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アンダーワールド  作者: そのAaron
第二章 募集試験
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Layer-007

夕食の時間が終わった。

燈のママに報告を済ませると、四姉弟は「例の倉庫」へと向かった。


倉庫に足を踏み入れた瞬間、凌奈は言葉を失った。


狭い空間の壁には、ありとあらゆる銃器がかけられ、床には大型の電磁装置がずらりと並んでいる。そして、中央には全席投影機まで設置されていた。どれもこれも、高校生三人が買えるような代物ではなかった。


目の前の光景をどうにか理解しようと、凌奈は弟や妹たちに視線を向けた。だが、すでに三人は地面に正座し、頭を深々と下げていた。


「…なんで土下座してるの?」


「本当にごめんなさい!!」


凌奈の目から、すっと光が消えた。見下ろす視線が、容赦なく弟妹たちに突き刺さる。


開口一番に謝罪とは、どうせまたこいつら何かやらかしたに違いない。


――凌奈は、正式に「審問モード」に入った。


カイは観念したように、「冬の大三角」の活動について姉にすべてを打ち明けた。そして、自分が地上の大学に進学すること、リリコと倫也も「北門連軍」の入隊試験に向けて準備中であり、すでに活動を終えることを決めたことも話した。


すべての事情を聞いた凌奈は、ふうっと小さく息を吐いた。


「…なんかおかしいと思ったんだよね。孤児院の資金、どう考えても足りないはずなのに、なんでチンピラどもの要求を払い続けられるのかって。私の記録と計算が合わなかったのは、そういうことだったわけね。」


「はい、本当にすみませんでした。」


「で? これ全部でいくら使ったの?」


迴は少し顔を上げ、凌奈の視線をたどった。その先にあったのは、一丁のプラズマガンだった。


「あれ…依頼人が贈ったの。」


「贈った?」


「…うん。実際にお金を払ったのは、こっちだけ。」


そう言って、迴は跪いたまま両手でノートパソコンとタブレットを差し出した。リリコは拳用のグローブを、倫也は機械の柄を取り出した。


凌奈は、目の前の三人が本当に真実を語っているのか疑い始めた。


――こんなの、他人がタダでくれるわけないでしょ?


迴が適当な言い訳を瞬時に捏造するのは朝飯前だと知っている。でも、こんな雑な嘘をつくとは思えない。


…まあ、ひとまずは信じるしかなさそうね。


ただ、まだ気になることがある。


「さっきの話だけど…その依頼人が、『この依頼は私たちの失われた記憶と関係がある』って言ったんでしょ? それについて何かわかったの?」


「いや、全然。」


凌奈は思わず瞬きをした。


「最後の依頼が終わるまで、何が関係あるのかさっぱりだった。でもね、その最後の依頼の報酬として、依頼人が『特別な贈り物』をくれたんだ。報告書と、報酬をセットで。」


「報告書?」


「そう。内容はよくわからなかったけど、中に一枚の写真が入ってた。」


迴はその報告書を凌奈に転送した。タイトルにはこう書かれている。


『Project_RY』。


それは、依頼でダウンロードしたデータのひとつだった。どうやら「Firefly」が暗号を解除し、「冬の大三角」に再送してきたらしい。


「…へえ、迴でも読めない報告書なんてあるんだ?」


「うん、だってロシア語だし。」


「ロシア語?」


「地下都市じゃ、みんな国際共通語を使うから、翻訳ソフトなんてとっくに必要なくなってるし、誰も開発しようとしない。翻訳ツールは地上にしかないだろうから、読めなくても仕方ないよ。」


凌奈はファイルを開き、表紙に書かれたロシア語のタイトルを目にした。


ごく自然に、その単語を口に出しながら翻訳する。


「…アルビノの研究報告?」


「凌奈姉、今のって呪文?」


凌奈は報告書をめくった。日付は西暦2589年6月13日。研究員の名前や所属機関は記されておらず、内容はアルビノの治療についてだった。


白皮症が未だに治療不可能な理由は、その発症原因のほとんどが遺伝子に由来するためだ。遺伝子レベルの治療は非常にハードルが高い。


報告には、ある白皮症の少女が治療によって視力や皮膚の問題を徐々に克服していく様子が記されていた。彼女は七歳の頃には、日焼け止めも矯正眼鏡も必要とせず、普通の生活を送れるまでになっていた。


