張っていた。迴と倫也も、次に狙いを定めたところだった。


「——おっ、見つけた。」


ハイデガーは金属製の外殻にプラズマチューブが埋め込まれた、全長約2メートルの三節棍の試作品を持って戻ってきた。


「ほら、お姉さま。試してみてください。中央の特別な刻印がある部分をしっかり握れば、電流が放出される仕組みです」


ハイデガーはドアを開け、凌奈に広い外のスペースで三節棍の感触を確かめるよう促した。


武器を受け取ると、凌奈は金属製の重みを感じた。しかし、それほど使用に支障が出るほどではない。重量面だけを見ても、この試作品は優れた武器だった。


ずっしりとした三節棍は振り回すことで慣性を生み、空中で円や楕円を描きながら舞う。重量に慣れた後、凌奈はさらに複雑な動きを加え、改良すべき点を探っていく。


「おお、お姉さまもなかなかの腕前ですね。どうして『冬の大三角』に誘わなかったんですか?」


「凌奈姉は真面目な生徒だからね。それに、こんなことやってるのがバレたら、絶対に禁止されるよ。前に正直に話したときの凌奈姉の目、マジで怖かったし」


「うんうん!孤児院のために役立ってなかったら、本当にヤバかったかもね!」


「みんな、よく頑張ってるわね」


その会話を聞きながら、ハイデガーの額にはじわりと冷や汗が滲んでいた。同時に、凌奈は三節棍の試し振りを終えた。


「使い心地はどうですか?」


「……悪くないわね。でも、もう少し重心を両端に寄せたほうがいいかも。それと、両端に電流を集中させる機能があったら便利ね。あと、できれば鎖を簡単に取り外せるようにして、全体的にもう少し軽量化してほしい……って、ちょっと注文が多すぎる?」


「いやいや、大丈夫です!お金さえ出せば何とでもなります!納期を除いては……」


凌奈は弟妹たちに視線を向けた。


「この改造でいくらくらいかかるの?」


「ちょっと待ってくださいね……だいたいこれくらいですね」


ハイデガーはスマホの画面を倫也と時見リリコに向けたが、二人とも特に驚いた様子はなかった。


凌奈もスマホを覗き込むと、画面には三つのプランが表示されていた。

シンプル、中級、高級の三種類で、違いは使用する素材と保証年数。価格はそれぞれ3万、7万、12万ドルだった。


凌奈は思わず眉を寄せた。


「一番安いのでいいわ。そんなにお金使わなくて──」


「10万ドル、振り込み完了」


倫也がスマホを操作し、即座に送金を完了させた。


「お前なぁ!値切りもしないのか!」


「どうせ値切るパターンはいつも同じだし、聞くまでもない」


「くそっ、次は別の方法で値段をつけるか……。他に用がないなら、さっさと帰れ」


がっしりとした体格のハイデガーは、その場にしゃがみ込みながらふてくされる。


「毎度あり!」


試作品を返却し、凌奈の初めてのブラックマーケット体験は、時見リリコがハイデガーに別れを告げる声とともに幕を閉じた。




「おぉ!雪山先輩!!!」


元気いっぱいの二年生、アラム・ルレ・ゾエが全身を使って凌奈に向かって手を振った。


放課後の学校に残っている生徒は、基本的に部活動をしているか、「北門聯軍」戦闘部への入隊を目指して体育館で訓練している者たちだった。


アラムの隣では、二年生の澤守鞠乃と一年生のチャーリー・ザグスが準備運動をしている。

もちろん、一年生の時見リリコも壁際でぼんやりと座っていた。


ただ、倫也は本当に言った通り、訓練には参加していなかった。


「さて、どうやって始めるか決まった?」


「おお!それはもちろんだ!!皆、自分の得意な分野を挙げてみてくれ!そして、前に言った通り、お互いに苦手な部分を教え合おう!!」


アーラムは、黒い肌、深い五官、そして黒い巻き毛を持つ、野球部のメンバーであり、かつて学校を代表して大規模な試合に出場したこともある。彼の身体能力は、当然、どの分野においても非常に優れている。


身長は凌奈とほぼ同じくらいで、腰まで届く深い茶色の髪を持つ鞠乃は、少し特別な出自を持っている。彼女の母親は「北門連軍」の指揮官で、幼少期からその組織の環境で育ち、母親を目標にしてその後を追いかけている。普段は自分の体力訓練で、細身だが引き締まった体型を作り上げるだけでなく、戦争に関する戦略を研究している。鞠乃は、六人の中で唯一「北門連軍」の拠点内部に足を踏み入れたことがある学生でもある。


金色の短髪、西洋風の顔立ちと傲慢な眼差しを持つチャーリーは、その大きな体格を見れば、純粋な力に誇りを持っていることがわかる。彼もまた、地底中学部のトライアスロンで三連覇し、高校部でも優勝した実績を持っている。戦闘部を受ける理由も、科学や機械が得意ではないからだ。


「ふん!それじゃ、雪山先輩と戦わせてもらえますか!!」


「問題ないよ。」


「じゃあ、私は後輩と組むんですね?」


「……」


「じゃあ、時見さんは!!」


突然の叫び声に、リリコはぼーっとした状態から正常なモードに戻った。


「わ、あたしはそばで見てるだけで大丈夫です……」


「そうか!じゃあ、始めますよ!!先輩、よろしくお願いします!!」


言葉が終わると、アーラムはその強靭な体を持って凌奈に向かって突進してきた。


体格の大きな相手に対して、凌奈はまったく緊張せず、すぐに手を伸ばしてアーラムの首を掴み、体を横に動かし、相手の膝の内側に足を踏み込んでアーラムを地面に叩きつけた。