その後のページは学術用語や専門的な図表ばかりで、凌奈はそれらを飛ばし、迴が言っていた「写真」を探してページをめくり続けた。


そして、報告の最終章へとたどり着く。


そこには少女の生活習慣が記されていた。学術報告というより、まるで日記のような記録。


そして──写真が添えられていた。


一組の家族。


父親は東洋系の顔立ちに短い茶色の髪。母親は西洋風の美貌を持ち、淡い金色の長髪が重力に従い流れ落ち、光を受けて輝いていた。


その二人の間に立っているのは、アルビノの少女。報告に記載されていた患者だ。


真っ白な長髪、透き通るような肌、そして鮮血のように赤い瞳──。


それは確かに、一般的な白皮症患者に見られる特徴だった。だが、写真を見つめるうちに、凌奈の胸の奥から妙な既視感がこみ上げてくる。


迴がわざわざ報告書を取り上げたということは、彼もこの少女に同じ感覚を覚えたということだ。


──この少女は、幼い頃の自分にそっくりだった。


「……これ、私? でも隣にいるのは……」


自分の姿は分かるのに、写真に写る大人の男女のことを思い出そうとすると、まるで霧がかかったように記憶が曖昧になる。


「えっ!? 本当に凌奈姉!?」


「……これは、面白くなってきたわね。」


迴の言った通りだった。「firefly」は四姉弟のことを知っていて、最後の依頼では「北門連軍」について言及し、さらに凌奈を治療対象とする報告書を送ってきた。


しかも、その「北門連軍」ではまもなく新メンバーの募集試験が行われる。


──これを単なる「偶然」とは呼べない。


「だからさ、もし凌奈姉が本気で戦闘部を目指すなら、俺たちも全力で支援するよ。」


「でも、他の生徒たちとの練習は?」


「もちろん、参加はできる。でも、絶対にこの倉庫のことは口外しないで。『北門連軍』に入る前に、捕まることになるからさ。」


「……分かったわ。リリコ、あなたは他の生徒と一緒に訓練するの?」


「えっ、えっと……倫也は?」


「僕は魔法使いだから、物理攻撃は苦手なんだ。君たちだけで行ってこいよ。」


「どういう意味?」


「秘密兵器ってことさ。」


倫也は明らかに詳しい説明をする気がなかった。それだけ、試験本番で大きなアドバンテージとなる「切り札」なのかもしれない。凌奈もそれ以上は追及しなかった。


さて、問題は再びリリコに向く。


「わ、あたしは……行くつもりだけど……」


「もっとはっきり言いなさい。」


「大丈夫、行けばいいさ。」


迴が急に口を挟んだことで、姉妹は驚いた。


天才はある「計画」を語り出す。


「考えてみろよ。試験の目的は、少ない合格枠を勝ち取ることだ。で、そのためには大きく分けて二つの方法がある。一つは、自分の実力を高めること。当然、これは基本中の基本。そしてもう一つは──競争相手を排除することだ。」


「あんた、自分が何言ってるかわかってる?」


「怒るなって。俺の考えはこうだ——リリコを練習に参加させて、圧倒的な身体能力の差を見せつける。そうすれば、奴らも『こいつを敵に回したらヤバいかも』って思うだろ?どうよ?」


「おおっ!つまり、あたしも役に立てるってこと?」


「当然だろぷわっ!」


凌奈は廻の頭を拳で殴り、口を閉じさせた。


「それはただの悪質な競争だよ。できれば、そういうことはしない方がいい。リリコ、練習に来たかったら自由に来ていいよ。他の生徒の練習相手にもなれるかもしれないしね。」


「確かに。地下世界最強クラスの物理攻撃力を持つリリコなら、それだけで十分脅威だし。まぁ、自分の実力不足を思い知って辞退する奴が出るなら、それも悪くない。命は大事だからな。」


「……」


「……何?」


倫也が珍しく有用な意見を言ったせいで、全員が違和感を覚えた。


「本当に弓崎倫也なの?」


「ぶった斬るぞ?」


倫也と回がふざけ始める中、凌奈は再び倉庫の中を見回し、ここへ連れて来られた本来の目的を思い出した。そして二人を止め、本題に戻った。


「さて、本題に戻ろう。どうして電磁兵器を使えるようになる必要があるの?」


「試験に持ち込むためだよ。俺は募集試験のルールを確認したんだけど、使用できる武器の制限はなかった。つまり、持ち込めるものは持ち込んだ方が有利だろ?」


「いや、それ絶対ダメでしょ。本来、制限がないのは、受験者のほとんどが学生で、お金もコネもなくて武器なんか手に入らないからでしょ。」


凌奈の正論に対し、回は指を振って反論した。


「でもさ、もしかしたら試験の時に『北門連軍』が銃を支給するかもしれないだろ?忘れるなよ、受験者の中には軍学校の生徒もいる。彼らにとって銃の扱いなんて当然のスキルだ。」


凌奈は反論できなかった。


「まぁ、銃に限らなくてもいい。リリコみたいな近接戦闘型の戦い方もあるし、自分に合った武器を探しておくのは大事だ。必要なら、オーダーメイドもできるしな。」


「……じゃあ、ちょっと見てみる。」


凌奈は倉庫の武器が並ぶ壁へと近づき、銃以外の電磁兵器を探し始めた。


視線を移動させながら、やがて片隅に置かれている円筒形の物体に目を留める。それを手に取ると、それはヌンチャクだった。棍の部分に電流を流すことで、高精度な操作が可能になっている。


ヌンチャクを見たことで、凌奈は自分に合う武器のタイプがなんとなく分かった。しかし、もっと探してみたものの、見つからなかった。


「三節棍はないの?」


「うーん……確か、なかったな。時間があれば作りに行く?」


「どこで作るの?」


「ちょっと遠いけど、15層だな。」


「……」


「……」


「ふざけてるの?」


「いや、大マジだよ。高校生に武器を売ってくれる職人なんて、15層まで行かないと見つからない。それに、割引も効くし、品質も保証付きだ。」


凌奈は大きくため息をついた。どうやら、本当に15層まで行く必要がありそうだった。そして、数回深呼吸をしてから、最も気になることを尋ねた。


「ブラックマーケットって……怖いの?」

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