その様子を見ていた鞠乃とチャーリーは、目の前の光景に驚かされていた。


普段学校では優等生の印象を与える凌奈が、まさか格闘技に関するスキルを持っているとは誰も思わなかったのだ。


「なるほど、先輩が戦闘部の試験に申し込んだ勇気も納得だ。」


「ふん。」


地面に倒れたアーラムは、両手で地面を支えながら体を起こし、服についた埃を払い落とした。


「これが技術か!!!すごい!!教えてくれ!!」


「試験の日まであと二週間だよね。だから、関連する概念だけは教えてあげられる。」


凌奈とアーラムは、こうしてお互いに指導し始めた。


一方で、鞠乃とチャーリーは、再びお互いに注意を向けた。


「どうしたの?あんたが積極的に攻撃するタイプだと思ってたけど。」


「じゃあ——」


チャーリーは両腕を広げ、その巨大な体からくる威圧感を持って鞠乃に向かって突進してきた。鞠乃は左に一歩踏み出し、軽く避けた。


巨大な足が力強く地面を踏み、太ももが膝と脛を一緒に動かして、ついにこの巨人の方向転換を成功させた。


健壮的な腕が大きく振られる。その動きには破綻があちこちに見えるが、身長が比較的小さな鞠乃にとって、戦車のような相手のどんな行動も隙間を見せない。


大きな質量が迫ってくる中、鞠乃は防御をしっかりと固めて、なんとかその攻撃を受け止めた。当然、彼女も吹き飛ばされ、護身術を駆使して怪我を免れた。


「おいおい、大丈夫か!!」


「ふぅ、大丈夫よ。後輩、あんたの反応と筋力も意外にいいわね。」


チャーリーはすべてを見下すような目つきで三人を見下ろし、最後に凌奈を見つめた。


「……雪山先輩はどうなんだ?その格闘技のスキル、どれほどの効果があるんだ?」


凌奈はまずチャーリーを上下にじっくり見て、淡々とした口調で答えた。


「役に立つ。でも、時間がかかる。引き分けの戦いになれば、あんたは不利になる。」


「確かに、長期戦は得意じゃないけど——」


「私が言い終わるまで待ちなさい。もし力比べだけなら、リリコと戦わせたほうがいいんじゃない?」


「え?」


リリコは頭を出して、現場の様子を見ようとした。姉が自分に手を振っているのを見て、彼女は立ち上がって四人の元へ歩み寄った。


「何かあたしにできることはありますか?」


「おお!時見さん!!頼む、ザッグスさんと戦ってみてくれ!!!」


リリコは視線を凌奈、アーラム、チャーリーの間で行き来させ、脳内で現在の情報を処理した後、ようやく反応を返した。


「え?だめだと思うけど……」


「時見、調子悪いの?」


「いえ、いえ、ただ…迴が言ってたんだ、もし相手が防具をつけてなかったら私が退くように、倫也に任せろって——」


「冬の大三角」の話をしてしまったことに気づいて、慌てて口を閉ざした。


しかし、この言葉がチャーリーの不満を引き起こした。


「俺のこと、バカにしてんのか?」


「い、いや、違う……」


もちろん、凌奈もリリコの力は知っていたが、彼女がその力を実際に格闘に活かしているのを見たことはなかった。そして、迴がリリコにそのような指示を出すのは、何か負の意味があるのかもしれない。


チャーリーはそんなこと気にするはずもなく、リリコに向かって猛然と突進してきた。


リリコは緊張して左右に目を配り、脳が必死に解決策を探し始めた。その後、迴から教わった一つの解答を思い出した。


少女の拳が高く掲げられ、しっかりと握られている。一見、相手に向かって振り下ろすように見えるが、実際にはそうではない。


その受けるべき対象は体育館の床だった。


チャーリーの腕が振り下ろされる直前、体育館内に一際大きな音が鳴り響き、全員が麻痺したようにその場に釘付けになった。その麻痺感は音の余韻と共に長く続いた。


「間に合った!」


リリコは額の冷や汗を拭い、定まったままのチャーリーはゆっくりと床の状態を確認した。


体育館の地面は、まるで石を投げたガラスのように蜘蛛の巣状のひび割れが広がっていた。その力を受けた中心部には、天井から鉄球を落としたかのように大きな窪みができていた。


「ご、ごめん、力の加減がうまくできなくて、装甲相手にしか攻撃できなかった……」


リリコは恐怖の表情を浮かべて移動してくるチャーリーを見ながら言った。


「それ…あたし、あんまり役に立たなかったかな?」


「ううん、もしかしたら役に立ったかもしれないよ。」


姉からの肯定の言葉を聞いて、リリコは少しほっとした。そして、目線が鞠乃とアーラムの反応に向けられた。


「時見の体育能力は聞いたことがあったけど、まさか……」


「おおお…ワオ…」


アーラムだけでなく、言葉に表せない驚きの声も消えてしまった。ただし、迴が言っていたように、確かに圧倒的な実力を見せつけたことは確かだ。


「あたし…やっぱり倫也と一緒に練習した方がいいかも……」


リリコが体育館を後にした後、チャーリーはようやく四肢を動かし、大きく息を吸い込んで、数秒前の恐怖から立ち直ろうとした。


「もし試験がチーム戦じゃなかったら、俺たちみんな、あいつに淘汰されてたよな。」


忠言は耳に逆らうものの、それが否定できない事実だった。

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